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第4章 町の名はワィーン。ウィーンじゃないです。
4-6 ムーツァルトは悪の化身です。
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通されたサロンは、絨毯の敷かれた、天井の高い部屋だった。何やら、よく分からない彫像が2体。あとは椅子が数脚あるだけで、家具もなく、真ん中にピアノが置かれているだけだ。
「ここで演奏会を?」
バートーヴァンに聞いてみる。
「そうです。3日後の演奏会は、ソリエリ先生が主催なので、このサロンで行われます」
「そうなんですね。その時、バートーヴァンさんも、演奏なさるんですか?」
「ええ。新しいピアノソナタを発表致します」
「新曲なんですね。それは楽しみですね」
「ありがとうございます。……それでは、こちらで先生をお待ちください」
バートーヴァンがサロンを出て行く。椅子に座る事くらいしか出来ない部屋に、一人残されるのは、どうも居心地が悪い。
する事もないし。と、スマホを手にして、LINEを開く。最後の一言は、既読スルーだ。
(ハル君ーーー。ここ居心地悪いんだけど。俺、帰りたいんだけど)
数分待たずに、すぐに返信が来た。
(帰るって、どこに帰るんですか?まだまだユウキの在庫処分してもらわないといけないんで、こっちには帰さないですよ)
(あ、そう言う意味じゃなくて、このソリエリの所が嫌な訳で、ホテルとか行きたいなあって)
(それも出来ないですよ。あ、もうすぐソリエリが来るんで、じゃ!頑張ってください)
ハル君が言った通り、すぐにサロンの扉が開き、ソリエリの顔が見えた。
「イスケさん。お待たせ致しました。……ルストの様子が心配で」
ルスト? ああ、そうだ。リストかもしれない人だ。
「何かあったんですか?」
「ええ。先日、ルストとムーツァルト合同の演奏会があったんです。その時に起こったんです」
ソリエリの顔が青白く醒めていく。……悪の化身、ムーツァルト。んーー、いったいどんな奴なんだ?
「……何が起こったんですか?」
「ルストが石になったんです」
「石?!」
思わず声が裏返る。石って、ムーツァルトはメデューサって事?
「石になったって、詳しく教えてください」
「ええ、そうですね。演奏会はピアノ2台でのリサイタルだったんですが、ルストがピアノに向かった途端、石になって固まってしまったんです。……ルストは固まったまま、一曲も演奏できずにリサイタルは終わってしまったんです。その間、ムーツァルトは好き放題、やりたい放題で」
ムーツァルトが魔力を使って、ルストを石に変えたって事ですか? 嫌だ! ムーツァルトに関わって、石になんかなりたくない。
「……それでルストはどうなったんですか?」
「石になったのは、演奏会の時だけで。……ですがあまりの恐怖だったのか、帰ってからずっと寝込んでいるんです」
そりゃ、そうか。演奏会をめちゃくちゃにされたんだ。それなら関わらなければいいだけじゃないのか? それなのに、どうして次の演奏会にムーツァルトが来るんだ?
「あのぅ、一つ分からないなが、ムーツァルトがルストを石に変えて、演奏会がめちゃくちゃにされたのに、どうしてまた次の演奏会にムーツァルトが来るんですか?」
「それは……。ムーツァルトはルストを石に変えた事は否定しているんです。勝手に石になったと。ですが今までにも何人もの音楽家が、ムーツァルトとの演奏会で石にされてきたんです」
何人も石にしておきながら、否定って最低だな。
「……ですが、今、このワィーンで1番人気の音楽家がムーツァルトなんです。石になった音楽家の顔に落書きしたり、頭に放◯したり、脱◯したり、それはもうめちゃくちゃなんです。ですがそんなめちゃくちゃな姿が、貴族からはウケているんです」
ソリエリの口がとんでもない言葉を吐いた。頭に放◯、それに脱◯だって! 伏せ字を表す事もおぞましい。
「ムーツァルトって、本当に最低ですね。それにそんなムーツァルトに面白がってる貴族連中も」
「本当にそうなんです。ですが私も音楽家を続ける以上、貴族からの援助が必要なんです。そんな貴族から、演奏会にムーツァルトを呼ぶように言われたら、私も逆らう訳にいかなくて」
話を聞いているだけで、胸糞が悪くなる。……これはムーツァルトにギャフンと言わせるしか、収まりがつきませんね。……ムーツァルトが魔物でも、そうでなくても、退治が必要な案件です。
「イスケさんには、お越しになられた貴族の方々に、コーヒーを振る舞っていただきたくて」
