スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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第5章 町の名はニスカ。ナスカじゃないです。

5-6 浮気心はすぐ消沈です。

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 あれ? 星空暦の成果があったんでしょうか? 随分な歓待ぶりだと思うんですが。……目の前に並べられた、幾つもの皿には、何がなんだか分からないけど、様々な料理が盛られています。それに何から作られているかは分からないけど、ナンローが次から次に注いでくれる酒は、ほんのり甘くて飲み易く、簡単にほろ酔いになれる。

「……客人のもてなしじゃ。マーペンよ、ヤズラを呼んでこい」

 同じように酒を飲み干す、ナンローも上機嫌だ。

「……連れてきたよ」

 マーペンの声に、酒から目を逸らす。……ぶっ! えっ? 何でしょうか? この目の前の、豊満な胸は? しかもノーブラじゃありませんか。……しかも近い。近すぎる。鼻がブヒーッと鳴ってしまいそうですよ。はい。

「おお、ヤズラよ。客人のイスケだ。隣りに座って、もてなすのじゃ」

「はい」

 すぐ隣りに腰を下ろすヤズラ。豊満な胸は視界から消えたけど、何処に視線を置けばいいかが、分からない。ただ無心にナンローの顔を見るだけだ。それなのに、これはわざとでしょうか? 肘に弾力があるものを押し付けられております。当たらないようにと、肘を少しずらしてみても、すぐに押し付けられる弾力。俺には美弥と言う彼女がいるんです。あ、でも美弥は見合いをするんだった。それって彼氏である俺への裏切り? それなら俺も少しくらいなら、許されるんじゃありませんか。……そんな邪な考えを、巡らせながらヤズラの弾力を、肘でぐりぐりと押し、その感触を確かめる。

「……イスケよ。どうじゃ? ヤズラはこの村で一番の美人なんだ」

 胸の弾力に気を取られ、まだその顔をしっかりとは見ていなかった。と、言うか、こんな状況じゃ、恥ずかしくて、じっくり顔なんて見ていられない。……いい歳をして、自分でも何をモジモジしているんだろ? と、も思うけど。高校の頃から、美弥一筋で、正直他の女性への免疫はない。……その時だ。ヤズラが下から、俺の顔を覗き込んできた。

 ん? 顔。うん、顔だ。顔だよな。……うん、顔だ。目と鼻と口はある。……えらく細い吊り目が二つ。その上には10cmはありそうな眉毛が垂れている。童話に出てくる魔女そっくりな鷲鼻。だらしなく口角が垂れ下がった小さな口。口の回りは青く……って、もしかして髭ですか? いや、もしかしなくても髭ですね。
 恐るべし顔面。美人の要素を一欠片も、見出せないその顔に、体が大きくのけ反る。

「……どうじゃ? 気に入ったなら、嫁にやるぞ」

 酒を一口含んだナンローが、上機嫌で言ってくる。だけどそんな提案を受け入れられるはずもなく、首を横にぶるんぶるん振る。

「……あの、遠慮しておきます。……俺にはもう嫁がいるんで」

 咄嗟についた嘘は功を奏したようだ。ヤズラが全くもって美しくない顔を更に歪め、太々ふてぶてしく立ち上がった。あー、助かった。

「なんじゃ、嫁がいるのか」

「あ、はい。まあ」

 重ねた嘘は、ナンローを少しがっかりさせたようだった。

「さっきのヤズラは?」

「ああ、わしの娘じゃ。息子夫婦が死んでしまったからのぅ。ヤズラに婿を取って、わしの後を継がせたかったんじゃが」

「後を継がせるって、ナンローは何を?」

「あれ? 言っておらんかったかのぅ。わしはこの村の神官じゃ。マーペンに継がせるには、まだ早いからのぅ」

「神官なんですね。……もしかしてワイバーンの絵を描いていたのって」

「そうじゃ。あれは重要な神儀の一つじゃ。神官にとって最重要な任じゃ。だが今年は完成が遅れておる。息子が死んだからのぅ」

「息子さんって、マーペンのお父さんですよね」

「ああ。隣り村の……カイの村との戦いに負けたんじゃ。夫婦揃ってカイの村のほこら生贄いけにえとして、捧げられたんじゃ。……村一番の勇者同士の戦いに負けたんだから、仕方ない話だがな」

 ……生贄って何だ? 人が犠牲にならなきゃいけないなんて、どんな原始的な世界線だよ。……ふとこんな小説を書いたハル君に、怒りをぶつけたくなる。

「……何のための生贄なんですか?」

「ああ。この辺りは余り雨が降らない地域なんだ。だが暑い季節が終わって、寒い季節が始まる前に、いつも少しばかりの雨は降っておったんじゃ。恵みの雨だな。……だが去年はその雨が降らなんだ。雨乞いには生贄が付きものだ。そこで隣りのカイ村との話し合いで、村一番の勇者同士を戦わせる事になったんだ」

「……その戦いで負けたのが、マーペンのお父さんなんですね」

「ああ。そのお陰で、こうして実りを手にする事が出来たんじゃ」

 並んだ皿の上から、ナンローが紫色のトウモロコシを摘み上げた。作物を手にするための犠牲。それは生きていく上で、抗えないけど、どうにもやるせなくて仕方がない。
 
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