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27、ベルタの訪問
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「あらあら。フルールったら、すっかり傾国の美女ね」
割ったスコーンにクロデットクリームをたっぷり載せながら言うベルタに、フルールは思わず紅茶を噴き出しそうになった。
「……傾国の美女って?」
聞き返すと、ベルタは当然のように、
「だって、本当のことでしょ。弟王子が兄の王太子の座を取り上げようなんて、国家の一大事よ。その原因となった女性は、『傾国』と呼ぶに相応しいんじゃなくて?」
「……わたくしは何もしていないのだけど……」
それでも国が傾くのだから、仕方がない。
麗らかな昼下がり。フルールは家に訪ねてきたオーケルマン伯爵令嬢ベルタと、テラスでアフタヌーンティーを楽しんでいた。
グレゴリーの廃嫡審議は王宮のみならず、社交界の専らの噂だ。審議は難航しているが、廃嫡派が優勢だという。来月には決議されるらしいが……。どちらにしろ、フルールにとっては気が重い。
「でも、セドリック様が王太子になってフルールに求婚したら、フルールは断れないんじゃなくて?」
「……解らないわ」
父であるブランジェ公爵はセドリックの後ろ楯になるという。
アルフォンスが娘を溺愛していることに疑いの余地はないが、彼は政治家であり実業家だ。ブランジェ公爵家にはヴィンセントという間違いなく優秀な跡取りがいる以上、娘は政略結婚させて権力の枝葉を伸ばした方が得策だ。
そうなれば……嫁ぎ先の最有力候補はセドリックだ。次期国王の義父になることは、公爵家にとってメリットが大きい。
……もし、そうなった時は……。
他の求婚者のことを思うと、やっぱり気が重い。
フルールはお行儀悪くテーブルに突っ伏して、ぽつりと零す。
「……本当に、どこかへ消えちゃおうかしら?」
「え?」
「ううん。なんでも」
聞き返されて、フルールは体を起こして微笑んだ。
「それよりベルタ、今日はなんのご用ですの?」
ベルタの来訪は、本日のスケジュールにないことだった。無職引き籠もりの公爵令嬢にとって親友の訪問は嬉しい限りだが、それでも何か理由はあるはずだ。
フルールの質問に、伯爵令嬢はちょっとバツの悪い顔をして、
「実は、フルールに助けてもらいたいことがあるの」
「助ける?」
「そう」
ベルタは頷く。
「わたくしにはオリエン国に嫁いだ叔母がいるのだけど」
オリエン国はクワント王国の北東に位置する国で、オーケルマン伯爵領とは貿易取引が盛んであり、現当主の妹がオリエン国の大臣に嫁いでいる。
「その叔母が今、里帰りで王都の伯爵邸に滞在してて、叔母の娘も一緒に来たのよ」
ベルタは困ったように頬に手を当てる。
「で、その叔母の娘、従妹が王都を観光したいって言ってて、叔母がわたくしに案内を頼んできたのだけど。従妹はクワント語が喋れなくて、わたくしもオリエン語が全然解らなくて……」
「あら? 通訳の方がいるんじゃなくて?」
フルールは当然の質問をするが、ベルタは首を振る。
「いるにはいるんだけど、厳つい男性のボディーガードなのよ。従妹的には女の子同士で気兼ねなくショッピングを楽しみたいらしいの。そこで……」
がしっと親友の手を両手で握る。
「お願い、フルール! わたくし達と一緒にお出掛けしてくれない!?」
それで、語学堪能な公爵令嬢を当てにしてきたのか。
うるうると子犬のような瞳で懇願されて……、
「……ええ、いいわ」
フルールは頷くしかなかった。
割ったスコーンにクロデットクリームをたっぷり載せながら言うベルタに、フルールは思わず紅茶を噴き出しそうになった。
「……傾国の美女って?」
聞き返すと、ベルタは当然のように、
「だって、本当のことでしょ。弟王子が兄の王太子の座を取り上げようなんて、国家の一大事よ。その原因となった女性は、『傾国』と呼ぶに相応しいんじゃなくて?」
「……わたくしは何もしていないのだけど……」
それでも国が傾くのだから、仕方がない。
麗らかな昼下がり。フルールは家に訪ねてきたオーケルマン伯爵令嬢ベルタと、テラスでアフタヌーンティーを楽しんでいた。
グレゴリーの廃嫡審議は王宮のみならず、社交界の専らの噂だ。審議は難航しているが、廃嫡派が優勢だという。来月には決議されるらしいが……。どちらにしろ、フルールにとっては気が重い。
「でも、セドリック様が王太子になってフルールに求婚したら、フルールは断れないんじゃなくて?」
「……解らないわ」
父であるブランジェ公爵はセドリックの後ろ楯になるという。
アルフォンスが娘を溺愛していることに疑いの余地はないが、彼は政治家であり実業家だ。ブランジェ公爵家にはヴィンセントという間違いなく優秀な跡取りがいる以上、娘は政略結婚させて権力の枝葉を伸ばした方が得策だ。
そうなれば……嫁ぎ先の最有力候補はセドリックだ。次期国王の義父になることは、公爵家にとってメリットが大きい。
……もし、そうなった時は……。
他の求婚者のことを思うと、やっぱり気が重い。
フルールはお行儀悪くテーブルに突っ伏して、ぽつりと零す。
「……本当に、どこかへ消えちゃおうかしら?」
「え?」
「ううん。なんでも」
聞き返されて、フルールは体を起こして微笑んだ。
「それよりベルタ、今日はなんのご用ですの?」
ベルタの来訪は、本日のスケジュールにないことだった。無職引き籠もりの公爵令嬢にとって親友の訪問は嬉しい限りだが、それでも何か理由はあるはずだ。
フルールの質問に、伯爵令嬢はちょっとバツの悪い顔をして、
「実は、フルールに助けてもらいたいことがあるの」
「助ける?」
「そう」
ベルタは頷く。
「わたくしにはオリエン国に嫁いだ叔母がいるのだけど」
オリエン国はクワント王国の北東に位置する国で、オーケルマン伯爵領とは貿易取引が盛んであり、現当主の妹がオリエン国の大臣に嫁いでいる。
「その叔母が今、里帰りで王都の伯爵邸に滞在してて、叔母の娘も一緒に来たのよ」
ベルタは困ったように頬に手を当てる。
「で、その叔母の娘、従妹が王都を観光したいって言ってて、叔母がわたくしに案内を頼んできたのだけど。従妹はクワント語が喋れなくて、わたくしもオリエン語が全然解らなくて……」
「あら? 通訳の方がいるんじゃなくて?」
フルールは当然の質問をするが、ベルタは首を振る。
「いるにはいるんだけど、厳つい男性のボディーガードなのよ。従妹的には女の子同士で気兼ねなくショッピングを楽しみたいらしいの。そこで……」
がしっと親友の手を両手で握る。
「お願い、フルール! わたくし達と一緒にお出掛けしてくれない!?」
それで、語学堪能な公爵令嬢を当てにしてきたのか。
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「……ええ、いいわ」
フルールは頷くしかなかった。
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