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25 錯誤の空中戦
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一方、第十六任務部隊よりも南に位置する第十七任務部隊には、二派にわたる日本側攻撃隊が迫りつつあった。
合衆国海軍初の空母対空母の戦闘となったミッドウェー海戦は、彼らにいくつもの錯誤を犯させることになった。
そしてこの時、第十七任務部隊が犯した過誤は、その中でも最悪のものといえた。
「戦闘機隊が迎撃に間に合わんだと!? どういうことだ!?」
ヨークタウン艦橋で、フレッチャーは思わず伝令を怒鳴りつけた。
この時、艦隊上空にある直掩隊の指揮はレキシントンのFDO(戦闘機指揮管制士官)フランク・F・ギル大尉が執っていた。
任務部隊全体の指揮官はフレッチャーだが、空母戦隊の司令官はフィッチ少将であるので、このような指揮系統となっていたのである。
そしてレキシントンのCXAMレーダーは、距離六十八浬(約一二六キロ)の地点で未確認機多数を捕捉していた。
理論上は、レーダーと無線による誘導で早期にジャップ攻撃隊を迎撃出来るはずであった。
しかし、フィッチ少将の航空参謀は上空直掩機を艦隊の直上から遠ざけることを認めていなかった。
この時点では、アメリカ海軍の対空レーダーの精度は低く、方位は判っても高度が判らなかったのである。艦隊のはるか手前で敵攻撃隊を迎撃しようとしても、敵の高度が判らないためにかえって指揮が混乱するか、そもそも指揮が不可能になると考えられていたのだ。
そして、アメリカ側が日本の急降下爆撃機よりも雷撃機を警戒していたため、上空にあった戦闘機隊は高度一万フィート(約三〇〇〇メートル)で待機していたのである。
一方この時、楠美正少佐率いる第一攻撃隊は、高度五〇〇〇メートルにて太陽を背にするように大きく回り込んで第十七任務部隊に接近していた。
上空からの視界は良好であった。
眼下の海上に、無数の航跡を引きながら進む大艦隊が見える。
そして、敵艦隊十五浬手前の空中にて、楠機からの「トツレ(突撃隊形作レ)」の命令を合図に艦爆隊と艦攻隊がそれぞれの高度に分かれていく。
江草隆繁少佐率いる艦爆隊が高度を維持しているのに対し、楠少佐の加賀艦攻隊、村田重治少佐の赤城艦攻隊は徐々に高度を下げていった。
不意に、板谷茂少佐率いる零戦隊の先頭機が翼を大きく左右に振りながら、同時に落下増槽を投棄した。敵機発見の合図であった。
レキシントン戦闘機隊を率いるポール・H・ラムゼー少佐は五機のF4Fワイルドキャットを率いて急ぎ上昇していた。
「くそっ、敵機高度一万七〇〇〇フィート! 戦爆連合!」
母艦に通ずる無線機にそう怒鳴る。自分たちの目論見が見事に外れてしまったことに、歯噛みする思いであった。
事前の計画では、F4F隊がジャップ爆撃隊に備え、SBDドーントレス隊が低空でジャップ雷撃隊に備えることになっていた。
ドーントレスの搭乗員たちは戦闘機でもない機体で防空戦闘をさせられることに大いに不満の声を上げていたが、やむを得なかった。戦闘機の数が、敵編隊に比べて圧倒的に数が足りていなかったのである。
ラムゼー少佐らの戦闘機隊は、必死で機体を上昇させていた。
内心では、母艦のFDOを罵っている。
しかもジャップ編隊は巧妙にも、自分たちの艦隊に対して太陽を背にする位置に回り込んでいた。
急激な上昇のために速度が落ちていく。一刻も早く連中を撃墜しなくてはという焦燥が胸を焼く。
敵編隊を目指しながらも、連中は自分たちの頭上を通過するように悠々と飛行している。このままでは高度一万七〇〇〇フィートに達する前にすれ違ってしまう。
ラムゼーは操縦桿を捻り、上昇を続けながら自分の機体をジャップ編隊の未来位置へと向けようとする。
その瞬間、上空から降り注ぐ太陽の光の中に何か黒いものが過ぎったように感じた。
戦闘機乗りとしての咄嗟の判断で、機体を横転させる。
刹那、今までラムゼー機のいた場所を曳光弾の光が通り過ぎた。
