鷹鷲高校執事科

三石成

文字の大きさ
44 / 51
一月の章

雪の夜 -1-

しおりを挟む
 初詣に行ったその日の夜。窓の外には、再び雪が降り始めていた。

 生徒会室の中央に、普段の学校や寮であれば見かけることのない、大きな炬燵が設置された。ふかふかとした和柄の炬燵布団がセットされており、西洋の城を思わせる校舎内の装飾に対して異様な存在感を放っている。

 その炬燵の中には宗一郎、明彦、アルバートの三人が収まり、ぬくぬくと暖をとる。

「炬燵、実は俺も入ったことなかったんだが、これは良いな……部屋に持って帰ろうか」

 炬燵の天板に頬杖をついて、のんびりとした口調で宗一郎が言う。

「ずっと入ってみたかったんだ」

 それに答えたのは、もう蕩けた表情で横になり、肩のあたりまで炬燵布団をかけているアルバートだ。

「俺の実家には炬燵あるけど。学校でこうしてるのがすごい、変な感じだよ」

 明彦は、先ほどまで皆で興じていたトランプをまとめて箱の中にしまっている。

 初詣を終え、帰りがけに外のレストランで昼食を取った五人は学校へと帰ってくると、その後どうするかという話になった。執事科の寮の部屋は論外であるし、マスターの誰かの寮の部屋に集まるのでは、さすがに手狭であろうと考えた結果、いろいろと都合の良い生徒会室に集合することが決まった。

 しかし生徒会室にやってきてみると、その室温に問題があった。全体の自動空調がとめられている校舎内は完全に冷え切っていたのだ。石造りの建物は、一度冷えてしまうと暖めるのに相当の時間がかかる。一室だけ暖房をつけたところで、適温にすることは難しいと思われた。

 そこで炬燵を所望したのが、アルバートだ。アルバート自身も炬燵は体験したことがなく「噂に聞く炬燵なるものに入ってみんとす」といった具合だ。

 アルバートの要求にすぐさま応じたのは宗一郎で、彼が家の使用人に電話をかけると、三〇分後には立派な炬燵一式、そのほか諸々が校舎内の生徒会室に届けられた。

 そうして、現在の状況にいたる。

 今、生徒会室に備え付けられているキッチンでは、東條と白石が鍋の支度をしている。具材をぐつぐつと煮る蒸気が立ち上り、いっそう部屋の環境を心地良いものへと変化させていた。

 東條が鍋敷きと取り皿、箸を持って炬燵までやってきて、土鍋を持った白石がその後に続く。東條がセットした鍋敷きの上に土鍋を置き、蓋を開くと、豆乳鍋の優しい出汁と、豆乳の香りがふわんと広がる。

「さぁ、お夕飯にしましょう。アルバート様、起きてください。念願のお鍋ですよ」

 白石はアルバートの世話に入った。東條はキッチンへと戻ると、別の鍋で炊いていた白米を人数分茶碗に盛って、再び炬燵に運び、それぞれの手元にセットを終える。

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

 場所や様子は変われども、いつものディナーの場での様子となんら変わりなく問いかける東條。明彦は首を横に振ると、自分の横に空いているスペースをぽんぽんと叩いた。

「皆さっき注いでもらったのがあるよ。もう大丈夫だから、東條も一緒に食べよう。東條、白石、ありがとうね」

「美味そうだ。いただきます」

 宗一郎が箸を手に声を上げ、全員が続く。その後はしばし、空腹を満たすために夢中で鍋を食べる時間となった。

 東條と白石は、時折全員の取り皿に鍋の汁を注いだり、豆腐を盛ったりなどの世話を挟む。だが、すべて取り皿に取り分けてもらってというわけでもなく、基本的には全員が自分の食べたいものを自分でとって食べるというスタイルだった。

「それで、東條の過去を聞かせてくれるんだろう?」

 食事が進み、皆の食べるペースが落ち着いてきたころ。宗一郎は白米を口へ入れるとそう切り出した。

 先ほどまで全員でやっていた大富豪で『大貧民になった者は過去を告白する』という罰ゲームを設けていたのだ。

 大富豪は全部で四回行われ、一回戦から三回戦まで東條が大富豪を貫き通していた。だが、最後の最後でずっと大貧民だったアルバートが革命を起こし、手元に強いカードを多数残していた東條が、大貧民で終わったのだ。実に社会風刺的な逆転劇が起こったものだ。

「お忘れになってはおりませんでしたか」

 東條は軽く眉を下げる。大富豪が終わった後から食事の支度を初め、今にいたるので、なんとなくその罰ゲームも流れたものと思っていたのだ。

「もちろん。そう決めて始めたんだから、従うよな?」

「お聞きいただいて、楽しいことはないと思われますが」

「そんなことないけど、もし本当に嫌だったら、罰ゲームなんてやらなくてもいいんだからね。無理しないで」

 東條と宗一郎の会話に、慌てて明彦が言葉を挟む。宗一郎が大袈裟にため息を漏らした。

「一番聞きたいと思ってるのは東條ファンの明彦だろう。やせ我慢するなよ」

「東條ファンって何だよ……いや、違うとは言わないけど」

「構いませんよ、明彦様。お耳汚しをしてしまいますが、決めたことは決めたことですから」

 東條は目を細めると、少し考えてから再度口を開き、話し始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...