スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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第5章 町の名はニスカ。ナスカじゃないです。

5-10 ニスカよ、さようなら。

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 あっと言う間に、ワイバーンの地上絵は完成した。……らしい。大き過ぎて確認が出来ないから、完成したのかどうかは正直分からない。見渡して見えるものは、赤茶色の大地と並んだ石だけなんだから。

「イスケのお陰で絵が完成したよ。本当にありがとう」

 マーペンの目が少し潤んで見える。ナンローが居るとは言え、1人で石を並べて絵を描いてきたんだから、当然かもしれない。

「ツルハシやシャベル。台車も全部、マーペンにあげるから、これからは1人でも大丈夫だろ?」

「えっ? 俺にくれるのか?」

「ああ、もちろん。最初からそのつもりだったし。正直、俺に必要ないから」

「ありがとう。これで来年はもっと早く絵を完成させられる」

 ようやく地上絵が完成して、これで任務完了! と、一息こうとした時。グェー、グェーと、聞いた事のない、おかしな声が聞こえてきた。グェー、グェー。どこだ? 近くなる声。

 グェー、グェー。グェー、グェー。

「あ、ワイバーンだ!」

 マーペンが空を指差して叫ぶ。えっ?! ワイバーンって、ワイバーンですよね? どうして俺がまだこのニスカにいる時に登場するのでしょうか?

「おお、おお。絵が完成したから、神様もワイバーンを遣わしてくれたんだ。有り難い事じゃ」

 確かにワイバーンは神の遣いで、ニスカの村の守り神だとは、聞きましたよ。はい。でもドラゴンですよね? 怖くはないんでしょうか? 俺は怖いです。

「あっ、こっちに近づいてくれている! おーい」

 マーペンが両手を挙げている。わざわざ呼ぶのはやめましょうよ。んー、怖い。

「イスケも、ほら。一緒に呼ぼうよ! おーい」

 一緒に呼ぶなんて考えはないけど、恐る恐る顔を上げてみる。あ、何? 突進? 勢いよくこっちへ向かって飛んでくるのが分かる。少しずつ近くなるワイバーン。んー、怖い。思わず目を閉じる。……見えなくなったワイバーン。あるのは暗闇だけだ。……ん? 暗闇。もしかして……。

 はぁー、お別れは辛いけど。マーペン、さようなら。ナンロー、さようなら。一応、ヤズラも、さようなら。そしてニスカよ、さようなら。

 ………………。

「……おーい、イスケ。何、寝てるんだ?」

 なんで? これはマーペンの声だ。お別れをしたマーペンの声。ん? なんでか、パターンがはまらない。……って、マーペンの後ろに居るのは、もしかして。……ああ、失神しそうだ。

「マーペン。後ろ、後ろ」

 怯えた声で、指を差す。

「ああ、今年はこのワイバーンが、村を守ってくれるみたい」

「グェーーー!」

「あ、ワイバーンも返事をしてくれている」

 ああ、無理です。南無阿弥陀ー、南無阿弥陀ー。って、あれ? 今、俺の事を睨んだ? お願いです、ワイバーンさん。俺の視界に入らないでください。

「どうしたんじゃ? イスケ。まさかワイバーンが怖いのか?」

「はい、はい。そのまさかですよ! 怖いですよ!」

「ははははー。怖がる必要はない。村の守り神なんじゃから。それより、そろそろ行くぞ。わしに掴まれ!」

 ほっ。やっとこのワイバーンから離れられるんですね。安心しました。

「では」

 ナンローの声に目を閉じる。やっとこれで村に帰るんだ。きっと。

「では、出発するか」

 ナンローの声に、今度は目を開ける。って、ここは? 何だか緑っぽくて、茶色っぽくで、ゴツゴツしているけど。岩じゃない。

「……ここ、どこ?」

「どこって、ワイバーンの首の上じゃ」

「じぃちゃん。早くワイバーンを飛ばせてよ。早く俺が描いた絵を見たい!」

「分かっておる。それっ」

 わおっ! どんな合図を送ったのかは分からないけど、ワイバーンの翼が動き始めた。

「イスケ。しっかり掴まっていないと落ちるよ」

 落ちるって、落ちたくはないです。ってか、このワイバーンで空を飛ぶって事だよね。南無阿弥陀ー、南無阿弥陀ー。ワイバーンも怖いけど、高い所も怖いんです。お願いだから、やめてくれー。
 ……そんな願いも虚しく、ワイバーンは高く舞い上がっていく。……あー、下ろしてもらえないなら、自己暗示しかない。

「……ワイバーンは怖くない。高い所も怖くない。怖くない、怖くない、怖くない……」

「イスケ。下を見てよ。俺達が描いた絵だよ」

 マーペンの声は興奮気味だ。確かに地上絵を空から見れるチャンスなんて、早々訪れないだろう。今を逃せば一生訪れないかもしれない。怖くないと暗示をかけても、怖いけど、恐る恐るゆっくりと下を覗き込む。

「あ」

 真下の大地には翼を拡げたワイバーンの地上絵だ。……これがさっき描いたワイバーンなんだな。でもワイバーンの絵は一つだけじゃない。赤茶けた大地に幾つものワイバーンが描かれている。

「あの隣りのワイバーンは、去年父さんと描いたワイバーンなんだ」

 マーペンの声はとても自慢気だった。父親を誇りに思っているのが分かる。代々受け継がれてきたんだ。だからこの大地には幾つものワイバーンが描かれているんだ。……壮大な地上絵には心を奪う何かがある。いつの間にか、ワイバーンも高い所も、怖くなくなっている自分がいた。

 って、えっ? まじか。地上絵に見惚れていたからか、覗き込み過ぎていたからか、気付けば体が滑り、ワイバーンの首の上から翼の上に落とされていた。

「イスケ。大丈夫か?」

 マーペンの声に返事をしようとした時。

 あ、落ちる。いや、落ちた。あーーーーーー。俺どうなるの? 分からない。落ちたら死ぬんじゃね? あーーーーーー。どうなるか分からないから、とりあえず。

 マーペン、さようなら。ナンロー、さようなら。一応、ヤズラも、さようなら。そしてニスカよ、さようなら。
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