スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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第4章 町の名はワィーン。ウィーンじゃないです。

4-3 濡れ手に粟で100万円です。

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「あのぅ、すいません」

「おお、1のお客さん。どうしたんだい?」

 店員の男に声を掛けると、小馬鹿にした笑いと共に、返事が返ってきた。わざわざ1人者を強調しなくていいのに、よっぽど馬鹿にされているんだろう。

「……このコーヒーを作ってる人に会いたいんですけど」

「何でだ?」

「このコーヒー不味すぎです。もっと美味しく、本来のコーヒーを淹れる方法を教えたいんで」

「確かに美味くはないけど、コーヒーってのは、こう言うもんじゃないのか?」

 いや、違うでしょ? こんなザラザラのコーヒー。……俺がお子ちゃま口のせいもあるけど、苦すぎて、飲めたもんじゃない。

「……ちゃんと美味しくする道具持ってますから。これです、これ」

 テーブルの上のダンボールを、両手の人差し指で差す。

「まぁ、構わないけど。コーヒーの豆を譲り受けた国での作り方だって、教わってたはずだけど」

 店員の男は少し不服そうだけど、こっちは商売がかかっているんで、厚かましくいかせてもらいます。……こんなダンボール持って、うろつきたくもないんで、さっさと捌かせてもらわないと。

「奥ですよね?」

 ダンボールを抱え、立ち上がると、男が「ああ」と、一言、先に店の奥に引っ込んだ。

「……サネイル。この1の客が、もっと美味しいコーヒーを作る方法を教えてくれるんだってさ」

「何だ? リナン。俺のコーヒーにケチを付ける、1の客がいるのか?」

 2人揃って、1人者を強調しなくていいのに。このリナン、それにサネイルは。

「……多分、いた豆を鍋で煮て、すくってますよね?」

「ああ、それがコーヒーの作り方だろ?」

 サネイルが答える。

「でも、それじゃザラザラと口に豆が残るでしょ? それに鍋底に沈澱して溜まるし」

「そう言うもんだから、仕方ないだろ?」

 少し苛立っているのか、サネイルの声が大きくなる。

「もう一つ、鍋を出してください」

 簡単な話だ。鍋にコーヒーフィルター"ビッグ3000"をセットして、コーヒーを淹れればいいだけだ。でも、今はこのザラザラコーヒーを新しい鍋に濾して移そう。……新しい鍋にビッグ3000をセットする。おお! ジャストフィットじゃありませんか。

「で、このコーヒーをこっちに移す」

 そう言いながら、コーヒーの入った鍋を持ち上げ、新しい鍋に流し入れる。

「はい、完成。すくって飲んでみて」

「ああ」

 サネイルがカップを手に、濾されたコーヒーをすくう。リナンも気になるようで、カップを手にしている。

「確かにザラザラしないし。全部飲めるな。でも苦さは変わらない」

「ああ、そんな時は……。ミルクと砂糖はあるか?」

「砂糖? は、ないけど、蜂蜜ならある」

「んじゃ、ミルクと蜂蜜で」

 しゃがみ込んだサネイルが、ミルクと蜂蜜を取り出す。そんなサネイルからミルクも蜂蜜も、リナンは奪い取っている。

「入れすぎても、コーヒーらしくなくなるから、そうだなあ、ミルクはスプーン2杯で、蜂蜜はスプーン1杯で」

 さっそくミルクと蜂蜜を入れたコーヒーに、リナンが口を付けている。

「……何だ? これは? めちゃくちゃ美味い。同じコーヒーとは思えない。これなら80サラでも、いや1スリングでも評判になるな」

 リナンは満足そうだ。その隣で、首を傾げながらだけど、サネイルもコーヒーにミルクと蜂蜜を入れている。

「ん? 何だ? 味ががらりと変わったじゃないか。これならミルクも蜂蜜も入れずに少し飲んで、その後はミルクと蜂蜜を入れて、1杯で2度楽しめるな」

 そんなやり取りが外まで聞こえていたのか、テラス席の紳士淑女の皆さんが、様子を伺いに来た。

「その美味しいコーヒーをもらえないか?」

「ああ、1スリングだが、いいか?」

 リナンはちゃっかりしている。1スリングなんて、倍の値段を付けてもう商売だ。……俺もリナンを見習って商売しないと。

「この美味しいコーヒーを作るには、ミルクと蜂蜜が必要だけど、ビッグ3000が無ければコーヒーはザラザラのままなんだ」

「分かった。そう言う事なんだな。そのビッグ3000があるなら、この美味いコーヒーが作れる訳だ。……で、お前は行商と言う事だな」

 サネイルは話が早い。

「ああ。このビッグ3000は50枚入りだ。1箱で50回分だ。それが1箱1スリングだから安いもんだろ?」

「確かに安いな。で、全部で幾つあるんだ?」

「全部で200箱だ。10000回分だ!」

「10000回で、200スリングか。安いな。全部くれ」

 おお。一気に売り切れるなんて、何て気分がいいんだ。ハル君の入れ知恵だけど、チョロい、チョロい。……濡れ手に粟で、手数料引かれても、100万円だ! ……ハル君に感謝!
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