鷹鷲高校執事科

三石成

文字の大きさ
41 / 51
一二月の章

聖夜の星 -2-

しおりを挟む
 予定されていた二曲、全員の踊りが終わると、再度の拍手喝采。生徒たちが中央からはけて行くと同時に、大広間奥にある壇上に立つ大都へスポットライトが向いた。

 大都は脇に控える松宮からマイクを受け取り、話しはじめる。

「メリークリスマス。素晴らしい踊りをありがとう。優雅で、実に夢のような時間でした。このクリスマスパーティは、毎年三年生だけが参加を許される。すなわち、鷹鷲高校ですべてを学んできた紳士淑女のためのパーティ。皆、ここに集う仲間たちと、クリスマスという特別な夜を心ゆくまで楽しんでください。それでは、皆グラスを手元に」

 挨拶がそこで中断すると、松宮は大都へ、今度はスパークリングジュースの注がれたグラスを差し出す。

 同時に会場内を給仕が回りはじめた。彼らはこのクリスマスパーティにおいて、完全な裏方を担当する二年生のバトラーたちだ。同じスパークリングジュースの入ったグラスを載せたトレイを持って、三年の生徒たちへとグラスを配っていく。

 大方全員の手にグラスが行き渡ったことを確認してから、大都はグラスを掲げる。

「美しき、第二四回鷹鷲高校クリスマスパーティの始まりに、乾杯」

 その声に合わせ、生徒たちも「乾杯」と声を合わせて、グラスを掲げた。

 冒頭のダンスと挨拶が終わってしまえば、パーティ終了時にプレゼント交換会がある以外は歓談の時間となる。楽団によるクラシックの曲は奏でられ続けるので、望むものは自由な相手と共にダンスを踊ることができる。ここで恋仲になるマスターたちも多い。

 多数のテーブルに用意された料理はすべて立食スタイルだ。好きなものを好きなだけ食べられる。もちろんアルコールの提供はないが、飲み物も好きなだけ飲むことができる。

 会場内がにわかに賑やかになり、東條も珍しくどこか浮足だった様子だ。

「明彦様、五分だけおそばを離れてもよろしいでしょうか」

 グラスを片手にそう申し出られ、明彦は頷く。

「もちろん、構わないよ。どこに行くの?」

「大都様にご挨拶をして参ります」

「校長先生に? じゃあ、俺も一緒に行こうかな」

 明彦は、壇上で帝王科の教師数名に囲まれている大都へと視線をむけて言う。そんな明彦の肩を、そばに戻ってきた宗一郎が叩いた。

「執事と片時も離れられないようなお子様じゃないだろ。いいから一人で行っておいで、東條」

 宗一郎に促され、東條は頭を下げると、足早に人並みを抜けていく。彼の背中を見送り、宗一郎はそっと明彦の耳元へと口を近づけた。

「水島から軽く聞いたんだが、校長は東條の脚長おじさんらしい」

「あ……だから、鷹鷲祭の時」

 そうして囁かれれば明彦も察して、宗一郎は頷く。

「普段は校長と話せるタイミングなんて、なかなかないだろうからな。一人で行かせてやった方がいいかと思って」

「そうか。教えてくれてありがとう、宗一郎」

 明彦が素直に感謝の言葉を口にすると、宗一郎は何も言わずに目を細めるにとどめて、少し離れた位置に立つアルマと雅へ視線を向けた。

「お姫様方、お腹の空き具合はいかがですか?」

「私、ダンスが心配で全然お昼が食べられていなかったから、もうペッコペコ」 

「まぁ、わたしもなのよ。宗一郎さんと踊るって聞いて、もう気が気じゃなかったの」

 前評判通りの爽やかさで雅がお腹をさすると、アルマも明るく笑って同意する。

「俺と踊るのが、気が気じゃなかったなかったってのは、いったいどういうことなんだ?」

「だって、宗一郎さんったら絶対目立つじゃない。そのパートナーが下手な踊りをしていたら恥ずかしいもの」

「そんなことはないさ。皆、アルマさんの美貌に目が眩んでたと思うよ」

「もう、宗一郎さんったら、相変わらずなんだから」

 宗一郎の慣れた調子の軽口に、アルマは楽しげに声をたて笑う。そこに雅と明彦、さらに周辺にいたマスターたちも加わり、歓談が始まった。

「宗一郎、明彦、俺なんか適当に料理とってくるね」

 彼らの様子を見て、宗一郎の担当としてそばについていた水島が口を挟む。

「雅様、アルマ様、私たちも行って参ります」

 雅とアルマの担当をするバトラーの二人もそれぞれ水島へと従った。三人は宗一郎たちがいる場所から一番近くのテーブルに向かうと、用意されている皿に料理を盛り始める。

 各々、担当している者の好みなどは完璧に把握しているため、料理を選ぶ手に迷いはない。水島は宗一郎と明彦の二人分の皿を用意していた。

 と、そんな水島の耳に、抑えた囁き声が届く。声の主は一つではなく、複数。まるで自身と囲むように、さまざまな場所から聞こえてくる。

 人の耳というのは不思議なものだ。音楽と話し声で溢れたパーティ会場で、隠そうと低められた噂話の声だけを、なぜかつぶさに拾ってしまうのだ。


「あれが水島か。マスターを殴ったっていう」

「平民が貴族を殴って、どうして何の処罰もないの?」

「あいつ、実は子供のころは貴族だったらしいぞ。そういうのが影響しているのかね」

「元は貴族って言ったって、今は平民なんだろう。貴族の称号を剥奪されるって、よっぽどだったんだろうなぁ」

「貴族意識の抜けない執事なんて、誰が召し抱えたがるんだろう」

「事情はともあれ、暴力的な人間が身近にいることだけでも恐ろしいよ。宗一郎さんも、あんなのが担当になって、なんで平然としているのだか」

「俺も選定しなかったんだけど、水島だけは担当につけないようにって根回ししたよ」

「宗一郎は天下の常陸院だけあって、さすが神経が太いのかね」

「そもそも宗一郎くんの振る舞いが、バトラーたちをつけ上がらせているんじゃないのか。バトラーがマスターにタメ口で話すなんて、まったく目に余る」


 言葉の一つひとつを理解し、そこに潜む悪意を感じるたび、料理を皿に乗せる手が止まる。水島は息を殺して密かに向けられる視線に耐えていたが、宗一郎への言及が増えたところでついに耐えかねた。

 用意し終えた皿を、一緒に料理をとりにきていバトラーの二人へと差し出す。

「すみません御二方、こちらを宗一郎様に、こちらを明彦様に渡してください。それから、体調が悪くなったので今日は休みますと、言伝を願えますか」

「え、ええ。もちろん構いませんが、大丈夫ですか?」

「少し休めば問題ありません。では」

 水島はよく愛らしいと形容される顔に、力無く笑みを浮かべる。その顔色は確かに青ざめていて、言葉の説得力があった。

 あとを任せた二人に会釈をして、水島は一人、大広間から外へと出る。賑やかなパーティ会場を後にすれば、校舎内の静寂が耳に痛い。

 エントランスを通り、雪の積もるイングリッシュガーデンへと出る。雲のない夜空には満月に近い月が輝いていて、星々の輝きはどこか控え目だ。

 水島は白い息を立ち上らせ、逃げるように寮の部屋へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...