スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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第5章 町の名はニスカ。ナスカじゃないです。

5-4 20kmを瞬間移動です。

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 マーペンが黙々と石を並べている。適当に置いているように見えるけど、これがあの地上絵になるのか。……何か、凄いとこに来てしまったけど、あんな巨大な絵を描けるって事は、このマーペンには何か特別な力があるんだろうか?

「なぁ、マーペン。石を並べて巨大な絵を描くって、マーペンは特別な力を持っているのか? お前凄いんだな」

 ただ思った事を口にしていた。だけどマーペンの答えは否定だった。

「俺は凄くない。凄いのは、じぃちゃんだ。じぃちゃんが、土を掃いて絵を描いてる。俺はじぃちゃんが掃いた線に、石を並べているだけだ」

「そうなんだ。じぃちゃんが居るんだな」

「ああ、あそこに居るだろ」

 マーペンが立ち上がって、指を差したけど。遥か遠くまで目を凝らしてみても、そんな姿は見えない。

「ん? どこだ?」

 首を傾げる。どこまで見渡しても、人の姿なんて見つけられない。その時だ。

「じぃちゃん!」

 マーペンが叫んだ。すると……。嘘だろ? 瞬間移動? なのか?

「何じゃ、呼んだか?」

 目の前にじぃさんが現れた。

「……お前は見かけない顔だな。誰だ?」

 突然現れたじぃさんは、値踏みでもするように、全身に目を這わせている。モフモフパジャマを撫でる視線。

「俺は偉介と言います。結城偉介」

「おお、そうか。イスケと言うんだな。わしはナンローじゃ。それでお前は何をしている?」

「いや、何もしていないけど。ここで寝ていて、マーペンにさっき起こされたところです」

「ほう、そうか」

 そう言った後に、一歩前に出たナンロー。えっ? 何していらっしゃるんですか? その手が胸と腹を撫でている。

「これは気持ちいいな。とても柔らかい。ずっと触っていたいのぅ」

 腹から背中、尻へと伸びて行く手。ナンローにとっては気持ちいいのかもしれないけど、ずっと触られている方は、正直、気持ち良くないんです。

「……あの、ナンローさん。モフモフ触るのやめてもらえますか?」

「減るもんじゃないし、いいだろ?」

 するとナンローは俺に抱きつき、頬ずりを始めた。気持ち良くないどころか、これは気持ち悪い。……早く、離れろ! このクソじじぃ! だけどそんな心の声は届くはずもなく。ずっとナンローはスリスリしている。

「もう分かりました。ちょっと脱ぐ間だけ待ってください」

 モフモフパジャマを脱ぐ。日中の高い気温の下、そもそも暖かい格好をしておく必要はなかった。さあ、スリスリ攻撃からの解放。それにサナギから蝶になって羽ばたきます。……手にしたモフモフパジャマに、ナンローはすでにスリスリを始めている。

「……そんなに気持ち良いなら、あげますよ」

「わしにこれをくれるのか?」

「どうぞもらってください」

 じぃさんが何度もスリスリしたパジャマに、もう一度、手を通す気にはなれない。5,800円のパジャマを手放すのは惜しいけど、ここは仕方ない。

「……ただでもらうのは、わしも申し訳ない。こんな所で寝ていたのなら、泊まる所はないのだろう。わしの村へ来い。歓待しよう」

「それって泊めてくれるって事?」

「ああ、そうだ。食事と寝床。それに酒もある」

 5,800円も、宿代だと思えば高くはないか。それに何にせよ、こんな何もない所にずっと居る訳にはいかない。

「んじゃ、お世話になります」

「そうと決まれば、早速、村に帰ろう。……マーペン帰るぞ!」

「はい」

 呼ばれたマーペンが、ナンローの横に立ち、その腕を掴んだ。

「イスケ。何をしておる。お前も早く来い」

「どう言う事?」

「ここから村までは、結構な距離があるぞ」

 そうだった。確か20kmだ。

「……歩いて行くのは大変だ。早くわしに掴まれ」

 マーペンがしているように、ナンローの横に立ち、腕を掴む。

「さあ、帰るぞ! おお、そうじゃ、イスケ。光の強さに目をやられる事もあるから、目はしっかり閉じておけよ!」

「あ、はい。閉じました」

「それでは、いざ! えいっ! とな。……着いたぞ。もう目を開けてもいいぞ」

 ん? どう言う事? そんな一瞬で、20kmを瞬間移動したって事? 便利すぎる。便利すぎるじゃありませんか。……俺にもそんな能力があればいいのに。

「……さあ、イスケ。客人よ。歓待するぞ」

 ナンローの腕を離すと、目の前には大きな焚き火があった。焚き火は小さな広場の中央。広場を囲むように、小屋が並んでいる。正に瞬間移動。……ここがニスカの村なんだ。
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