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序章
第48話 騎士の予約
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父に?
私は首を傾げる。
復興作業中に叱られるようなヘマをしたようには見えないけれど。
「なんで?」
「『貴様、最近エルシアと馴れ馴れしすぎるぞ!』って」
私は思わず吹き出しそうになった。
「なんですか、あの眼光は。魔人を前にした時より殺気立ってましたよ。『どこでそんなに仲良くなったんだ』とか、『まさか変なことを吹き込んでるんじゃないだろうな』とか……。いやあ、娘を愛する父親ってのは恐ろしいもんです」
クライブは大げさに身震いしてみせた。
確かに、私とクライブが話している場面は多かった。
事情を知らない父から見れば、愛娘が急接近しているように見えて、気が気じゃなかったのだろう。
「ごめんね、私のせいで」
「いえいえ。信頼されている証拠だと思って耐えますよ。……それに」
そこでクライブは言葉を切り、水筒の蓋を閉めた。
視線が、ふと遠くへ向けられる。
村の向こう。森の向こう。
もっと遠くの、見知らぬ世界を見つめるような目だった。
その横顔から、先ほどまでの冗談めいた空気が消える。
「……それに、叱られるくらい安いもんです」
声のトーンが、一段低くなった。
「お嬢様」
「ん?」
私が小首をかしげると、クライブは真剣な眼差しで私を見据えた。
「俺はね、思うんです。このアシュレイン領は、いい場所だ。人も温かいし、飯も美味い。旦那様も立派な領主だ」
「うん」
「でも……お嬢様には、ここは少し狭すぎるのかもしれない」
ドキリとした。
彼の目は、私の本質を見抜いているようだった。
六歳の子供の皮を被った、規格外の魔女。
その魂の在り方を、彼は本能的に感じ取っている。
「お嬢様は、いつか遠くに行ってしまいそうな気がするんです。この領地を救ったように、もっと広い世界で、何かデカイことをやるために」
それは予感であり、確信めいた響きを持っていた。
私は体を起こし、クロを膝の上に乗せ直す。
否定はしなかった。
今は力を蓄える時期だ。
でも、いつか魔王軍の影が再び忍び寄った時、あるいは弟子に迫る時、私はこの安住の地を出なければならないかもしれない。
「……もし、そうなったら?」
私が試すように尋ねると、クライブはニヤリと笑った。
それは騎士としての忠誠と、悪ガキのような冒険心が混ざり合った、魅力的な笑みだった。
「そのときは……旦那様に頭を下げてでも、護衛としてついていきますよ」
「え?」
「放っておけないでしょう。お嬢様は強いけど、無茶をする。誰かが手綱を握って、背中を守ってやらなきゃならない。……それができるのは、俺くらいっす」
クライブは胸を叩いた。
「だから、予約しときます。お嬢様が旅立つときは、このクライブがお供します。荷物持ちでも、盾役でも、なんでもやりますよ」
それは、実質的な私への忠誠の誓いだった。
父の騎士でありながら、魂の主を私に定めたという宣言。
私は膝の上のクロを撫でながら、ふふっと笑った。
「そう? ……物好きだね、クライブも」
「はは、よく言われます」
「わかった。なら、そのときはついてきてもらおうかなー」
軽い口調で返したけれど、それは契約の成立だった。
クライブもそれを理解しているのだろう。
満足そうに深く頷いた。
「よし、言質は取った! これでもう、お嬢様は俺を置いてけぼりにはできないってわけだ」
「あはは、そうだね」
木漏れ日が揺れる。
風が吹き抜け、葉擦れの音がさわさわと心地よい音楽のように響く。
私はクライブを見つめ、そして腕の中のクロを見つめる。
一人じゃない。
魔力という力の支えになってくれるクロ。
そして、物理的な支えとなり、背中を預けられるクライブ。
最強の「共犯者」たちを得て、私は前世では感じられなかった種類の強さを手に入れたような気がした。
私たちは顔を見合わせ、いたずらが成功した子供のように笑い合った。
父にバレたらまた叱られそうだけど、この絆は、誰にも邪魔できない。
