スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

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第1章 町の名はポリ。パリじゃないです。

1-1 異世界転移です。

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 スマホを手にウトウトとしただけだった。荷下ろしに疲れた体は30歳を過ぎた辺りから、鈍くなっている。

「店長、もうすぐ開店の10時ですよ」

 耳に飛び込んできたのはバイトのハル君の声。だけど目が開けられない。もう少し、もう少しだけ寝させてくれ。

 ハル君は24歳じゃないか。毎朝張り切っていられるのも後、6、7年。

「店長!」

 ハル君の声が一回り大きくなったけど、やっぱり目は開けられない。もう少し、もう少しだけ。

 その時。手にしたスマホがブルっと震えた。

 朝っぱらから誰だ?

 もう少し眠っていたいが、美弥みやからのLINEなら、すぐに返信しないと殺される。

 美弥は高校の時から付き合っている彼女だ。なんだかんだで15年は経ったけど、その月日は尻に敷かれる事に慣らされる時間だった。

 薄っすらと目を開けてスマホをタップする。

 ん? 何故、ハル君からLINEが?

(店長!もう開店です。どこに消えたんですか?すぐに戻って来てください)

 消えた? 俺が?

 薄っすらと開けた目をしっかりと開ける。ここはスーパーの、ライフマートユウキのバックヤード。目の前にはさっき荷下ろししたダンボールの山が……。

 ない! あんなに苦労して下ろしたダンボールの山が、ない! ってか、ここは?

 バックヤードでウトウトしていただけじゃないか。それなのに俺はなんで森の中にいるんだ?

 なんか小鳥のさえずりが聞こえる。あっ、紫色の蝶々だ。んっ? 手に触れたキノコはなんて毒々しい青色なんだ。

 って、そんな悠長な事を言っている場合じゃない。

 俺は荷下ろしの後、バックヤードでウトウトして……。ああ、夢なのか。俺はまだ夢の中にいるんだ。そうだ、そうだ。そうに違いない。

(店長消えたんで権介ごんすけ社長に連絡しましたよ。玲子専務めちゃくちゃ怒ってます。戻ったらどうぞしっかり怒られてください)

 夢だと信じたい世界で、ハル君から更にLINEが届いた。社長の権介は俺の親父だ。そして専務の玲子はお袋だ。めちゃくちゃ怒ってるって、マジ勘弁して欲しい。

 とりあえずハル君に返信だ。

(ハル君、ごめん。すぐに戻りたいんだけど、何か青いキノコがあって、紫色の蝶々がいて、小鳥のさえずりが聞こえる森に今いるんだ)

 言い訳には難しい文面だけど、仕方ない。夢じゃなければ、これが事実なんだし。送信ボタンをタップする。

(えっ?マジすか?)

 1分と待たずにハル君からの返信が。そりゃ、そうだろ。信じて貰えるはずはない。

(だよね。信じて貰えないよね。んじゃ、多分夢なんだと……)

(店長、夢じゃないですよ。今森にいるんですよね?紫色の蝶々に青いキノコ。もしかしてその森の名前、マンモルトルの森じゃ?)

 ハル君の返信に周囲を見渡してみる。だけど紫の蝶々と青いキノコ。それに鬱蒼うっそうとした大木があるだけで、ここがハル君の言う、マンモルトルの森かは分からない。

 マンモルトル? 確かモンマルトルの森ってのは聞いた事があるけど。そもそも都合よく森の名前が書いた看板なんて、あるはずがない。

(看板なんてないから、森の名前は分からない。周りに人もいないし)

(んじゃ、森に聞いてください)

 森に聞く?

 意味の分からないLINEを送ったけど、ハル君の返しは全く意味が分からない。でも、とりあえず聞いてみよう。

「あのう、森さん。この森の名前は?」

 明らかに馬鹿げた独り言だった。32歳にもなって、なんなんだか。

 ただの独り言だ。誰かが答えてくれるはずもない。と、思っていると。今まで吹いていなかった風が吹き出し、カサカサと葉が揺れる音が響きだした。

「わしの名前か? わしの名はマンモルトルだ」

 突然鳴り響いた声。周りを見回しても誰もいない。嘘だろ。嘘だと言ってくれと願いながらも、もう一度尋ねてみる。

「あのう。森さんの名前はマンモルトルとおっしゃるんですね?」

「そうじゃ」

 やっぱり森が喋っている。ハル君の言う通り、森に聞いてみて正解だった。

 で、何でハル君は判っていたんだ? 直ぐにハル君のLINEをタップする。

(ハル君の言う通り、森に聞いたらマンモルトルだって)

(やっぱり。店長、いわゆる異世界に飛ばされちゃいました。僕がずっと書いてるファンタジー小説なんですけど、主人公がスーパーの店長で、異世界に飛ばされるんです。最初に飛ばされるのがマンモルトルの森なんです)

(えっ?どう言う事?)

(だから、店長は今異世界にいるんです)

 えーーーーーーーーー⁈

 誰の姿も見えない鬱蒼とした森で、一人大声を張り上げていた。

 何の力が働いたのか、何の因果があるのかは分からないけど、結城ゆうき偉介いすけ32歳、異世界に飛ばされちゃいました。
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