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第6章 町の名はプラハ。パラフじゃないです。……どう言う事?
6-1 目覚めたら凍死寸前です。
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ザブーンッ。……って、これは今、俺の耳を掠めた音だ。いや、本当にそんな音が聞こえたのかな。もしかしたら一瞬で感じ取った状況に、俺が勝手に想像した擬音語なだけかもしれない。ワイバーンの翼から俺は落ちた。マーペン達にお別れをして気を失ったのは確かだ。……ん? グボボボボ。ん? 息が出来ない。……ん? グボ。えっ? 俺、溺れていませんか?
「……おい! ブルタヴァで誰か溺れているぞ!」
今、掠めた声は俺の想像じゃない。俺、本当に溺れているんだ。
「おい! 大丈夫か? 俺に掴まれ!」
あ、何か抱えられたかも。誰かが助けてくれたみたいだ。……グボッ。あ、ちょっと水を吐けた。
ペシッ、ペシペシ。ペシッ。ペシッ。
え? 何で、そんなに頬を叩いているんですか? 痛いんですけど。
ペシッ。ペシペシ。ペシッ。ペシッ。
痛いです。頬を叩くのやめてください。……あ、もしかして俺が目を覚まさないから、覚そうとしてくれているんですね。分かりました。
「……お、大丈夫だ! 生きてる。目を覚ましたぞ」
目を開くとそこには若い男の顔があった。彫りが深くて、真っ直ぐ通った鼻。力強い目。何となく見覚えのある顔だけど、すぐに誰かは浮かばない。
「大丈夫か? ブルタヴァで溺れていたから、びっくりしたよ」
「ブルタヴァ?」
聞いた事があるような、ないような名前に聞き返す。
「……この町の人間じゃないんだな。それならモルダウって言えば分かるか? まぁ、名前なんてどうでもいい。なんでお前は川で溺れていたんだ? まさかこんな時季に泳いでいた訳じゃないだろ?」
あ、そっか。俺はワイバーンの翼から、川に落ちたんだ。ブルタヴァ川……そうモルダウ。確かドイツ語を強要されていたから、モルダウって呼ばれていた川だけど、チェコ語ではブルタヴァって言う事を、どこかで聞いた事がある。……って、えっ? ちょっとおかしくないですか?
「あのぅ。ちょっと聞いていいですか?」
「何だ?」
「この町の名前は?」
「この町の名前? ここはプラハだけど」
えっ? プラハ? ピラハとかペラハとかポラハじゃなくて、プラハなの? どう言う事?
「……それより、お前を助けるために川へ飛び込んだんだ。ズブ濡れで体が冷えきってきた。家に帰って着替えて暖まるから、お前も来い」
男に手を借りて、体を起こす。……心配をして、見守っていてくれてたのか、周りには大勢の人々が取り巻いていた。
「ありがとうございます」
そう言って、立ち上がった途端。冷たすぎる風に、濡れた服が氷のような感触を与えた。……やべっ。まじ寒い。いや、寒いじゃない。そんな生温いもんじゃなくて、冷たいも通り越して、これは痛い。
「……急ごう」
男に手を引かれる。
「あの、ありがとうございます。でも見ず知らずの俺に、何でそんなに優しく?」
「何を言ってんだ? 放っておけないだろ? 放っておいたら、お前は凍死だよ。……それにこんな時季にブルタヴァで溺れていたような男だ。創作のネタになるかもだしな」
創作のネタって何だ? よく分からないけど、この男の優しさには、裏は無さそうだ。どこかに売り飛ばされたり……まぁ、30過ぎた俺が売り飛ばされる事はないだろうけど、そんな心配はなさそうだ。……それにしても、さっきから細い路地ばかりだ。迷路のような町の路地を、男は迷いもせずに右に左に曲がっている。
「……それで、お前の名前は?」
男は立ち止まらず、ちらりと振り返っただけで、名前を聞いてきた。
「あ、俺は偉介。結城偉介です」
「イスケか。俺はフランツ。フランツ・カフカだ」
フランツ・カフカ? だから見覚えのある顔だったんだ。って、何で? フランツなの? ヘランツとか、ホランツじゃないの? キフキとか、コフコじゃなくて、カフカなの? どう言う事? ハル君の世界線……あの微妙な、ちょいズレの。あの微妙なネーミングセンスはどこに行ったの?
