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旅人と舞姫の再会
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国王に急遽呼び出されたナリスが王宮に到着した時には、すっかり酔いがさめていた。
案内されてヴァランティーヌ王女の部屋に到着すると、満面の笑顔を浮かべた王女と目が合った。
「ティティ・・・君・・・」
ナリスは駆け寄ると彼女の手を取った。
「ナリス様・・・私・・・」
王女はポロポロと涙をこぼした。
「私の事・・・分かるんだね? いつも君に会いに来ていた事覚えてくれているんだね?」
しかし王女は横に首を振る。
そして。
「旅人は・・・戻ってまいりました」
涙声で声を詰まらせながら、王女は何とかそれだけを伝えた。
それを聞いたナリスは目を見開いたかと思うと、王女の身体を抱きしめた。
「アンヌ・・・アンヌか! よく・・・戻ってきてくれた・・・」
そうしてこらえきれずナリスも嗚咽を漏らした。
が、グイっと王女の身体から引き離された。
「ナリス! 馴れ馴れしい! 離れんか!」
青筋を立てた国王が、仁王立ちでナリスの腕を掴み上げていた。
はっと我に返ったナリスは、気持ちを落ち着けて国王に頭を下げた。
「申し訳ありません。つい・・・」
「何がついじゃ!」
怒り心頭の国王に
「お父様、ナリス様を責めないで下さい。お願いいたします」
「む?・・・うむ」
やっと会話を交わすことが出来るようになったヴァランティーヌ王女の一言に、国王はぐっと怒りを抑え、ナリスを邪険に追い払って王女の手を取る。
「可愛いお前が心配なのだ」
あんな人形のような入れ物の私を愛してくれていた国王にヴァランティーヌはふわっと抱き着いた。
「お父様、うれしい・・・ありがとうございます」
「うむ・・・」
国王はまた涙を浮かべる。
「それで・・・ナリス様とお二人でお話がしたいのですが」
「ならん。このような不埒物をお前に近づけるわけにはいかん。そもそもなぜヴァランティーヌはナリスを知っていたのだ? もちろん何度も会っているがお前は何の反応もしなかったではないか。お前はわしや王妃のこともすぐに分かっていたな?」
「陛下。私も王女殿下と言葉を交わすのは初めてです。ですから・・・何が起こったのかお聞きしたい。そのために二人で話す時間をいただけませんか」
ナリスは陛下に願った。
「貴様、絶対に不埒な真似はしないと誓うか?」
これまであんなに可愛がってくれていたというのに王女と親しげなナリスを牽制するよう睨みつける国王にナリスは苦笑して
「誓います」
そう言った。
そうしてドアを開け、その前に護衛を立たせ、国王は運ばせた椅子に座って見張るという環境のもと、ナリスと王女は二人で話す機会を得たのだった。
「・・・君はアンヌだね?」
「はい、ナリス様。こうして・・・戻ってくることが出来ました」
「いったい何があったんだ」
「それが・・・」
白い空間で会ったヤギの話をした。
ヤギに髪を引っ張られて、白い床に開いていた穴から突き落とされて気がついたら、王宮のこの王女の部屋で目が覚めたのだと。
「じゃあ・・・もともとアンヌはヴァランティーヌ王女だったという事か。その君が双子の妹から離れがたかったから、王女がこれまで人形のようだったと・・・」
気まずそうにアンヌ・・・もとい、王女は頷いた。
「もうアンヌは消えてしまったと思った・・・もう二度と会えないかと。良かった。私は舞姫にならなくて済んだんだね」
「ナリス様・・・私も・・・覚悟はしてました。アンジェリーヌに戻りなさいと言いながら、あなたの事だけが心残りでした。・・・姿が変わってしまいましたが・・・お側にいる事を許していただけますか?」
「もちろんだ。逆に君は王女だ、私の方が許可を得なければならなくなった」
それでももう、アンヌが消える事に怯えないですむことに、ナリスは心から安堵した。
