暁のミッドウェー

三笠 陣

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75 夜戦の決意

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 一方、日没を控えて母艦搭乗員たちの出番は終わりを迎えたが、二航戦司令部を始めとする指揮官たちは今後の作戦計画の立て直しに奔走しなければならなかった。
 その中でも筑摩が一航艦司令部にもたらした情報は、作戦を継続させる意志を南雲長官の心から奪いつつあった。
 筑摩の水偵は戦果確認のために米艦隊に向けて発進したものであるが、これまで発見されていた米艦隊の後方にさらにもう一群の米空母部隊を確認したというのである。
 インド洋では赤城と翔鶴の被弾に留まっていたというのに、今回は赤城、加賀、蒼龍、翔鶴の四空母が被弾し、さらに英艦隊と対峙した時以上の搭乗員を失っている。この状態で作戦を継続することは不可能なのではないか、そうした疑念が急速に南雲の中で膨らんでいたのである。
 それに、自分たちは少なくとも五隻の米空母を撃沈したという思い込み(事実ではあったが)もまた、作戦の切り上げ時という考えを南雲にもたらしていた。
 どうやら米空母を全滅させるまでには至っていないようであったが、少なくとも半数以上は撃沈した。これ以上、危険を冒してまでミッドウェー島攻略作戦を継続する必要性を、南雲は感じていなかったのである。
 もちろん、筑摩からの報告に南雲も含めた司令部の誰も疑念を持たなかったわけではない。しかし、筑摩艦長・古村啓蔵大佐からこの報告は確実であるという返答がもたらされると、それ以上、一航艦司令部はこの報告に疑問を差し挟まなくなってしまった。
 第四駆逐隊に護衛された損傷空母と合流したらしい第二艦隊司令部からも同様の問い合わせがあったが、一航艦司令部は新手の米空母四隻という情報は確実であると返信している。
 とはいえ、近藤中将は南雲中将よりも先任であり、MI作戦の現場指揮官の最高責任者とでもいうべき立場にあった。南雲が独断で作戦の中止を決定するわけにはいかない。
 一六四五時(現地時間:一九四五時)、南雲が将旗を掲げた軽巡長良から、「第五次攻撃隊収容完了。兵力整頓竝ニ緊急補給ノ為機動部隊ハ西方ニ退避シ改メテ攻撃ヲ再興セントス」という電文が発せられた。
 「攻撃ヲ再興」とは言っているものの、実質的に一航艦が継戦能力を喪失してしまったことを示す電文であった。南雲は暗に、近藤中将に対して作戦中止を臭わせていたのである。
 第三戦隊司令官の栗田健男中将はこの電文を当然と受け止め、第二航空戦隊司令官の山口多聞少将も航空隊の損害の多さからやむを得ないことと受け入れた。
 山口にとってみれば、セイロン沖海戦の時と違い、十分に追撃した上での退避の決断である。最早、飛龍と瑞鶴のみが健在な状況では、納得するしかなかった。
 しかし問題は、どうやらこちらに向かって進みつつある米艦隊にいかに対応すべきかあった。
 比叡は赤城の曳航のために戦力として使用出来ず、残余の水上艦艇も残り五空母の護衛がある。
 だが、その問題は間もなく解決した。
 長良からの電文を受信した近藤中将が、ひとまず殿を務めると伝えてきたのである。その上で、一航艦は戦力の再編に全力を尽くすよう、命じてきた。
 夜戦は、第二艦隊のお家芸ともいえる戦法である。もともと、第二艦隊は漸減邀撃作戦における夜戦部隊として編制、訓練されてきたのだ。
 それだけに、近藤中将には殿を務め切る自信があるのだろう。
 だが、米艦隊の追撃を撃退したところで明日以降、MI作戦を継続出来るとは、南雲は考えていなかった。
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