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序章
第14話 鉄壁のメイド長と、小さな勇者の来訪
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自室の窓から差し込む午後の日差しを背に受けて、私は腕組みをしながら部屋の中をウロウロと歩き回っていた。
私の頭の中にあるのは、ただ一つのミッションについてだ。
作戦名、森への単独潜入。
クライブとの秘密特訓を経て、私の『省エネ魔法』は実戦でも通用するレベルに達しつつある。
次のステップに進むためには、森へ入り、魔物にどの程度魔法が通じるのか気になる。
「……問題は、どうやって抜け出すか、ね」
私は重厚な扉を睨みつけた。
この部屋から森へ行くこと自体は造作もない。
窓から飛び降りて、風魔法で着地すればいいだけだ。
だが、最大の問題は「誰にもバレずに」行って帰ってくることだ。
騎士クライブは、もはや私の共犯者だ。
彼が巡回しているルートと時間帯を選べば、騎士団の監視網はザルのように抜けられるだろう。
しかし、この屋敷には騎士団よりも遥かに恐ろしい、鉄壁の防衛システムが存在する。
「……アミナ」
その名を呟くだけで、背筋に冷たいものが走る。
アミナ・ルークス。
この辺境伯家のメイド長を務める、黒髪ショートカットのクールビューティーだ。
彼女はただのメイドではない。断じて違う。
まだ二十代前半という若さで、古参のメイドたちを統率する手腕。
屋敷のどこに埃が落ちているかを瞬時に見抜く鷹のような目。
そして、気配を完全に消して背後に立つ隠密スキル。
エルシアとしての記憶を掘り返してみると、彼女の異質さは際立っている。
父、ローウェンが数年前、王都からの左遷が決まった際に、どこからか個人的にスカウトしてきた人材らしい。
表向きは優秀な使用人だが、その身のこなしは完全に武人のそれだ。
あのアミナの目は誤魔化せない……。
以前、私が廊下で転びそうになった時、彼女はトレーを持ったまま残像が見えるほどの速度で移動し、私を抱きとめたことがある。
紅茶一滴こぼさずに、だ。
「父も、とんでもない人材を拾ってきたものね」
そんな彼女が、最近は特に監視の目を光らせている。
一日に何度も「お加減はいかがですか」とお茶を持ってくるし、私がトイレに行くだけで廊下の影から見守っている気配がする。
過保護すぎる。
これでは、森へ行くどころか、トイレに行くのも命がけだ。
「はぁ……もうバレるの前提でいくか……」
私はベッドに仰向けに倒れ込み、天井を見上げた。
アミナのシフトの隙を突くか?
いや、彼女に隙などない。
寝ている時ですら目を開けていそうだ。
思考が袋小路に入り込み、私が唸り声を上げていた、その時だった。
コン、コン。
控えめなノックの音が、静寂を破った。
「――ッ!?」
私は弾かれたように飛び起き、身構えた。
「……ど、どなた?」
私は努めて冷静な、愛らしい令嬢の声を作って返事をした。
すると、扉の向こうから、もごもごとした幼い声が聞こえてきた。
「……おねえちゃん、いる?」
その声を聞いた瞬間、私の全身から警戒心が抜け落ち、代わりにふにゃりとした感情が湧き上がった。
「デイル!」
私は小走りで扉に駆け寄り、鍵を開けた。
そこに立っていたのは、私の最愛の弟、デイルだった。
三歳になったばかりの彼は、自分の体ほどもある大きなクマのぬいぐるみを抱きしめ、少し不安そうに上目遣いで私を見上げていた。
「どうしたの? 寂しくなっちゃった?」
私が目線を合わせて尋ねると、デイルはコクリと頷き、恥ずかしそうにクマのぬいぐるみを差し出した。
「あのね、いっしょに……あそぼ?」
私の胸の奥で、何かが撃ち抜かれる音がした。
私の頭の中にあるのは、ただ一つのミッションについてだ。
作戦名、森への単独潜入。
クライブとの秘密特訓を経て、私の『省エネ魔法』は実戦でも通用するレベルに達しつつある。
次のステップに進むためには、森へ入り、魔物にどの程度魔法が通じるのか気になる。
「……問題は、どうやって抜け出すか、ね」
私は重厚な扉を睨みつけた。
この部屋から森へ行くこと自体は造作もない。
窓から飛び降りて、風魔法で着地すればいいだけだ。
だが、最大の問題は「誰にもバレずに」行って帰ってくることだ。
騎士クライブは、もはや私の共犯者だ。
彼が巡回しているルートと時間帯を選べば、騎士団の監視網はザルのように抜けられるだろう。
しかし、この屋敷には騎士団よりも遥かに恐ろしい、鉄壁の防衛システムが存在する。
「……アミナ」
その名を呟くだけで、背筋に冷たいものが走る。
アミナ・ルークス。
この辺境伯家のメイド長を務める、黒髪ショートカットのクールビューティーだ。
彼女はただのメイドではない。断じて違う。
まだ二十代前半という若さで、古参のメイドたちを統率する手腕。
屋敷のどこに埃が落ちているかを瞬時に見抜く鷹のような目。
そして、気配を完全に消して背後に立つ隠密スキル。
エルシアとしての記憶を掘り返してみると、彼女の異質さは際立っている。
父、ローウェンが数年前、王都からの左遷が決まった際に、どこからか個人的にスカウトしてきた人材らしい。
表向きは優秀な使用人だが、その身のこなしは完全に武人のそれだ。
あのアミナの目は誤魔化せない……。
以前、私が廊下で転びそうになった時、彼女はトレーを持ったまま残像が見えるほどの速度で移動し、私を抱きとめたことがある。
紅茶一滴こぼさずに、だ。
「父も、とんでもない人材を拾ってきたものね」
そんな彼女が、最近は特に監視の目を光らせている。
一日に何度も「お加減はいかがですか」とお茶を持ってくるし、私がトイレに行くだけで廊下の影から見守っている気配がする。
過保護すぎる。
これでは、森へ行くどころか、トイレに行くのも命がけだ。
「はぁ……もうバレるの前提でいくか……」
私はベッドに仰向けに倒れ込み、天井を見上げた。
アミナのシフトの隙を突くか?
いや、彼女に隙などない。
寝ている時ですら目を開けていそうだ。
思考が袋小路に入り込み、私が唸り声を上げていた、その時だった。
コン、コン。
控えめなノックの音が、静寂を破った。
「――ッ!?」
私は弾かれたように飛び起き、身構えた。
「……ど、どなた?」
私は努めて冷静な、愛らしい令嬢の声を作って返事をした。
すると、扉の向こうから、もごもごとした幼い声が聞こえてきた。
「……おねえちゃん、いる?」
その声を聞いた瞬間、私の全身から警戒心が抜け落ち、代わりにふにゃりとした感情が湧き上がった。
「デイル!」
私は小走りで扉に駆け寄り、鍵を開けた。
そこに立っていたのは、私の最愛の弟、デイルだった。
三歳になったばかりの彼は、自分の体ほどもある大きなクマのぬいぐるみを抱きしめ、少し不安そうに上目遣いで私を見上げていた。
「どうしたの? 寂しくなっちゃった?」
私が目線を合わせて尋ねると、デイルはコクリと頷き、恥ずかしそうにクマのぬいぐるみを差し出した。
「あのね、いっしょに……あそぼ?」
私の胸の奥で、何かが撃ち抜かれる音がした。
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