所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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総団長の思いやり

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 サミュエルが寄付についていろいろ調べて来てくれた。
 貴族が定期的に寄付をするのは構わないが、セシルのように一見平民に見える個人が大金を寄付すると目を付けられてどんな犯罪に巻き込まれるかわからないという事だった。
 出来れば、何度か教会や孤児院にお手伝いに行き、その施設の運営状況や子供たちと施設側との関係など確認してから寄付先をきめる。そして交流の中で必要なものでかつ、日頃手が回らない物を寄付するのが一番ではないかと話してくれた。

 サミュエルはセシルが遠慮したのにもかかわらず、いくつかの孤児院へと一緒に向かってくれた。
 その中で、いろんな条件からサミュエルが選んだ孤児院へ何度か通ううち、セシルは子供たちと仲良くなり、読み聞かせやお人形遊びなど一緒にするようになった。そしてサミュエルも男の子たちのかけっこやボール遊びをしたり、シスターに話を聞いたりした。
 子供たちの様子や話しを聞いて、彼らのサイズが合う衣服や靴を寄付することにした。実用的な服に加えて、楽しめるように可愛いリボンや小さい蝶ネクタイなどの小物も用意してみた。
子供たちはそういう生活必需品ではないときめく物を手にする機会が少ないから、非常に喜んでくれた。

 こうして孤児院に通うのも慣れたころ、セシルは時々一人で訪れるようになった。いつまでも忙しい子爵家嫡男のサミュエルに時間をとってもらうわけにはいかないからだ。
 そして一人の気楽さと、自分の人生を色々考えるためにも隣にある教会に寄るようになった。
 今日も教会に寄り、心静かに祈りを捧げる。
 そして、そっと席を立った時、離れた席から誰かが頭を下げたのに気がついた。
 セシルは頭を下げ、なんとなく一緒に教会の外に出た。

「偶然ですね」
「はい。私は孤児院からの帰りなのですが、ヴァロワ総団長はよく教会に?」
「ええ、ときどきこうして一人で来ては祈っています。ああ、セシル嬢、私の事はアルフォンスで構いませんよ。」
「そんな恐れ多いです。」
「家名で呼ばれるのは余り好きではありませんので、その方が助かります」
 そう言われてしまうと仕方がない
「わかりました、アルフォンス総団長と・・・」
「いえ、あなたは部下ではありませんからアルフォンスかアルとでもお呼びください」
「とんでもありません! では、失礼ですがアルフォンス様と呼ばせていただきます。」
 アルフォンスは笑顔を浮かべて頷いた。

 セシルは孤児院に通っていることを報告した。そしてサミュエルに相談に乗ってもらい、いろいろお世話になり交流していることを伝えた。
 この事件に親身になってくれたアルフォンスには話すべきだと思ったのだ。
 アルフォンスは思った通り、喜んでくれた。直属ではないとはいえ、騎士団所属の部下がしでかしたことも気にかけ、頼る者が誰もいないセシルの事をずいぶん心配してくれていたのだ。
「そうですか、兄上と一緒に・・・。よかった・・・セシル嬢、せっかくの縁です、何かの折は私も力になりますからいつでも頼ってくださいね」
「あ、ありがとうございます。」
「そう言えば以前いただいたクッキー、大好評でした。ありがとうございました」
「うれしいです、あとからお恥ずかしいことをしてしまったと反省しておりました。」 
「あれは本当に美味しかったですよ。甘いクッキーなど孤児院の子供たちは口にすることが少ないでしょうから嬉しいかもしれません。」
「ああ、本当ですね! 今度作って持っていきます、ありがとうございます」
「クッキーのつくり方や包装の仕方も教えてあげれば、彼らの今後に生かされるかもしれません」
「アルフォンス様、ありがとうございます。私にできる事があるのは嬉しいです。初めは・・・慰謝料ばかり増えていくのが嫌で寄付する事にしたのですが、通っているうちに他に出来ないかと思っていたので嬉しいです。」
「実際つくるのはシスターや協力者になるでしょうが、包装することは出来ますし、それをもし販売することが出来れば子供たちにも達成感や喜びを得られるかもしれません。」
「アルフォンス様は先まで見ておられるのですね。私など目先の事しか見えていなくて・・・お恥ずかしいです。」
「いいえ、あなたが孤児院へ通っていると聞いて思いついただけですよ。私はこれまで関わってこなかった事が恥ずかしい。」
「でも・・・私の動機は不純ですから。最初はいくらでも慰謝料とって、悠々自適に暮らしてやるなんて思っていたのですが・・・もうそんなお金など手元に置いておきたくなりました。だから自己満足です。」
「動機はどうであれ、素晴らしいことですよ」
「そう言っていただけると、少し胸が軽くなりました。ありがとうございます。」
「セシル嬢。今度またお店に伺ってもいいかな?」
「もちろんです、お待ちしています! あ、でも私の事はセシルではなくシルとお呼びください」
「わかりました、ではまた」
 そう言ってアルフォンスと別れた。



 数日後、アルフォンスは本当に私服で店に現れた。
 今日の仕事は休みで、神殿に行った帰りだそうだ。
「神殿まで? 随分遠いと聞いておりますが」
「馬で行けばさほどでもないよ。」
 そう言って疲れも見せず、優雅なしぐさで紅茶を飲むアルフォンスはみんなの注目の的だ。
 昼を過ぎ、客の数はまばらではあるが、みんなちらちらとみている。どう見ても高位貴族に見えるアルフォンスがなぜこんな庶民の店にと興味津々なのである。
 アルフォンスはありがとうとルルに支払いをした後、セシルに小さな袋を渡した。
「なんですか?」
「おまもりです、あなたがこの先ずっと笑っていられるようにと」
「え?」
 戸惑っているうちにアルフォンスは出て行ってしまった。
 セシルが袋からお守りを取り出すと、神殿のシンボルマークがついたネックレスだった。
 ルルが
「いい男だねえ」
といった声で、我に返りお礼を言いそびれたことに思い至ったのだった。
 しかし、それ以降も教会や店で顔を合わせる機会が増えていった。

