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第1章 町の名はポリ。パリじゃないです。
1-9 巨大水鉄砲7挺です。
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結局、一睡も眠れなかった。12,460円を支払って、巨大水鉄砲を手に入れたけど、落ち着かない。夜中に娼館を出て、水鉄砲7挺に聖水をこめてみたけど、落ち着かない。
目を閉じてもすぐに開いて、気付いた時には、もう明るくなり始めた空があった。
「おはよう!」
朝食を食べようと、仕方なく食堂へ下りると、タミラが元気よく挨拶してきた。
「おはよう……」
「イスケ、朝から元気ないねぇ。あ、もしかして、ねぇさん達の誰かと朝まで?」
そんな気力も体力もない! そう言い返したかったけど、言い返す気力もない。それに本番はこれからだ。今日、俺は魔物と戦う事になる。……そして、死ぬかも。
首をぶるんぶるんと横に振る。あー、戦うとか無理だー。嫌だー。そもそも俺、商人だし。勇者とか冒険者じゃないし。なのに何で戦う事になるのー? 全く意味が分からない。
(ハル君。起きてるー? 俺、本当に戦わなきゃならんの? 出来たら、書き直して欲しいなあ)
すぐには既読にはならないLINEをぼんやりと眺める。
「……イスケは今日、この町を発つの?」
皿を運んできたタミラが、目の前の椅子に座る。
「いや、分からないし、まだ決めてない」
もしかして、今日、死んでしまうかもしれないのに、先の事なんか、何も分からない。
んっ? 目の前に出された皿の、豆をフォークですくおうとした時。股の間から顔を覗かせる、小さな女の子に気づいた。……いつの間に。
「こら! レイラ! そんなとこ入っちゃ、ダメでしょ。クサい、クサい。なんだから!」
タミラが女の子を叱りつける。でも、今、何かが大きく引っかかった。……クサい、クサい。ん? 俺の股が臭いって事か? もう充分に滅入っているのに、何だ? この追い討ちは。
テーブルの下に、タミラが手を伸ばして、女の子……レイラを捕まえている。
「レイラって言うんだな。お前の娘? 妹? か?」
「ああ、血は繋がってないけど、一応、妹。もう死んじゃったけど、リリアって言うねぇさんがいて、そのねぇさんの子供なの。この子が生まれて、すぐねぇさんは死んじゃったから、うちで面倒みてる」
すでにレイラはタミラの手を離れて、食堂の中を走り回っている。
ウーーー、ウーーーーーー。
「何の音だ?」
突然、鳴り響いた音は、外から聞こえてきた。タミラが食堂を飛び出す。もしかして、魔物が来たのか?
慌てて階段を駆け上がり、巨大水鉄砲を手に取る。少し強引ではあるけど、両肩に3挺ずつかけ、1挺を手にする。
「……タミラ!」
階段を駆け降りて、娼館の外へ出る。ウーーーーー。サイレンなのか? まだ音は止んでいない。音に驚いて、逃げ惑う人達を縫って、タミラを探す。
居た。タミラの後ろ姿を見つける。
「タミラ!」
声に気付いたタミラが振り返る。
「この音って?」
「バローニュの森から魔物が攻めてくるらしい。まだ姿は見えていないけど、もう森を出ているみたい」
「ノポレオンなのか?」
「多分」
ハル君の言った通りだ。
「イスケ、それは何?」
タミラの目に、巨大水鉄砲が映ったようだ。いや、注視しなくても気になるはずだ。巨大水鉄砲はあくまで子供用のオモチャだ。青、黄色、オレンジ。派手な色のオモチャを手にして、肩にまで掛けているんだから。
「……これは、魔物と戦うための武器だ」
「戦うって、イスケは商人だよね? 昨日、広場で魔道具を売っていたし」
そうだった。俺は商人だ。それなのに、何で戦わないといけないんだ? ……ハル君。設定が綻んでいないか?
「まあ、そうなんだけど。俺も戦うらしい」
戦う理由なんてないけど、戦うしか途がないってのは、分かっている。
んっ? 騎馬隊? 気が付いたら、サイレンは止み、通りをバローニュ門に向けて近づいてくる、集団が目に入った。
「この町に魔物を入れないために、我々はバローニュの森を目指す! 我こそはと思う者は続け! また魔物達は幼児を知らぬ間に、攫っているらしい。くれぐれも幼児から目を離すな!」
隊長だろうか。騎馬隊の先頭にいた、いかにも武将と言った、猛々しい男が声を上げた。
「あっ、レイラは?」
タミラが慌てて、娼館へ戻る。サイレンが鳴り始めた時は、まだ食堂にいたはずだ。
「居たか?」
食堂のドアは開けっぱなしだった。
「ううん。どこにも居ない」
「まさか!」
タミラが膝から、崩れ落ちた。すでに隙を突いて、連れ去ったと言うのか? もしそうなら、戦う理由が出来てしまったじゃないか。
目を閉じてもすぐに開いて、気付いた時には、もう明るくなり始めた空があった。
「おはよう!」
朝食を食べようと、仕方なく食堂へ下りると、タミラが元気よく挨拶してきた。
「おはよう……」
「イスケ、朝から元気ないねぇ。あ、もしかして、ねぇさん達の誰かと朝まで?」
そんな気力も体力もない! そう言い返したかったけど、言い返す気力もない。それに本番はこれからだ。今日、俺は魔物と戦う事になる。……そして、死ぬかも。
首をぶるんぶるんと横に振る。あー、戦うとか無理だー。嫌だー。そもそも俺、商人だし。勇者とか冒険者じゃないし。なのに何で戦う事になるのー? 全く意味が分からない。
(ハル君。起きてるー? 俺、本当に戦わなきゃならんの? 出来たら、書き直して欲しいなあ)
すぐには既読にはならないLINEをぼんやりと眺める。
「……イスケは今日、この町を発つの?」
皿を運んできたタミラが、目の前の椅子に座る。
「いや、分からないし、まだ決めてない」
もしかして、今日、死んでしまうかもしれないのに、先の事なんか、何も分からない。
んっ? 目の前に出された皿の、豆をフォークですくおうとした時。股の間から顔を覗かせる、小さな女の子に気づいた。……いつの間に。
「こら! レイラ! そんなとこ入っちゃ、ダメでしょ。クサい、クサい。なんだから!」
タミラが女の子を叱りつける。でも、今、何かが大きく引っかかった。……クサい、クサい。ん? 俺の股が臭いって事か? もう充分に滅入っているのに、何だ? この追い討ちは。
テーブルの下に、タミラが手を伸ばして、女の子……レイラを捕まえている。
「レイラって言うんだな。お前の娘? 妹? か?」
「ああ、血は繋がってないけど、一応、妹。もう死んじゃったけど、リリアって言うねぇさんがいて、そのねぇさんの子供なの。この子が生まれて、すぐねぇさんは死んじゃったから、うちで面倒みてる」
すでにレイラはタミラの手を離れて、食堂の中を走り回っている。
ウーーー、ウーーーーーー。
「何の音だ?」
突然、鳴り響いた音は、外から聞こえてきた。タミラが食堂を飛び出す。もしかして、魔物が来たのか?
慌てて階段を駆け上がり、巨大水鉄砲を手に取る。少し強引ではあるけど、両肩に3挺ずつかけ、1挺を手にする。
「……タミラ!」
階段を駆け降りて、娼館の外へ出る。ウーーーーー。サイレンなのか? まだ音は止んでいない。音に驚いて、逃げ惑う人達を縫って、タミラを探す。
居た。タミラの後ろ姿を見つける。
「タミラ!」
声に気付いたタミラが振り返る。
「この音って?」
「バローニュの森から魔物が攻めてくるらしい。まだ姿は見えていないけど、もう森を出ているみたい」
「ノポレオンなのか?」
「多分」
ハル君の言った通りだ。
「イスケ、それは何?」
タミラの目に、巨大水鉄砲が映ったようだ。いや、注視しなくても気になるはずだ。巨大水鉄砲はあくまで子供用のオモチャだ。青、黄色、オレンジ。派手な色のオモチャを手にして、肩にまで掛けているんだから。
「……これは、魔物と戦うための武器だ」
「戦うって、イスケは商人だよね? 昨日、広場で魔道具を売っていたし」
そうだった。俺は商人だ。それなのに、何で戦わないといけないんだ? ……ハル君。設定が綻んでいないか?
「まあ、そうなんだけど。俺も戦うらしい」
戦う理由なんてないけど、戦うしか途がないってのは、分かっている。
んっ? 騎馬隊? 気が付いたら、サイレンは止み、通りをバローニュ門に向けて近づいてくる、集団が目に入った。
「この町に魔物を入れないために、我々はバローニュの森を目指す! 我こそはと思う者は続け! また魔物達は幼児を知らぬ間に、攫っているらしい。くれぐれも幼児から目を離すな!」
隊長だろうか。騎馬隊の先頭にいた、いかにも武将と言った、猛々しい男が声を上げた。
「あっ、レイラは?」
タミラが慌てて、娼館へ戻る。サイレンが鳴り始めた時は、まだ食堂にいたはずだ。
「居たか?」
食堂のドアは開けっぱなしだった。
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