所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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平穏な二年間・・・そして

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 そしてそれから二年の間、シャリエ子爵とサミュエルはセシルを娘として、妹として大切にした。

 サミュエルは、結局寄せられる縁談をすべて断り、相変わらずセシルを食事や物見などに連れていき、彼女が楽しい日々を送れるように心を砕いた。
 シャリエ子爵も、事あるごとに困ったことがないか不安はないかと気にかけた。ドレスやアクセサリーを惜しみなく贈り、パーティに同席させては心配性の父親よろしく構い倒し、近寄る令息たちを牽制した。

 セシルもすっかりとその状況に慣れ、愛娘、可愛い妹として笑顔で対応した。
「大変でしたね」という周囲の人々にも、父と兄の慧眼と手腕のおかげで事なきを得た。二人を尊敬していると褒め立てるのを忘れなかった(報酬をくれる雇い主だから)
 おかげで、平民ごときに謀られたと一時評判が下がっていたが、実際は子爵自身がひそかに疑い調べていたのだ、ということになり、シャリエ子爵の評判は元に戻っていったのであった。
 三人の生活は、あんなことがあったとは思えないほど穏やかだった。


 そしてついにセシルが成人の儀を迎えるデビュタントの日がやって来た。
「誰よりもきれいだよ、セシル。」
「ありがとうございます。お兄様が側にいて下さるので安心ですわ。」
 穏やかな笑顔で兄を見上げる。
 うれしそうなサミュエルは自慢の妹を友人たちに紹介して回る。
 そしてダンスの時間になるとサミュエルはセシルの手を取り、ダンスを願い出る。
 美しい二人の兄妹のダンスに皆が注目し、曲の終わりとともにそれぞれに次のお相手をと令嬢令息が囲む。
「お兄様、踊ってらして。私は初めてで緊張しているので少し休ませていただきます。」

 来月、セシルは十六歳になる。先だって王宮で行われる成人の義は今日こうして済ますことが出来た。
 あとは来月の誕生を迎えれば、もういつでも家を出られる。
 そのための準備はしてきた。
 父と兄とはとても仲良く過ごしている。きっとまだ私がわだかまりを持っているなど思いもしないだろう。それだけ完璧に家族として演じてきたつもりだ。
 父は、アナベルとマノンを領地に幽閉したことで、セシルに対して責任を果たし、罪を償えたと安心している。

 でもセシルは知っている。領地の母とアナベルに父が頻繁に会いに行っていること。幽閉とは名ばかりであちらで大切にしていることを。
 でも可哀そうな生い立ちの娘を、大切にしたいと思う気持ちは当たり前だから、私が文句を言うことではない。それにアナベルも被害者なのだから、気の毒にも思う。
 だからと言って私を陥れたり、殺そうとしたことは話は別だ。

 セシルは、いつ何時、子爵家の都合でまた捨てられるかもわからないという覚悟を胸に、優秀な娘の役割を果たしてきた。どれだけ大事にしてもらってもそれだけは忘れないようにして生きてきた。
 セシルが優秀なのは、この身分でいられる間に吸収できるものは吸収してしまいたいという貪欲な思いからだ。平民になってからは身につけることが出来ないことを必死で学び身につけてきた。
 これから一人で生きていく上で、これらの知識は財産となり、自分を助けてくれるだろうから。

 そんな事をぼんやりと考えていると一人の令息が話しかけてきた。
「先ほどのダンス、お見事でした。」
「ありがとうございます。」
「あなたはもう婚約者が?」
「いいえ。あまり興味がありませんの。」
「でももう成人になられたのならそろそろ決めないとお相手が見つからなくなりますよ。僕などいかがでしょうか?」
「お気持ちは嬉しいのですが私はまだ・・・」
 その令息は声を潜めると
「ね、セシル様。復讐したくはありませんか?」
「え?」
「一時シャリエ家に実の娘が戻ってきたと社交界で騒ぎになりましたよね。」
「・・・ええ。」
「その後、偽物だったということですが。あれ、本当は実の娘だったけどその子があなたを害したから幽閉されているのでしょ?」
「・・・」
「やはり本当でしたか。家族もあなたを虐げたとか・・・ね、だから僕と手を組んで彼らに復讐しましょう。そして僕は婿養子として子爵としてあなたを支えます。」

 なるほど、この男は男爵家か子爵家以上でも嫡男以外だろう。
 うちを辞めていった使用人でも雇い、話を聞いたのだろうか。
 面白い醜聞を耳にし、それをネタにしてサミュエルを嫡男から退くよう脅せると踏んだのかもしれない。

「いえ?何のお話でしょうか。逆に私が姉をいじめて追い出したのですよ。追い出して正解でした、他人だったのですもの。」
「そんなかばう必要ありませんよ。彼らはあなたを殺そうとした、違いますか?」
 そう言って腕を掴んでくる。
「やめてください!」
「悪いようにはしません、ただ僕と婚約を・・・」
 言いつのる令息に少し恐怖心を感じた時
「やめないか。令嬢に暴力をふるうとは何事か!」
 騎士服に身を包んだ長身の男性が令息の腕を掴み、引き離してくれた。

「痛っ!放せ!」
「二度と女性に絡まないか?次見つけたら拘束する。」
「わ、わかった!二度と近づかない!」
 騎士から解放された令息は慌てて逃げていった。
「ありがとうございました。」
「いえ、警備中でしたので。私はこの会場の警備を任されているアルフォンスと申します。あなたのパートナーの所までお送りいたしますよ。」
「いえ、大丈夫です。兄がダンス中なので。」
「そうでしたか。ではこの曲が終わるまでお側におります。」
 仕事の邪魔をしてしまうからとセシルは固辞したが、これも仕事ですからと兄が戻ってくるまで生真面目な騎士は側にいてくれた。

 そんな彼に感謝しながら、セシルは貴族令嬢としてもう二度と踏み入れることのない王宮の広間を様々な思いを抱きながら、眺めたのだった。
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