 だが、アルフォンスは事件の事やシャリエ家の事など一切口にしなかった。
 騎士団の話や各地の名所や名物、ワクワクするような話など話題豊富で、もっとお堅くてとっつきにくいと思っていた予想がいい意味で裏切られた。
 今日も教会であってから、お茶を飲みたいからとセシルの店まで送ってくれた。
 ルルはニコニコとアルフォンスを大歓迎し、いそいそとセシルのお茶まで運んでくる。
 お茶を飲みながら、セシルはなぜお守りをくれたのか聞いてみた。
 しばらく黙っていたアルフォンスだったが・・・
「あなたが気にしないかと心配ですが・・・大丈夫ですか?」
「・・・はい。」
 セシルは気軽に聞いたが、思ったより深刻な話になるかもしれないと居住まいをただした。
「私はね・・・」

 アルフォンスはヴァロワ家の次男として生まれた。少し年の離れた兄がいたが、兄は優秀で両親から非常に期待されていた。
 ある日、アルフォンスが風邪をひき寝込んでいた時、兄がお見舞いに来てくれた。しかし兄にも風邪がうつってしまい寝込んでしまったのだが・・・悲しい運命だったのか、自分よりも年が上で体力もあったというのにあっという間に亡くなってしまったのだ。
 それから、父はこれまでと変わりなく、いやそれ以上にアルフォンスを大切にしてくれた。だが母は自慢の息子が死んで憔悴し、それを受け入れられなかったのだろう。彼女はアルフォンスが殺したと言い始めた。
 それからは実の母だというのに、暴力が始まった。父がいくらかばおうとも仕事で留守の時に手を出されてしまう。
 ついに使用人に命じ部屋に閉じ込める事になってしまったのだが、そうすると部屋の中から「ごめんなさい、アルフォンス。お母様が間違っていたの、あなたを愛している」と聞こえてくる。
 傷ついていたアルフォンスはその言葉に縋りドアを開けて母のもとに飛び込んでしまった。
だが・・・母は、そのアルフォンスを害そうとした。
 使用人に取り押さえられた母は、父の命で修道院に送られた。アルフォンスは心の傷で部屋から出られなくなってしまった。
 自分が兄を殺したから。母の呪いのような言葉と愛していた母からの仕打ちはアルフォンスの心をむしばんでいた。

 父は知り合いの神殿にしばらくアルフォンスを預けた。本来一信者や一貴族を預かる場所ではないが、無と罪悪をその身に宿してしまったアルフォンスを引き受けてくれたのだ。
 そこで、何をするわけでもなくひたすら心を休め癒すために過ごした。神殿に祀られている神とぼんやりと向かい合う。そんなアルフォンスに司祭様は声をかけ、ただ抱きしめてくれる。
 毎日抱きしめてもらううちに、ようやくアルフォンスは涙を流すことが出来た。そしてすこしずつ誰にも言えなかった気持ちを言葉に出すことが出来るようになった。

 アルフォンスは、自分が殺した兄の父であり、自分のせいで狂ってしまった母の夫でもある父には悲しみも苦しみも何も言うことが出来なかった。誰にも助けを求めることが出来なかったのだ。
 アルフォンスが目に光を取り戻し、アルフォンスは何も悪くないと自分自身でそう思えるようになった時、司祭様は神殿で特別に作ってくれたチャームをアルフォンスに授けてくれた。
 そしてそれを持って、アルフォンスは家に戻り、ずっと待っててくれた父に頭を下げた。抱きしめてくれた父の前でやっと泣くことが出来た。
 そこから、アルフォンスはチャームを心のお守りとして、家を背負うための勉学にも武術にも取り組んできたという。

「だからあなたの聴取をしながら、他人ごとではなく・・・ずっと気にかかっていました。まあ、なかなか手に入らない珍しいものくらいに思っていただければ」
「・・・大切にいたします。ありがとうございます」
 セシルは首元のチャームを握りしめた。
 その頬に流れる涙をみて、アルフォンスはハンカチを渡した。
「やはり悲しませてしまいました。あなたが辛いことを思い出されるのではないかと危惧をしていたのですが話すべきではありませんでした。もうしわけありません」
「いいえ、違うのです。私の場合は・・・相手は他人でした。でもアルフォンス様は実のお母さまにと思うと・・・辛くて・・・小さなころのアルフォンス様がお可哀想で・・・」
「過ぎたことです。誰もみな何かしら抱えて乗り越えなければいけないのですから。ですから・・・乗り越えることが出来た身としてあなたの力になれると思うのです。一人で我慢しないでいつでもお話しください」
「ありがとう・・・ございます」

 それ以降、アルフォンスはその話に触れることはなかった。これまで通り、セシルが知らないような話をして楽しませてくれる。アルフォンスの過去を聞いたことで、セシルの中でどこか距離が縮まったような気がした。

 そして、久しぶりに一緒に行きたいと言ったサミュエルと孤児院で待ち合わせた日。
 サミュエルは、セシルが騎士団総団長であり侯爵家のアルフォンスと一緒にいるの見て目をむいたが、なぜかほっとしたような泣き笑いのような顔でセシルを見た。
 そしてサミュエルが深く頭を下げると、アルフォンスは深く頷いたのだった.
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