所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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行方不明だった姉の帰還

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 二年前・・・

 十四歳のセシルはその日、婚約者のリオネル・オベールの屋敷に遊びに行っていた。
 幼いころに結ばれた婚約だったが、リオネルが兄のサミュエルと友人だったこともあり二人は仲が良かった。
 三人で楽しい時間を過ごし、屋敷に帰ってきた時、屋敷はずいぶんと慌ただしい雰囲気に包まれていた。 

「母上、何かあったのですか?」
 応接室で、泣きはらした目をハンカチで押さえている母に兄のサミュエルが聞く。
「・・・ええ。まだはっきりわからないのだけど、もしかしたら・・・アナベルが生きていたかもしれないって。」
「なんですって?!アナベルが!」
 兄のサミュエルも驚いて母に詰め寄る。
「どういうことですか?どこに?どうしていたんですか?」
「まだはっきりしたことはわからないの。連絡が入って、お父様が調べに向かったわ。」
「・・・そうですか・・・まさか・・そんな奇跡が。」
 サミュエルが目頭を押さえる。

「あの・・・お兄様。アナベルって?」
「あ・・ああ。セシルは知らないものな。」
 戸惑うサミュエルにかわり母がセシルを呼んで隣に座らせる。
「ねえ、セシル。あなたの姉が帰ってくるかもしれないのよ?」
「お姉さま?」
「そうよ。小さい時に行方不明になってね。もう死んだとあきらめていたの・・・でも生きているかもしれない。戻ってくるかもしれないのよ。」
「私にお姉さまが・・・早くお会いしたいです。どんな辛い思いをされていたかと思うと・・・」
 セシルは涙を落とす。そんなセシルを母は抱きしめてくれた。



 そして数日後、幼いころに行方不明になっていたというアナベルが十三年ぶりにシャリエ子爵家に戻ってきた。
 行方不明になった時に、身につけていたブローチが決め手になったのだ。

 アナベルは十三年前にお祭りに行った時に家族や護衛とはぐれそのまま戻ってこなかった。必死の捜索にも見つけることが出来ず、人さらいに連れ去られたという結論になり、子爵家を悲しみのどん底に突き落とした。
 養い親と暮らしていたアナベルは平民としてあまり豊かではない暮らしをしていたようだ。養い親は、道端に捨てられていた幼いアナベルを保護しそれ以来面倒を見ていたという。
 そして、アナベルを連れて街で屋台を出し、野菜などを売っている時、行商人がセシルのつけていたブローチに目を止めて貴族の紋章だと告げたことから今回身元が判明したのだ。

 シャリエ家の皆はアナベルの帰還を喜び、屋敷中が幸せに包まれた。
「お父様、お母様、お兄様・・・お会いできてうれしいです。これからよろしくお願いします。」 
 涙ながらに頭を下げるアナベルに皆も涙を落とす。
「アナベル、本当に無事でよかった。これからは何も心配しなくても大丈夫だからな。お前は初めてだろうが妹のセシルだ。戸惑うことも多いだろうがセシルがいるから心配いらない。」
「アナベルお姉さま、初めまして。お会いできてうれしいです。」
「セシル・・・私の妹。私も会えて嬉しいわ。私は平民として育ったので、ここでの暮らしが不安なの。よろしくね。」
「はい!」
 そうして希望に満ちた新たな生活が始まった・・・はずだった。



 セシルは自分の部屋で泣いていた。
 両親に怒られ、謹慎させられている。心当たりなど何もないのに誰もかばってくれなかった。
 急に現れた姉に親の愛情を奪われたからと言って、嫉妬してアナベルをいじめるなど情けない、と怒られた。
「マナーが悪いだの所作が汚い」など平民として暮らしていたアナベルを嘲笑するなど、酷いことを言ってはいけないと両親に叱られる。
 セシルは全くそんな覚えがなかった。それどころか仲良くなりたいと話しかけるだけなのにアナベルがセシルにひどい事をいわれたと泣いて両親に訴えるのだ。

「いつもセシルに陰で意地悪をされている。自分はセシルを可愛がりたいのに、汚らしいと言われて近寄らせてくれない。やはり平民として育った自分にはここで暮らす資格はないのだ」と言い、元の家に戻ると泣くアナベルに、両親は逆上した。
「どれだけアナベルが辛い思いをしてきたのか、わからないのか。もっと姉を思いやり、貴族の生活について教えてやりなさい」とセシルはずいぶん両親にお説教をされた。

「いじわるなんかしたことがないのに・・・。お姉様の嘘つき。」
 逆にアナベルから嫌がらせをされているのは自分の方なのに。
 家族がいるときは可愛らしい笑顔でセシルにも話しかけるのに、二人の時は返事もしないどころか突き飛ばされ、物も勝手に持っていかれる。
 挙句、
「これ・・・捨てられていたからもらってもいい?私にはこんな高価なもの似合わないけど・・・大切にするから。」
 そう言って、両親の前でアナベルが大切そうにアクセサリーを握りしめる。
 それはセシルがお父様に買っていただいて大切にしていたネックレス。
 捨てるはずがない。
「お姉さまが勝手に盗んだんじゃない!捨てるはずがないでしょう?!」
 悔しくてセシルが怒鳴ると、アナベルはポロポロ泣いて
「そんな・・・わたし・・・もったいないからと拾っただけで・・・ごめんなさい! 私みたいな平民がこんな高価なものふさわしくありませんよね?ごめんなさい!」
 そう言って震える手でネックレスをセシルに差し出した。

(え?そんなこと言ってない。ただ返してほしかっただけなのに)
 そう思いながらセシルがアクセサリーを受け取ろうとしたとき、頬に激し痛みを感じた。
 父から生まれて初めて叩かれたのだ。
「お父様・・・」
「嘆かわしい。お前はどれだけアナベルが辛い思いをしたのか、まだわからないのか!」
「お父様!私は何も・・・」
「黙りなさい。アナベルに謝りなさい!」
 アナベルが奇跡の生還を果たしてから、これまでの分を取り戻そうとアナベルを溺愛している両親は、アナベルの事を盲目的に信じた。
 セシルが何を言っても、アナベルがそんな嘘をつくわけがないと聞き入れてもらえなかった。

 それ以降も、たびたびアナベルは嘘をつき、どんどんセシルを追い込んでいった。
 いつの間にか家族の輪の中にセシルが入れなくなるほどにアナベルは家族から愛情を一心に受けるのだった。
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