所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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演じます

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「頼む、どこにも行かないでくれ。お前までいなくなれば子爵家は終わりだ。」
 父親は大切な、愛する家族が壊れていくことを憂いた。
 あきらめていた娘が戻ってきて、五人でこれからはもっと幸せになると信じて疑わなかった未来が崩壊してしまった。
 父はせめて残った大切な家族と子爵家を守りたかった。傷つけてしまったセシルを幸せにすることが自分の使命だと思っていた。

 しかし、セシルはそうは受けとらなかった。

 ああそうか、そういうことだ。私のためじゃない、子爵家のためだ。
 実の娘が戻ってきた奇跡を喜びとともに周囲に吹聴していたせいで、アナベルの社交界デビューを誰もが待っていた。だからアナベルが表舞台から去ることになった言い訳を考えないといけない。
 加えて、セシルまでが家を出たと世間に知られると何か醜聞があったと勘繰られるのを恐れているのだ。

 そして放り出された血のつながりのない娘が、受けていたひどい仕打ちを世間に告発でもしようものなら子爵家は破滅だ。諸外国との交易に携わっている子爵家はこれまで王家の信頼が厚く、その信頼が業績を上げている。
 王家や世間の信用を失わないために、私を外に出すわけにはいかないのだろう。
 領民のために、つつがなく慰謝料を支払ってもらうために子爵家が傾くのは本意ではない。
 

「では・・・今後もここで暮らします。が、娘という役割を果たす代わりにその対価をいただけますか?」
 セシルはすぐに家を出るのは難しいことはわかっていた。それまでの準備期間としてこの屋敷に滞在せざるを得ないのなら、それを利用しようと思った。
 もう家族としては暮らせない、それは確か。それでもここで暮らさねばならないのならこれを仕事にすればいい。
 家族なんて感情はもう壊れてしまったけど、仕事ならなんとかなるかもしれない。
 対価を貰ってこれまで通りの娘を演じる。子爵家にとっても私にとってもまあまあの折衷案だろう。

「何を・・・」
 シャリエ子爵は理解ができなかったという風に、セシルに聞き返す。
「子爵家の娘としてしっかりと演じ切りますのでその給金を払って欲しいのです。そうすれば家を出て仕事を見つける必要はありませんし、子爵家の醜聞も外に漏れません。それを慰謝料に当ててもいいですよ。」
 父は悲しそうな顔で拒否したが、セシルの心は揺るがなかった。

「仕事を紹介してもらえず、娘役として雇ってももらえないのなら、このまま出て行ってのたれ死ぬ方がましです。」
 そう言った私にひどく傷つけられた顔をして、娘として過ごしてほしい・・・給金も支払うとシャリエ子爵は震える声で言った。
 そしてその時から私は、以前のように父と兄を愛する可愛い娘を演じ始めたのだった。
 精神的に始めはきついものがあったが、大金と引きかえよ!と自分に言い聞かせながら次第に自然に笑えるようになっていった。


 世間的には、アナベルの事は、娘だと思って引き取ったが、実は赤の他人だったという事にした。
 ブローチをたまたま手に入れた親子が、金の為に娘の振りをしていたと子爵家が同情を集めるような話で収め、そしてその事実に胸を痛めた母は、ショックで寝込んでしまい領地療養することになったと。
 そしてアナベルをいじめていたと方々で貶されていたセシルだったが、それもその少女の虚言だったということで世間から同情を買ったのだった。


 数日がたち、リオネルが両親と一緒にやってきた。
 真っ青な顔で頭を下げた。
「ごめん、セシル!君がそんな人間じゃないとわかっていたのに!僕はすっかり騙されてしまって・・僕を許してくれ。」
 両親であるオベール夫妻も頭を下げる。
 私のような身分下の小娘に頭など下げる必要ないのになあと思いながらそれを見る。

「セシル嬢、愚息が申し訳なかった。あの詐欺師のような女との婚約はもちろん無効だ。そもそもセシル嬢との婚約を解消する必要など何もなかったのだ。だからまた元に戻るだけだ、愚息を許してやってくれ。」
「私のようなものに頭を下げる必要はありませんわ。私が未熟で不甲斐ないせいでこんなことになってしまったのですもの。」
「そうか!では許してくれるか!」
「もちろんです。」
 三人はほっとしたように頬を弛める。