二人の絆は、この午後のひとときを通じて、より強固なものになるのだった。
私は首を傾げる。
復興作業中に叱られるようなヘマをしたようには見えないけれど。
「なんで?」
「『貴様、最近エルシアと馴れ馴れしすぎるぞ!』って」
私は思わず吹き出しそうになった。
「なんですか、あの眼光は。魔人を前にした時より殺気立ってましたよ。『どこでそんなに仲良くなったんだ』とか、『まさか変なことを吹き込んでるんじゃないだろうな』とか……。いやあ、娘を愛する父親ってのは恐ろしいもんです」
クライブは大げさに身震いしてみせた。
確かに、私とクライブが話している場面は多かった。
事情を知らない父から見れば、愛娘が急接近しているように見えて、気が気じゃなかったのだろう。
「ごめんね、私のせいで」
「いえいえ。信頼されている証拠だと思って耐えますよ。……それに」
そこでクライブは言葉を切り、水筒の蓋を閉めた。
視線が、ふと遠くへ向けられる。
村の向こう。森の向こう。
もっと遠くの、見知らぬ世界を見つめるような目だった。
その横顔から、先ほどまでの冗談めいた空気が消える。
「……それに、叱られるくらい安いもんです」
声のトーンが、一段低くなった。
「お嬢様」
「ん?」
私が小首をかしげると、クライブは真剣な眼差しで私を見据えた。
「俺はね、思うんです。このアシュレイン領は、いい場所だ。人も温かいし、飯も美味い。旦那様も立派な領主だ」
「うん」
「でも……お嬢様には、ここは少し狭すぎるのかもしれない」
ドキリとした。
彼の目は、私の本質を見抜いているようだった。
六歳の子供の皮を被った、規格外の魔女。
その魂の在り方を、彼は本能的に感じ取っている。
「お嬢様は、いつか遠くに行ってしまいそうな気がするんです。この領地を救ったように、もっと広い世界で、何かデカイことをやるために」
それは予感であり、確信めいた響きを持っていた。
私は体を起こし、クロを膝の上に乗せ直す。
否定はしなかった。
今は力を蓄える時期だ。
でも、いつか魔王軍の影が再び忍び寄った時、あるいは弟子に迫る時、私はこの安住の地を出なければならないかもしれない。
「……もし、そうなったら?」
私が試すように尋ねると、クライブはニヤリと笑った。
それは騎士としての忠誠と、悪ガキのような冒険心が混ざり合った、魅力的な笑みだった。
「そのときは……旦那様に頭を下げてでも、護衛としてついていきますよ」
「え?」
「放っておけないでしょう。お嬢様は強いけど、無茶をする。誰かが手綱を握って、背中を守ってやらなきゃならない。……それができるのは、俺くらいっす」
クライブは胸を叩いた。
「だから、予約しときます。お嬢様が旅立つときは、このクライブがお供します。荷物持ちでも、盾役でも、なんでもやりますよ」
それは、実質的な私への忠誠の誓いだった。
父の騎士でありながら、魂の主を私に定めたという宣言。
私は膝の上のクロを撫でながら、ふふっと笑った。
「そう? ……物好きだね、クライブも」
「はは、よく言われます」
「わかった。なら、そのときはついてきてもらおうかなー」
軽い口調で返したけれど、それは契約の成立だった。
クライブもそれを理解しているのだろう。
満足そうに深く頷いた。
「よし、言質は取った! これでもう、お嬢様は俺を置いてけぼりにはできないってわけだ」
「あはは、そうだね」
木漏れ日が揺れる。
風が吹き抜け、葉擦れの音がさわさわと心地よい音楽のように響く。
私はクライブを見つめ、そして腕の中のクロを見つめる。
一人じゃない。
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そして、物理的な支えとなり、背中を預けられるクライブ。
最強の「共犯者」たちを得て、私は前世では感じられなかった種類の強さを手に入れたような気がした。
私たちは顔を見合わせ、いたずらが成功した子供のように笑い合った。
父にバレたらまた叱られそうだけど、この絆は、誰にも邪魔できない。
二人の絆は、この午後のひとときを通じて、より強固なものになるのだった。
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