「今ほど、公爵家の嫡男であることを嬉しいと思ったことはない。王女が降嫁する条件を満たしているからね」
「ナリス様・・・。自分がヴァランティーヌ王女として目覚めた時、とても驚きました。すぐに両陛下が来てくださって親子として振る舞いましたが、心細くてたまりませんでした。ナリス様に会いたかった」
涙ぐむヴァランティーヌ王女を思わず抱きしめた。
とたん、怒鳴り声とともに国王がダッシュで駆け付けナリスを引き離した。
「貴様!」
しかしナリスはすました顔で立ち上がると、
「陛下、以前いただきました王女殿下と公爵家の縁談の打診、謹んでお受けいたします」
大昔に、しょっちゅう王女に会いに来てくれていたナリスに、国王が冗談半分でもらってやってくれぬかと聞いたことがあった。
しかしすぐに、
「悪かった。少し夢を見たかっただけなのだ。この哀れな娘に・・・。形だけつくろってもこの子にとっては意味のないことなのにな。忘れてくれ。」
国王はそう言って寂しげに笑ったのだった。
「な、なにを言う。あれは昔の話だ。もう王女は誰にもやらん。これまでの分、わし達とここで暮らす。な? ヴァランティーヌ?」
「・・・お父様。私、ナリス様のお側にいたい」
「・・・」
「お父様?」
「わしも年かな、幻聴が聞こえるようになってな。やれやれ」
そう言いながら立ち上がると部屋を出て行こうとし、ナリスにももう夜が遅いから帰るように告げた。
「ティーヌも疲れているだろう。これからゆっくり過ごす時間はあるのだ、今日はゆっくり休みなさい」
「陛下、どうか今晩ティティの側につかせてください」
ナリスが縋るが
「本当に年は取りたくないのぉ。さ、ナリスも親御さんが心配されるだろう。帰ってやりなさい」
急に年老いた好々爺のようになった国王は騎士に、ナリスを玄関まで送り届けるように命じた。
「陛下!」
「ナリス様、今日はありがとうございました。私もさすがに身体の方が疲れているようです。またお時間のある時に来てくだされば嬉しいですわ」
王女のその言葉に国王は深く頷き、ナリスも仕方なく帰ったのだった。
突然のヴァランティーヌ王女の覚醒に驚き、涙した国王だったが、それからも驚くことばかりだった。
言葉も知識もマナーも生活の仕方でさえ何も知らないはずの王女が、皆と軽やかに会話をこなしている。そして城外の事でさえよく知っている。
そして初めは力も体力もないから一人で歩くことは叶わなかったが、それでも早く動けるようにと頑張る王女の姿はこれまでお側で世話をしていたものの涙と庇護欲を刺激し、皆の協力の元、ヴァランティーヌ王女はどんどん元気になっていった。
おかげで、今では一人で歩き女王と庭でお茶ができるまでになっていた。
おまけに公爵家のナリスが日を置かずに王女に会いに来る。二人の様子を見ていると、お互いに想い合っているのが良くわかる
両親である自分や王妃にでさえ気を使い、時には恐れ多いという態度をとるのに、ナリスにはすでに心が通じ合った恋人のように接するのだ。
「ぬうっ。ナリスはM.アッサンであるアンジェリーヌ嬢に惚れておったではないか」
「でもアンジェリーヌ嬢の意識が戻った後は、もう会いに行っていないようですわ」
苦々しく言う国王に王妃は伝える。
「やっと元気になった娘とこれから家族として過ごせるというのに・・・ナリスの奴め」
ナリスを敵視する国王に、
「ナリスならあの子を幸せにしてくれますわ。何より、あの子が望んでいるのですもの」
そう言った王妃の一言で、二人は婚約をすることが出来たのだった。
そして国王には気になって気になって仕方がないことがもう一つあった。
ある日、王女の部屋から歌声が聞こえてきたのだ。
耳を澄ますと、あの日アンジェリーヌ嬢がヴァランティーヌ王女に歌ってくれた歌だった。
なぜヴァランティーヌがアッサンの歌を歌えるのか。
なぜ、あの日駆けつけてきたナリスが王女の事をアンヌと呼んだのか。
なぜ二人は初めから親しげだったのか。