「コーヒーは大丈夫です。サネイルもいるんで。それよりムーツァルト退治ですよ」
「えっ?」
ソリエリが驚いているけど、これはもう決定事項です。はい。何としてもムーツァルトにギャフンと言わせてみせます。
「ここで演奏会を?」
バートーヴァンに聞いてみる。
「そうです。3日後の演奏会は、ソリエリ先生が主催なので、このサロンで行われます」
「そうなんですね。その時、バートーヴァンさんも、演奏なさるんですか?」
「ええ。新しいピアノソナタを発表致します」
「新曲なんですね。それは楽しみですね」
「ありがとうございます。……それでは、こちらで先生をお待ちください」
バートーヴァンがサロンを出て行く。椅子に座る事くらいしか出来ない部屋に、一人残されるのは、どうも居心地が悪い。
する事もないし。と、スマホを手にして、LINEを開く。最後の一言は、既読スルーだ。
(ハル君ーーー。ここ居心地悪いんだけど。俺、帰りたいんだけど)
数分待たずに、すぐに返信が来た。
(帰るって、どこに帰るんですか?まだまだユウキの在庫処分してもらわないといけないんで、こっちには帰さないですよ)
(あ、そう言う意味じゃなくて、このソリエリの所が嫌な訳で、ホテルとか行きたいなあって)
(それも出来ないですよ。あ、もうすぐソリエリが来るんで、じゃ!頑張ってください)
ハル君が言った通り、すぐにサロンの扉が開き、ソリエリの顔が見えた。
「イスケさん。お待たせ致しました。……ルストの様子が心配で」
ルスト? ああ、そうだ。リストかもしれない人だ。
「何かあったんですか?」
「ええ。先日、ルストとムーツァルト合同の演奏会があったんです。その時に起こったんです」
ソリエリの顔が青白く醒めていく。……悪の化身、ムーツァルト。んーー、いったいどんな奴なんだ?
「……何が起こったんですか?」
「ルストが石になったんです」
「石?!」
思わず声が裏返る。石って、ムーツァルトはメデューサって事?
「石になったって、詳しく教えてください」
「ええ、そうですね。演奏会はピアノ2台でのリサイタルだったんですが、ルストがピアノに向かった途端、石になって固まってしまったんです。……ルストは固まったまま、一曲も演奏できずにリサイタルは終わってしまったんです。その間、ムーツァルトは好き放題、やりたい放題で」
ムーツァルトが魔力を使って、ルストを石に変えたって事ですか? 嫌だ! ムーツァルトに関わって、石になんかなりたくない。
「……それでルストはどうなったんですか?」
「石になったのは、演奏会の時だけで。……ですがあまりの恐怖だったのか、帰ってからずっと寝込んでいるんです」
そりゃ、そうか。演奏会をめちゃくちゃにされたんだ。それなら関わらなければいいだけじゃないのか? それなのに、どうして次の演奏会にムーツァルトが来るんだ?
「あのぅ、一つ分からないなが、ムーツァルトがルストを石に変えて、演奏会がめちゃくちゃにされたのに、どうしてまた次の演奏会にムーツァルトが来るんですか?」
「それは……。ムーツァルトはルストを石に変えた事は否定しているんです。勝手に石になったと。ですが今までにも何人もの音楽家が、ムーツァルトとの演奏会で石にされてきたんです」
何人も石にしておきながら、否定って最低だな。
「……ですが、今、このワィーンで1番人気の音楽家がムーツァルトなんです。石になった音楽家の顔に落書きしたり、頭に放◯したり、脱◯したり、それはもうめちゃくちゃなんです。ですがそんなめちゃくちゃな姿が、貴族からはウケているんです」
ソリエリの口がとんでもない言葉を吐いた。頭に放◯、それに脱◯だって! 伏せ字を表す事もおぞましい。
「ムーツァルトって、本当に最低ですね。それにそんなムーツァルトに面白がってる貴族連中も」
「本当にそうなんです。ですが私も音楽家を続ける以上、貴族からの援助が必要なんです。そんな貴族から、演奏会にムーツァルトを呼ぶように言われたら、私も逆らう訳にいかなくて」
話を聞いているだけで、胸糞が悪くなる。……これはムーツァルトにギャフンと言わせるしか、収まりがつきませんね。……ムーツァルトが魔物でも、そうでなくても、退治が必要な案件です。
「イスケさんには、お越しになられた貴族の方々に、コーヒーを振る舞っていただきたくて」
「コーヒーは大丈夫です。サネイルもいるんで。それよりムーツァルト退治ですよ」
「えっ?」
ソリエリが驚いているけど、これはもう決定事項です。はい。何としてもムーツァルトにギャフンと言わせてみせます。
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