「零戦だ! 各機背後を取られるな!」
状況は最悪だった。
ジャップ攻撃隊を阻止するために無理な上昇を続けた結果速度を落としたところに、上空から零戦が現れたのである。
ラムゼーは咄嗟の判断で回避行動に成功したが、部下の二機がやられてしまった。
「ガッデム!」
最早、ジャップ攻撃隊の迎撃どころではなかった。まずは自分たちの身を守るための空戦に集中しなければならなかったのである。
合衆国海軍初の空母対空母の戦闘となったミッドウェー海戦は、彼らにいくつもの錯誤を犯させることになった。
そしてこの時、第十七任務部隊が犯した過誤は、その中でも最悪のものといえた。
「戦闘機隊が迎撃に間に合わんだと!? どういうことだ!?」
ヨークタウン艦橋で、フレッチャーは思わず伝令を怒鳴りつけた。
この時、艦隊上空にある直掩隊の指揮はレキシントンのFDO(戦闘機指揮管制士官)フランク・F・ギル大尉が執っていた。
任務部隊全体の指揮官はフレッチャーだが、空母戦隊の司令官はフィッチ少将であるので、このような指揮系統となっていたのである。
そしてレキシントンのCXAMレーダーは、距離六十八浬(約一二六キロ)の地点で未確認機多数を捕捉していた。
理論上は、レーダーと無線による誘導で早期にジャップ攻撃隊を迎撃出来るはずであった。
しかし、フィッチ少将の航空参謀は上空直掩機を艦隊の直上から遠ざけることを認めていなかった。
この時点では、アメリカ海軍の対空レーダーの精度は低く、方位は判っても高度が判らなかったのである。艦隊のはるか手前で敵攻撃隊を迎撃しようとしても、敵の高度が判らないためにかえって指揮が混乱するか、そもそも指揮が不可能になると考えられていたのだ。
そして、アメリカ側が日本の急降下爆撃機よりも雷撃機を警戒していたため、上空にあった戦闘機隊は高度一万フィート(約三〇〇〇メートル)で待機していたのである。
一方この時、楠美正少佐率いる第一攻撃隊は、高度五〇〇〇メートルにて太陽を背にするように大きく回り込んで第十七任務部隊に接近していた。
上空からの視界は良好であった。
眼下の海上に、無数の航跡を引きながら進む大艦隊が見える。
そして、敵艦隊十五浬手前の空中にて、楠機からの「トツレ(突撃隊形作レ)」の命令を合図に艦爆隊と艦攻隊がそれぞれの高度に分かれていく。
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不意に、板谷茂少佐率いる零戦隊の先頭機が翼を大きく左右に振りながら、同時に落下増槽を投棄した。敵機発見の合図であった。
レキシントン戦闘機隊を率いるポール・H・ラムゼー少佐は五機のF4Fワイルドキャットを率いて急ぎ上昇していた。
「くそっ、敵機高度一万七〇〇〇フィート! 戦爆連合!」
母艦に通ずる無線機にそう怒鳴る。自分たちの目論見が見事に外れてしまったことに、歯噛みする思いであった。
事前の計画では、F4F隊がジャップ爆撃隊に備え、SBDドーントレス隊が低空でジャップ雷撃隊に備えることになっていた。
ドーントレスの搭乗員たちは戦闘機でもない機体で防空戦闘をさせられることに大いに不満の声を上げていたが、やむを得なかった。戦闘機の数が、敵編隊に比べて圧倒的に数が足りていなかったのである。
ラムゼー少佐らの戦闘機隊は、必死で機体を上昇させていた。
内心では、母艦のFDOを罵っている。
しかもジャップ編隊は巧妙にも、自分たちの艦隊に対して太陽を背にする位置に回り込んでいた。
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ラムゼーは操縦桿を捻り、上昇を続けながら自分の機体をジャップ編隊の未来位置へと向けようとする。
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刹那、今までラムゼー機のいた場所を曳光弾の光が通り過ぎた。
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