ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら

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序章

第36話 破壊されたバリケード

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私はその手を優しく、しかし力強くほどいた。

 そして、迫りくる魔物を睨みつける。

「私がやる」

 言葉は短く。

 覚悟は重く。

 私は右手を突き出した。

 オークとの距離、あと十メートル。

 奴が戦斧を振り上げる。

「貫け――『スナイプ・ファイア(狙撃炎)』!」

 私は即座に魔法を放った。

 大火力ではない。針のように細く、鋭く圧縮した炎の弾丸。

 狙うは一点、あの分厚い皮膚に覆われていない唯一の急所――眼球。

 シュッ!

 赤い閃光が走り、オークの左目に吸い込まれた。

「ギャアアアアッ!!」

 オークが顔を押さえてのけぞる。

 命中だ。

 だが――倒れない。

 眼球を焼かれた激痛に狂い、奴は滅茶苦茶に戦斧を振り回し始めた。

 ブンッ!!

 暴風のような風圧が私を襲う。

 浅い。脳まで届いていない。

 あの巨体の生命力は、ゴキブリ並みだ。

「グガアアッ!!」

 残った右目で私を睨み、オークが再び斧を振り上げた。

 今度は、怒りに任せた全力の一撃だ。

 私の小さな体など、消し飛んでしまうほどの圧力。

 くっ……もう一発、トドメを……!

 私は再び魔力を練ろうとした。

 しかし。

 プツン。

 体の中で、糸が切れる音がした。

 指先から火花が散るだけで、魔法が発動しない。

 ――間に合わない。

 巨大な斧の刃が、スローモーションのように落下してくる。

 死の影が私を覆う。

 後ろで子供たちが悲鳴を上げている。

 その時。

「ミャウッ!!」

 私の肩に乗っていたクロが、鋭く鳴いた。

 クロの体が光り輝き、その小さな前足が私の首筋に押し当てられた。

 ドクンッ!!

 衝撃。

 いや、それは爆発的なエネルギーの注入だった。

 先ほどの治療の時とは比べ物にならない、熱く、荒々しく、そして強大な魔力の塊が、私の体内に無理やりねじ込まれる。

 ショートしかけていた魔力が、その奔流によって強制的に再起動し、限界を超えて拡張される。

 全身が燃えるようだ。

 魔力が溢れてくる。制御できないほどの力が。

 これなら――いける!

 私は斧が届く直前、両手を天に突き上げた。

 詠唱はいらない。イメージだけでいい。

 あの熊を葬った時と同じ、いや、それ以上の火力を。

「消え去れ、塵も残さず――『アル・イグニス(焦熱の柱)』ッ!!」

 ズドオオオオオオオオオッッ!!!

 私の足元からではなく、ハイ・オークの足元から、紅蓮の炎が噴き上がった。

 それは火の玉などではない。

 天まで届くかのような、巨大な炎の柱だ。

 超高熱のプラズマが、オークの巨体を丸ごと飲み込む。

「ギ、ギャ……ア……?」

 断末魔すら一瞬で掻き消えた。

 鋼鉄のような皮膚も、分厚い筋肉も、巨大な戦斧さえも。

 炎の柱の中で、すべてが灰へと還っていく。

 数秒後。

 炎が消えると、そこには炭化した地面と、風に舞う塵だけが残っていた。

 オークは、跡形もなく消滅していた。

 シーン……。

 戦場に、完全な静寂が訪れた。

 村人も、騎士も、そして戦っていたクライブさえも、手を止めて呆然と私を見つめている。

「……はぁ、はぁ……」

 私は肩で息をしながら、ゆっくりと腕を下ろした。

 クロが、私の頬をペロリと舐める。

「……嘘だろ」

 クライブの声が響いた。

 彼の方を見れば、一体目のオークが地面に転がっていた。

 どうやら、私の魔法に気を取られた隙に、彼も決着をつけたらしい。

 クライブは血振るいをして剣を納めると、幽霊でも見るような顔で私に歩み寄ってきた。

「お嬢様……今の、何すか? 上位魔法ですよね? しかも、あんな規模の……」 

「……だから言ったでしょ。私は天才だって」

 私は強がって笑おうとしたが、頬が引きつった。

 さすがに、今の魔法は体に堪えた。

 クロの補助がなければ、私の体の方が燃え尽きていただろう。

「天才とか、そういうレベルじゃねぇっすよ……。あんなの……」

 クライブは頭を抱えた。

 しかし、感傷に浸っている時間はない。

「……それより、クライブ。外よ」

 私は村の入り口、破壊されたバリケードの向こうを指差した。

 なぜ、オークが二体も侵入できたのか。

 前線はどうなっているのか。

「……そうっすね。嫌な予感がする」

 クライブの表情が引き締まる。

 私たちは顔を見合わせ、走り出した。

 村人たちの制止を振り切り、壊された門の外へと出る。

 そこで見た光景に、私は言葉を失った。

「……そんな」

 前線は、崩壊していた。

 父が築いていたはずの防衛線はずたずたに引き裂かれ、騎士たちが散り散りになって後退してくるのが見えた。

 そして、その向こう側。

 黒い霧の中から、さらに多くの魔物の群れが、そしてそれらを統率する「何か」が、ゆっくりとこちらへ迫ってきていた。

「旦那様たちの旗が見えねぇ……。まさか、やられたのか?」

 クライブの声が震えた。

 父の安否が分からない。

「見に行くわ」

 私は即座に言った。

 クロが私の肩に爪を立て、同意を示す。

「お嬢様! 危険すぎる!」 

「じゃあ、ここで指をくわえて待っているの? 父が死ぬのを?」

 私はクライブを睨みつけた。

 クライブは一瞬怯んだが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になり、ため息をついた。

「……あー、もう! わかったっすよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」 

「クライブ……」

「その代わり、俺から絶対離れないでくださいよ! 何かあったら、俺がお嬢様を担いで逃げますからね!」

 クライブは再び剣を抜き、私の前に立った。

 私たちは黒煙の立ち込める戦場へと足を踏み入れる。

 一体、何が起きているのか。

 その真実を確かめるために。
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