「イスケ。着いたぞ。とりあえず湯を沸かそう」
何度も曲がりながら進んだ路地を抜けた所で、手を離したフランツ。その手が差した先を見上げると、バルコニーの付いた、4階建の白い館があった。……ここがカフカの家? これって歴史的に重要な建物じゃないんですか?
「……おい! ブルタヴァで誰か溺れているぞ!」
今、掠めた声は俺の想像じゃない。俺、本当に溺れているんだ。
「おい! 大丈夫か? 俺に掴まれ!」
あ、何か抱えられたかも。誰かが助けてくれたみたいだ。……グボッ。あ、ちょっと水を吐けた。
ペシッ、ペシペシ。ペシッ。ペシッ。
え? 何で、そんなに頬を叩いているんですか? 痛いんですけど。
ペシッ。ペシペシ。ペシッ。ペシッ。
痛いです。頬を叩くのやめてください。……あ、もしかして俺が目を覚まさないから、覚そうとしてくれているんですね。分かりました。
「……お、大丈夫だ! 生きてる。目を覚ましたぞ」
目を開くとそこには若い男の顔があった。彫りが深くて、真っ直ぐ通った鼻。力強い目。何となく見覚えのある顔だけど、すぐに誰かは浮かばない。
「大丈夫か? ブルタヴァで溺れていたから、びっくりしたよ」
「ブルタヴァ?」
聞いた事があるような、ないような名前に聞き返す。
「……この町の人間じゃないんだな。それならモルダウって言えば分かるか? まぁ、名前なんてどうでもいい。なんでお前は川で溺れていたんだ? まさかこんな時季に泳いでいた訳じゃないだろ?」
あ、そっか。俺はワイバーンの翼から、川に落ちたんだ。ブルタヴァ川……そうモルダウ。確かドイツ語を強要されていたから、モルダウって呼ばれていた川だけど、チェコ語ではブルタヴァって言う事を、どこかで聞いた事がある。……って、えっ? ちょっとおかしくないですか?
「あのぅ。ちょっと聞いていいですか?」
「何だ?」
「この町の名前は?」
「この町の名前? ここはプラハだけど」
えっ? プラハ? ピラハとかペラハとかポラハじゃなくて、プラハなの? どう言う事?
「……それより、お前を助けるために川へ飛び込んだんだ。ズブ濡れで体が冷えきってきた。家に帰って着替えて暖まるから、お前も来い」
男に手を借りて、体を起こす。……心配をして、見守っていてくれてたのか、周りには大勢の人々が取り巻いていた。
「ありがとうございます」
そう言って、立ち上がった途端。冷たすぎる風に、濡れた服が氷のような感触を与えた。……やべっ。まじ寒い。いや、寒いじゃない。そんな生温いもんじゃなくて、冷たいも通り越して、これは痛い。
「……急ごう」
男に手を引かれる。
「あの、ありがとうございます。でも見ず知らずの俺に、何でそんなに優しく?」
「何を言ってんだ? 放っておけないだろ? 放っておいたら、お前は凍死だよ。……それにこんな時季にブルタヴァで溺れていたような男だ。創作のネタになるかもだしな」
創作のネタって何だ? よく分からないけど、この男の優しさには、裏は無さそうだ。どこかに売り飛ばされたり……まぁ、30過ぎた俺が売り飛ばされる事はないだろうけど、そんな心配はなさそうだ。……それにしても、さっきから細い路地ばかりだ。迷路のような町の路地を、男は迷いもせずに右に左に曲がっている。
「……それで、お前の名前は?」
男は立ち止まらず、ちらりと振り返っただけで、名前を聞いてきた。
「あ、俺は偉介。結城偉介です」
「イスケか。俺はフランツ。フランツ・カフカだ」
フランツ・カフカ? だから見覚えのある顔だったんだ。って、何で? フランツなの? ヘランツとか、ホランツじゃないの? キフキとか、コフコじゃなくて、カフカなの? どう言う事? ハル君の世界線……あの微妙な、ちょいズレの。あの微妙なネーミングセンスはどこに行ったの?
「イスケ。着いたぞ。とりあえず湯を沸かそう」
何度も曲がりながら進んだ路地を抜けた所で、手を離したフランツ。その手が差した先を見上げると、バルコニーの付いた、4階建の白い館があった。……ここがカフカの家? これって歴史的に重要な建物じゃないんですか?
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