1 / 70
第1章 町の名はポリ。パリじゃないです。
1-1 異世界転移です。
しおりを挟む
スマホを手にウトウトとしただけだった。荷下ろしに疲れた体は30歳を過ぎた辺りから、鈍くなっている。
「店長、もうすぐ開店の10時ですよ」
耳に飛び込んできたのはバイトのハル君の声。だけど目が開けられない。もう少し、もう少しだけ寝させてくれ。
ハル君は24歳じゃないか。毎朝張り切っていられるのも後、6、7年。
「店長!」
ハル君の声が一回り大きくなったけど、やっぱり目は開けられない。もう少し、もう少しだけ。
その時。手にしたスマホがブルっと震えた。
朝っぱらから誰だ?
もう少し眠っていたいが、美弥からのLINEなら、すぐに返信しないと殺される。
美弥は高校の時から付き合っている彼女だ。なんだかんだで15年は経ったけど、その月日は尻に敷かれる事に慣らされる時間だった。
薄っすらと目を開けてスマホをタップする。
ん? 何故、ハル君からLINEが?
(店長!もう開店です。どこに消えたんですか?すぐに戻って来てください)
消えた? 俺が?
薄っすらと開けた目をしっかりと開ける。ここはスーパーの、ライフマートユウキのバックヤード。目の前にはさっき荷下ろししたダンボールの山が……。
ない! あんなに苦労して下ろしたダンボールの山が、ない! ってか、ここは?
バックヤードでウトウトしていただけじゃないか。それなのに俺はなんで森の中にいるんだ?
なんか小鳥のさえずりが聞こえる。あっ、紫色の蝶々だ。んっ? 手に触れたキノコはなんて毒々しい青色なんだ。
って、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。
俺は荷下ろしの後、バックヤードでウトウトして……。ああ、夢なのか。俺はまだ夢の中にいるんだ。そうだ、そうだ。そうに違いない。
(店長消えたんで権介社長に連絡しましたよ。玲子専務めちゃくちゃ怒ってます。戻ったらどうぞしっかり怒られてください)
夢だと信じたい世界で、ハル君から更にLINEが届いた。社長の権介は俺の親父だ。そして専務の玲子はお袋だ。めちゃくちゃ怒ってるって、マジ勘弁して欲しい。
とりあえずハル君に返信だ。
(ハル君、ごめん。すぐに戻りたいんだけど、何か青いキノコがあって、紫色の蝶々がいて、小鳥のさえずりが聞こえる森に今いるんだ)
言い訳には難しい文面だけど、仕方ない。夢じゃなければ、これが事実なんだし。送信ボタンをタップする。
(えっ?マジすか?)
1分と待たずにハル君からの返信が。そりゃ、そうだろ。信じて貰えるはずはない。
(だよね。信じて貰えないよね。んじゃ、多分夢なんだと……)
(店長、夢じゃないですよ。今森にいるんですよね?紫色の蝶々に青いキノコ。もしかしてその森の名前、マンモルトルの森じゃ?)
ハル君の返信に周囲を見渡してみる。だけど紫の蝶々と青いキノコ。それに鬱蒼とした大木があるだけで、ここがハル君の言う、マンモルトルの森かは分からない。
マンモルトル? 確かモンマルトルの森ってのは聞いた事があるけど。そもそも都合よく森の名前が書いた看板なんて、あるはずがない。
(看板なんてないから、森の名前は分からない。周りに人もいないし)
(んじゃ、森に聞いてください)
森に聞く?
意味の分からないLINEを送ったけど、ハル君の返しは全く意味が分からない。でも、とりあえず聞いてみよう。
「あのう、森さん。この森の名前は?」
明らかに馬鹿げた独り言だった。32歳にもなって、なんなんだか。
ただの独り言だ。誰かが答えてくれるはずもない。と、思っていると。今まで吹いていなかった風が吹き出し、カサカサと葉が揺れる音が響きだした。
「わしの名前か? わしの名はマンモルトルだ」
突然鳴り響いた声。周りを見回しても誰もいない。嘘だろ。嘘だと言ってくれと願いながらも、もう一度尋ねてみる。
「あのう。森さんの名前はマンモルトルとおっしゃるんですね?」
「そうじゃ」
やっぱり森が喋っている。ハル君の言う通り、森に聞いてみて正解だった。
で、何でハル君は判っていたんだ? 直ぐにハル君のLINEをタップする。
(ハル君の言う通り、森に聞いたらマンモルトルだって)
(やっぱり。店長、いわゆる異世界に飛ばされちゃいました。僕がずっと書いてるファンタジー小説なんですけど、主人公がスーパーの店長で、異世界に飛ばされるんです。最初に飛ばされるのがマンモルトルの森なんです)
(えっ?どう言う事?)