なぜ、アンジェリーヌを熱い目で見ていたナリスが、彼女の事を忘れたように王女に同じ視線を向けるのか。
疑問しかないが、しかしその疑問はすべて何か一つの事を示していた。
しかし、国王は首を振ると、そんなことはどうでもいいと思った。娘とこうして話して一緒に過ごせるだけでいい。そこにどんな神の采配があったのかは知らない。
荒唐無稽な仮説はあるが、自分はただ娘を愛し、幸せになるよう見守るだけだ。
案内されてヴァランティーヌ王女の部屋に到着すると、満面の笑顔を浮かべた王女と目が合った。
「ティティ・・・君・・・」
ナリスは駆け寄ると彼女の手を取った。
「ナリス様・・・私・・・」
王女はポロポロと涙をこぼした。
「私の事・・・分かるんだね? いつも君に会いに来ていた事覚えてくれているんだね?」
しかし王女は横に首を振る。
そして。
「旅人は・・・戻ってまいりました」
涙声で声を詰まらせながら、王女は何とかそれだけを伝えた。
それを聞いたナリスは目を見開いたかと思うと、王女の身体を抱きしめた。
「アンヌ・・・アンヌか! よく・・・戻ってきてくれた・・・」
そうしてこらえきれずナリスも嗚咽を漏らした。
が、グイっと王女の身体から引き離された。
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はっと我に返ったナリスは、気持ちを落ち着けて国王に頭を下げた。
「申し訳ありません。つい・・・」
「何がついじゃ!」
怒り心頭の国王に
「お父様、ナリス様を責めないで下さい。お願いいたします」
「む?・・・うむ」
やっと会話を交わすことが出来るようになったヴァランティーヌ王女の一言に、国王はぐっと怒りを抑え、ナリスを邪険に追い払って王女の手を取る。
「可愛いお前が心配なのだ」
あんな人形のような入れ物の私を愛してくれていた国王にヴァランティーヌはふわっと抱き着いた。
「お父様、うれしい・・・ありがとうございます」
「うむ・・・」
国王はまた涙を浮かべる。
「それで・・・ナリス様とお二人でお話がしたいのですが」
「ならん。このような不埒物をお前に近づけるわけにはいかん。そもそもなぜヴァランティーヌはナリスを知っていたのだ? もちろん何度も会っているがお前は何の反応もしなかったではないか。お前はわしや王妃のこともすぐに分かっていたな?」
「陛下。私も王女殿下と言葉を交わすのは初めてです。ですから・・・何が起こったのかお聞きしたい。そのために二人で話す時間をいただけませんか」
ナリスは陛下に願った。
「貴様、絶対に不埒な真似はしないと誓うか?」
これまであんなに可愛がってくれていたというのに王女と親しげなナリスを牽制するよう睨みつける国王にナリスは苦笑して
「誓います」
そう言った。
そうしてドアを開け、その前に護衛を立たせ、国王は運ばせた椅子に座って見張るという環境のもと、ナリスと王女は二人で話す機会を得たのだった。
「・・・君はアンヌだね?」
「はい、ナリス様。こうして・・・戻ってくることが出来ました」
「いったい何があったんだ」
「それが・・・」
白い空間で会ったヤギの話をした。
ヤギに髪を引っ張られて、白い床に開いていた穴から突き落とされて気がついたら、王宮のこの王女の部屋で目が覚めたのだと。
「じゃあ・・・もともとアンヌはヴァランティーヌ王女だったという事か。その君が双子の妹から離れがたかったから、王女がこれまで人形のようだったと・・・」
気まずそうにアンヌ・・・もとい、王女は頷いた。
「もうアンヌは消えてしまったと思った・・・もう二度と会えないかと。良かった。私は舞姫にならなくて済んだんだね」
「ナリス様・・・私も・・・覚悟はしてました。アンジェリーヌに戻りなさいと言いながら、あなたの事だけが心残りでした。・・・姿が変わってしまいましたが・・・お側にいる事を許していただけますか?」
「もちろんだ。逆に君は王女だ、私の方が許可を得なければならなくなった」
それでももう、アンヌが消える事に怯えないですむことに、ナリスは心から安堵した。
「今ほど、公爵家の嫡男であることを嬉しいと思ったことはない。王女が降嫁する条件を満たしているからね」
「ナリス様・・・。自分がヴァランティーヌ王女として目覚めた時、とても驚きました。すぐに両陛下が来てくださって親子として振る舞いましたが、心細くてたまりませんでした。ナリス様に会いたかった」
涙ぐむヴァランティーヌ王女を思わず抱きしめた。
とたん、怒鳴り声とともに国王がダッシュで駆け付けナリスを引き離した。
「貴様!」
しかしナリスはすました顔で立ち上がると、
「陛下、以前いただきました王女殿下と公爵家の縁談の打診、謹んでお受けいたします」
大昔に、しょっちゅう王女に会いに来てくれていたナリスに、国王が冗談半分でもらってやってくれぬかと聞いたことがあった。
しかしすぐに、
「悪かった。少し夢を見たかっただけなのだ。この哀れな娘に・・・。形だけつくろってもこの子にとっては意味のないことなのにな。忘れてくれ。」
国王はそう言って寂しげに笑ったのだった。
「な、なにを言う。あれは昔の話だ。もう王女は誰にもやらん。これまでの分、わし達とここで暮らす。な? ヴァランティーヌ?」
「・・・お父様。私、ナリス様のお側にいたい」
「・・・」
「お父様?」
「わしも年かな、幻聴が聞こえるようになってな。やれやれ」
そう言いながら立ち上がると部屋を出て行こうとし、ナリスにももう夜が遅いから帰るように告げた。
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「陛下、どうか今晩ティティの側につかせてください」
ナリスが縋るが
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「ナリス様、今日はありがとうございました。私もさすがに身体の方が疲れているようです。またお時間のある時に来てくだされば嬉しいですわ」
王女のその言葉に国王は深く頷き、ナリスも仕方なく帰ったのだった。
突然のヴァランティーヌ王女の覚醒に驚き、涙した国王だったが、それからも驚くことばかりだった。
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そして初めは力も体力もないから一人で歩くことは叶わなかったが、それでも早く動けるようにと頑張る王女の姿はこれまでお側で世話をしていたものの涙と庇護欲を刺激し、皆の協力の元、ヴァランティーヌ王女はどんどん元気になっていった。
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「ぬうっ。ナリスはM.アッサンであるアンジェリーヌ嬢に惚れておったではないか」
「でもアンジェリーヌ嬢の意識が戻った後は、もう会いに行っていないようですわ」
苦々しく言う国王に王妃は伝える。
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そして国王には気になって気になって仕方がないことがもう一つあった。
ある日、王女の部屋から歌声が聞こえてきたのだ。
耳を澄ますと、あの日アンジェリーヌ嬢がヴァランティーヌ王女に歌ってくれた歌だった。
なぜヴァランティーヌがアッサンの歌を歌えるのか。
なぜ、あの日駆けつけてきたナリスが王女の事をアンヌと呼んだのか。
なぜ二人は初めから親しげだったのか。
なぜ、アンジェリーヌを熱い目で見ていたナリスが、彼女の事を忘れたように王女に同じ視線を向けるのか。
疑問しかないが、しかしその疑問はすべて何か一つの事を示していた。
しかし、国王は首を振ると、そんなことはどうでもいいと思った。娘とこうして話して一緒に過ごせるだけでいい。そこにどんな神の采配があったのかは知らない。
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