 どうせ子爵家の財産狙いだろう。伯爵と言っても財産があるとは限らない。
うちは子爵だが父の経営手腕が素晴らしいおかげでかなりの資産を築いているし、王家の覚えもめでたい。
 私がオベール家の嫡男に嫁ぐことで融資なり援助なりを期待しているのだろう。
 でも、そうは問屋が卸さない。
「ただ痂疲のある私ですから、由緒ある伯爵家に嫁ぐことは出来ませんわ。ですからリオネルさまとの再婚約は不可能です。申し訳ありません。」
「何を言う、セシル嬢に痂疲などどこにもない。君が素晴らしいことはよくわかっている。」
「そうだよ。セシル、愚かなのは僕の方だ。君を愛しているのに・・・君の姉だということで気を許してしまっていたんだよ。君を愛するあまりショックを受けてしまって・・・騙されたんだ。」
「いえ、そんなことはどうでもいいのです。私、命を落としかけました。それがきっかけで人の心が読めるようになったのです。」
 突然セシルは突拍子もないことを言い始めた。

「は?」
「たとえば、リオネルさまは私なんて愛していないけどシャリエ家の支援目当てにどうしても結婚したいとか。」
「なんてことを言うんだ!そんなわけはないだろう。」
「そうだ、こちらが悪いのは承知だがあまりにも無礼ではないか。」
 オベール伯爵の顔が険しくなる。
「そうですか?伯爵領の鉱山の産出量が少なくなってるんでしょう。それから鉱山付近の作物が枯れて農作物の生産量が減っている。隠しているけど、シビアな状況なんじゃないですか?」
 オベール伯爵は目をむいてセシルを見た。
「・・・なぜそれを・・・」
「ですからね、子爵家の支援目当てに婚姻を結びたがるのはわかりますが、このように私はホイホイ心を読みますよ。そんな私でいいのですか?伯爵の他の秘密もうっかり口を滑らせて・・・」
「もういい!リオネル、お暇するぞ!どうやら縁がなかったようだ、失礼する!」
「父上!私は本当にセシルの事を好いております!」
「このような気味の悪い女を我が伯爵家に迎えることは出来ん!」
「本来なら、婚約解消と私の心を傷つけた慰謝料をいただくところなのですが、今この限り縁を切っていただけるのなら請求いたしません。」
 伯爵夫妻はさらに気分を害し、リオネルを無理やり連れて帰った。

 残念、一つ慰謝料請求先を減らしてしまった。
 だけど、あの家とは縁を切っておかないとまずい。
「セシル・・・今のは一体。お前はリオネル殿を想っていたのではないのか?」
「まさか。私を信じてくれず、さっさとアナベルに乗り換えて私を非難し、また今度は悪かったと復縁を求めるような最低な男をですか?」
「・・・その通りだ。しかし心を読めるとは・・・」
「嘘ですよ、そんなの。かまをかけました。」
「だが、伯爵の領地状況をあれほど詳しく・・・」
「あれは独自の情報ルートで知っていただけです。」
 もちろんそんな独自ルートはない。
 ゲームで婚約者がそう言う状況だったことを知っていただけ。

 ゲーム内でもセシルの婚約者だったリオネルはセシルが断罪されるとすぐにアナベルに求婚する。
 しかし、伯爵家は鉱山を掘りつくし、産出量が減少すると焦って手当たり次第に掘るようになってしまった。処理をきちんとされない毒を含んだ汚水が流れ出て麓の土地を汚染し、農作物迄取れなくなってきていた。根本的な解決方法も取れず領地の経営は悪化していくのだ。
 そのためにどうにかしてシャリエ家と婚姻を結びたかったオベール伯爵家だったが、兄サミュエルの友人のマルクがその情報を伝えてくれたおかげで婚姻を回避。
 アナベルは兄の友人マルクと結婚し幸せになるというエピソードがエンディングで流れていた。

「・・・そうか。私の気持ちを読めるのであれば、お前への気持ちを正しくわかってもらえると思ったのだがな。」
「まあ、お父様。気持ちなど読まなくてもわかっておりますよ。」
 セシルはにこっと笑って父の憂いを取り除く。
 法外な給金を払ってくれる雇い主に、可愛い娘としてセシルはにっこりとほほ笑んだのだった。

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