(だから、店長は今異世界にいるんです)
えーーーーーーーーー⁈
誰の姿も見えない鬱蒼とした森で、一人大声を張り上げていた。
何の力が働いたのか、何の因果があるのかは分からないけど、結城偉介32歳、異世界に飛ばされちゃいました。
「店長、もうすぐ開店の10時ですよ」
耳に飛び込んできたのはバイトのハル君の声。だけど目が開けられない。もう少し、もう少しだけ寝させてくれ。
ハル君は24歳じゃないか。毎朝張り切っていられるのも後、6、7年。
「店長!」
ハル君の声が一回り大きくなったけど、やっぱり目は開けられない。もう少し、もう少しだけ。
その時。手にしたスマホがブルっと震えた。
朝っぱらから誰だ?
もう少し眠っていたいが、美弥からのLINEなら、すぐに返信しないと殺される。
美弥は高校の時から付き合っている彼女だ。なんだかんだで15年は経ったけど、その月日は尻に敷かれる事に慣らされる時間だった。
薄っすらと目を開けてスマホをタップする。
ん? 何故、ハル君からLINEが?
(店長!もう開店です。どこに消えたんですか?すぐに戻って来てください)
消えた? 俺が?
薄っすらと開けた目をしっかりと開ける。ここはスーパーの、ライフマートユウキのバックヤード。目の前にはさっき荷下ろししたダンボールの山が……。
ない! あんなに苦労して下ろしたダンボールの山が、ない! ってか、ここは?
バックヤードでウトウトしていただけじゃないか。それなのに俺はなんで森の中にいるんだ?
なんか小鳥のさえずりが聞こえる。あっ、紫色の蝶々だ。んっ? 手に触れたキノコはなんて毒々しい青色なんだ。
って、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。
俺は荷下ろしの後、バックヤードでウトウトして……。ああ、夢なのか。俺はまだ夢の中にいるんだ。そうだ、そうだ。そうに違いない。
(店長消えたんで権介社長に連絡しましたよ。玲子専務めちゃくちゃ怒ってます。戻ったらどうぞしっかり怒られてください)
夢だと信じたい世界で、ハル君から更にLINEが届いた。社長の権介は俺の親父だ。そして専務の玲子はお袋だ。めちゃくちゃ怒ってるって、マジ勘弁して欲しい。
とりあえずハル君に返信だ。
(ハル君、ごめん。すぐに戻りたいんだけど、何か青いキノコがあって、紫色の蝶々がいて、小鳥のさえずりが聞こえる森に今いるんだ)
言い訳には難しい文面だけど、仕方ない。夢じゃなければ、これが事実なんだし。送信ボタンをタップする。
(えっ?マジすか?)
1分と待たずにハル君からの返信が。そりゃ、そうだろ。信じて貰えるはずはない。
(だよね。信じて貰えないよね。んじゃ、多分夢なんだと……)
(店長、夢じゃないですよ。今森にいるんですよね?紫色の蝶々に青いキノコ。もしかしてその森の名前、マンモルトルの森じゃ?)
ハル君の返信に周囲を見渡してみる。だけど紫の蝶々と青いキノコ。それに鬱蒼とした大木があるだけで、ここがハル君の言う、マンモルトルの森かは分からない。
マンモルトル? 確かモンマルトルの森ってのは聞いた事があるけど。そもそも都合よく森の名前が書いた看板なんて、あるはずがない。
(看板なんてないから、森の名前は分からない。周りに人もいないし)
(んじゃ、森に聞いてください)
森に聞く?
意味の分からないLINEを送ったけど、ハル君の返しは全く意味が分からない。でも、とりあえず聞いてみよう。
「あのう、森さん。この森の名前は?」
明らかに馬鹿げた独り言だった。32歳にもなって、なんなんだか。
ただの独り言だ。誰かが答えてくれるはずもない。と、思っていると。今まで吹いていなかった風が吹き出し、カサカサと葉が揺れる音が響きだした。
「わしの名前か? わしの名はマンモルトルだ」
突然鳴り響いた声。周りを見回しても誰もいない。嘘だろ。嘘だと言ってくれと願いながらも、もう一度尋ねてみる。
「あのう。森さんの名前はマンモルトルとおっしゃるんですね?」
「そうじゃ」
やっぱり森が喋っている。ハル君の言う通り、森に聞いてみて正解だった。
で、何でハル君は判っていたんだ? 直ぐにハル君のLINEをタップする。
(ハル君の言う通り、森に聞いたらマンモルトルだって)
(やっぱり。店長、いわゆる異世界に飛ばされちゃいました。僕がずっと書いてるファンタジー小説なんですけど、主人公がスーパーの店長で、異世界に飛ばされるんです。最初に飛ばされるのがマンモルトルの森なんです)
(えっ?どう言う事?)
(だから、店長は今異世界にいるんです)
えーーーーーーーーー⁈
誰の姿も見えない鬱蒼とした森で、一人大声を張り上げていた。
何の力が働いたのか、何の因果があるのかは分からないけど、結城偉介32歳、異世界に飛ばされちゃいました。
297
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜
もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。
ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を!
目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。
スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。
何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。
やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。
「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ!
ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。
ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。
2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる