スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの

文字の大きさ
11 / 70
第2章 町の名はコイロ。カイロじゃないです。

2-1 砂漠の名はハサラです。

しおりを挟む
 暑い。何だ、この暑さは。それに、やけに喉が渇いている。

 ああ、俺は寝てたのか。喉は渇いているけど、体は重くない。きっと充分な睡眠を取れたんだろう。……んっ? 体を起こすと、そこは……。

 一面、黄色みがかったベージュの世界だった。えっ? ここどこ? もしかして砂漠? どれだけ回りを見回しても、砂のベージュと空の青以外は目に映らない。

 ……そして俺は誰もいない砂漠で、一人叫んでいた。

「ハル君ーーーーー!」

 ……じゃ、なかった。喉が渇いて痛いのに、わざわざ叫ぶ必要はない。ポケットを探るとスマホがあるはずだ。

 ほら、あった。……LINEを、と。

(店長。目が覚めたら、連絡ください)

 ハル君からのLINEに安心できた。ハル君がいれば、俺はどんな世界でも生きていける。いや、元の世界に戻りたい。いや、在庫処分だ! 過剰在庫を売り捌きたい!

(ハル君。起きたよ。何か周り、砂漠しかないんだけど)

(やっと起きたんですね。随分、寝てましたね)

 どれだけ寝てたのかは、分からないけど。ハル君の言葉には、トゲがある。……俺、何か怒らせる事をしただろうか?

(すみません。で、起きたら周りに砂漠しかないんだけど、俺はどこにいるんでしょう?)

(砂漠があるなら、砂漠に聞いてください)

 んー、またこのパターン。……それにしても、何を怒っているんだろう? まぁ、仕方ない。

「砂漠さん! ここはどこですか?」

 2回目でも、やっぱり恥ずかしい。32歳にもなって、俺、何してんだろう。

「今、誰か、僕の事を呼んだかな?」

 ん? 何だ? 声は返ってきたけど、この威厳のない声は。

「あのぅ、砂漠さん。お名前教えてくれませんか?」

「ああ、僕の名前? 僕はハサラって言うんだよ。よろしくねー」

「はい、ハサラさんですね。よろしくです」

 何だかなー。ピリッとしてないと言うか、気が抜けると言うか。んー、で、ハサラって、どこだ? ハサラ、ハサラ、ハサラ……。もしかしてサハラ砂漠?!

 まあ、とりあえず喉を潤そう。

 はい。スポーツドリンク、110円。

 そう言えば、砂漠なんか写真か、映像でしか見た事がない。こんな世界だったとは、知りもしなかった。……キレイだな。

「あれ? 今、僕の事、キレイって誉めてくれた?」

 マジ? 声漏れちゃってた? それか、砂漠に心読まれちゃってる? やばい、やばい。

「あ、すみません。誉めました」

「謝らなくてもいいよー。誉めてくれて、ありがとうねー」

 んー。やっぱり気が抜ける。ここは、さっさと用件を聞き出して、後にしよう。

「……ハサラさん。ちょっと聞かせてください。ここはどこの国ですか? それと近くに町はありますか?」

「ええー、知らないの? 教えてあげてもいいけど、僕もそれ飲みたいー」

 砂漠がスポドリ飲むの? 意味分からんですが、購入しますよ。しかもサービスです。2リットルサイズ、198円です。

「大きいのくれるの? ありがとうねー。ここはね、オジプトって国でね、2キロくらいかなー? 東に行った所にニイル川ってのがあって、その川越えると、この国の王都のコイロだよー。僕、親切でしょ? だからもう1本よろしくねー」

 はい、はい。オジプトって事は、エジプトね。ニイル川って事は、ナイル川で。コイロって事は、カイロですね!

 この微妙にズレたネーミングセンスにも慣れたみたいだ。とりあえずハル君にLINEを送っておこう。

(砂漠さんに聞いたら、ハサラ砂漠って所でした。2キロ先にニイル川があって、川を越えるとオジプトって国の王都のコイロらしいんで、これからコイロ目指します)

 なかなか意味不明な内容だった。だけどここはハル君が書いた小説の世界だ。ハル君にとっては、簡単に理解できる事だろう。

 って、何で既読にならないんですか? ハル君。何を怒っているんですか? 分からん、分からん、分からん。でも、仕方ない。

「おーい、もう1本。忘れないでねー」

 あっ。

 2本目のスポドリを砂漠さんに供えて、2キロの道を歩き出す。

「お供えじゃないよー。僕、生きてるよー」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

処理中です...