スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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最終章 町の名はパラフ。プラハじゃないです。……どう言う事?

7-8 パラフよ、さようなら。

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 あー、頭が痛い。えーっと。ああ、そうだ。ワインだ。飲み過ぎたか……。んっ? 何? 身動き取れないんですけど。えっ? うっそーん。また石棺とかですか? いや、違う。暗闇じゃないし、体に何か重い物が乗っている。何だ?
 あっ! 辛うじて腕は動く。胸の辺りを圧迫する重みに手を伸ばす。ん? これは足? ですか? ……ガバッ。重みを無視して起き上がる。

「痛っ」

 ベッドの下から聞こえた声。フランツだ。足元を見ると、がっつりツランフの足が太ももの上に乗っている。あーーー。身動き取れなかったのは、石棺じゃなくて二人に挟まれて寝ていたからですね。……フランツ。ベッドから落としてごめんなさい。

「……んっ? もう朝か?」

 目覚めが良いのか悪いのか、ツランフがのそりと起き上がる。

「おい、フランツも起きろ」

 ベッドの下のフランツを足の先でつつく。

「イスケは朝から快調らしいな」

 ツランフが大きな欠伸あくびをしながら体を伸ばしている。そりゃ快調に決まっている。アラーム無しで勝手に目覚められた朝だ。それに元の世界に戻る方法が分かったんだ。……頭を動かしたからか、起き抜けの頭の痛さも、すでに消えている。

「……フランツも早く起きろ」

「何だよ。そんなに慌てなくても、別にする事もないだろ?」

 だらしなく床に転がったままのフランツが言う。

「する事はある! プラハに帰るんだ!」

「え! 帰れるのか?」

 フランツが飛び起きる。早く帰りたいって気持ちはフランツも同じらしい。

「……お前達、もう帰るのか? もっとゆっくりして行けばいいのに」

 だけどツランフの声はどこか寂しそうだ。

「ツランフ悪いな。俺はプラハに帰って『変身』を書き上げないといけないんだ。……で、イスケ。どうやってプラハに帰るんだ?」

「ああ。えーっと、カルレ橋のヨンさんって聖人の所で、ツランフに突き落としてもらうんだ。それで帰れるらしい」

「何だ。要は川から現れた俺達を、また川に戻してもらえばいいって事だな」

「ああ。それとツランフには小説の一文を、紙に書いてもらわないといけないんだ。えーっと……」

 スマホを手にして、ハル君のLINEを読み上げる。

「……イスケ・ユウキとフランツ・カフカはカルレ橋の上から突き落とされた。この世から二人は消えたが、別の世界で二人は目覚めた。二人が目覚めた町はフランツが生まれた町、プラハだ。って、ツランフには書いて欲しいんだ」

 そう言うとフランツが、勝手にツランフの机の上の紙袋を漁り出した。

「おい、ツランフ。書け! 今、イスケが言った事を」

 ツランフに紙を差し出すフランツ。……何かいきなり怖い顔してますけど、それはきっと『変身』への執念ですね。何が何でもプラハに帰って、『変身』を仕上げるって言う気迫が見れるんですけど。

「書いてやるよ」

 ツランフが紙を奪い取る。……はい、はい。これで準備オーケーって事ですね。それじゃあ、さっさとカルレ橋に行きましょう。

 ツランフの家を出て、カルレ橋へ三人で向かう。フランツは機嫌が良いようで、鼻歌なんぞ交えているけど、ツランフは黙り込んでいる。俺とフランツが居なくなる事が、よっぽど寂しいらしい。

「……ツランフ。すまないな。でもここは俺とフランツの世界じゃないんだ」

「分かってるよ」

 ツランフが小さく笑う。無理をしている事は一目瞭然だ。

「……おーい、さっさと来いよ」

 浮かれているからか、何歩も先を行くフランツが手を挙げている。

「分かってるよ」

 そう言って見上げると、プラハで見た塔と同じ塔が目に飛び込んできた。

「あの塔の向こうがカルレ橋なのか?」

 尋ねると、「そうだよ」と、小さくツランフが答えた。フランツは随分先を歩いていたけど、ツランフと並んでゆっくり橋の上を歩く。その時だ。橋に並ぶ像の中に、見覚えのある像が見えてきた。

「……あれってヤポンスコの像か?」

「ヤポンスコ? あれはスコンヤポだけど。それがどうした」

「ああ。スコンヤポか。……あのスコンヤポが俺の国なんだ」

「ああ、そうだよな。イスケはどう見ても、変な顔だもんな」

「変な顔って何だよ!」

 暗かったツランフの顔にようやく明るさが戻った。

「……あれだよ。今、フランツがいる所。あれがヨン・ニポニスキの像だ」
 
「ヨンさん?」

「そうだよ」

 フランツは早々とヨンさんの像に並ぶように、欄干に腰掛けている。

「イスケも早く来いよ」

「ああ」
 
 足を掛けて、欄干に飛び乗る。ヨンさんがいて、フランツがいて、その隣りに並んで腰掛ける。何かおかしな光景じゃないかと、笑いそうになった。目の前には両腕を押し出そうとするツランフ。ツランフの後ろには真っ青な空だ。……ポリからコイロ、オーグラ、ワィーン、ニスカ、プラハ、そしてこのパラフと旅をして来たけど、一度だって自ら望んだ事はなかった。それなのに今は記憶を飛ばす事を切望している。

「いいか? 突き落とすぞ」

「ああ」

 フランツの返事を耳にして、ゆっくり目を閉じる。……ツランフ、さようなら。ツランフの父さん、母さん、さようなら。カルレ少年、さようなら。そしてパラフよ、さようなら。
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