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しおりを挟むヨアヒムが三歳になるころ、不幸にも王ユリアンと王妃エリーゼは亡くなった。
ヨアヒムが産まれたことにより、王位を息子に譲って隠居していた先代の王がまた再び玉座に戻ることとなったが。息子の死により――彼もまた、心労から。
ユリアンもまた一人っ子であった。
亡くなった王妃を愛していた王は、王妃が亡くなったあとも後添を娶らなかった。
――だから、ガブリエーレが一人産んだだけも、許されたのだが。
今思えば、許されざることだ。彼が王妃に義理立てせず、何人か娶るべきだった。
そうした様々なことによりヨアヒムが即位するまで、ガブリエーレが王の代行を務めることが許された。
ガブリエーレには実家の公爵家や、後見となる家々もあり、それらは上手くいった。
そうだ……上手くいった――。
王はガブリエーレに感謝して、逝った。
「君が妃になってくれて良かった……愛している――」
その一言。
ガブリエーレは涙を浮かべて微笑んで、頷いてやった。
その一言のために。
ガブリエーレは王と寝て、子を産んだのだから。
その涙は嬉し泣きだった。
決してユリアンの最期を看取り、哀しむ涙などではなかった。後のことを安心させるために浮かべた微笑みではなかった。
ざまぁみろ。
――王と王妃は、病で亡くなった。
王妃は王より先に亡くなっていた。
「ガブリエーレ様、ありがとう……」
彼女もまた、ガブリエーレに感謝して、王の愛に包まれて――死んだ。
ガブリエーレは献身的に、病に倒れた二人の代わりを勤め、最期までエリーゼを正妃として立てた。気を遣った。
彼女の死にも、ガブリエーレは涙を浮かべた。
ざまぁみろ。
それは嬉し泣き――そのはずで。
ユリアンとエリーゼを殺したのはガブリエーレだ。
寒くなってきて、風邪を拗らせたエリーゼが、そのまま儚くなったように。
それが伝染したユリアンも、愛する妻のあとを追ったように。
それは。
王子が、ヨアヒムが三歳になったから。
用済みとなったから。
王の子が一人では不安だと、ユリアンが一人っ子であったことを持ち出されるようになった。ヨアヒムもまだ弟妹が――予備がない。
ヨアヒムは可愛い。
王家の色でもあるまばゆい金の髪に深い青い瞳。やや垂れ目気味なのはユリアンに似て――もとは王の最愛のユリアンの母に似て。
だから誰しもに愛された。
十月も腹に抱えていたし、産みの苦しみもあり、ガブリエーレももちろん愛していた。ユリアンに似てはいたが、それはそれ。
むしろ自分に似ていなくて。
エリーゼが、正妃が、「子」とも認めたのはそうしたところもあったのだろうから。もしもガブリエーレに似ていたら……。
側妃の子であるが、正妃もまた認めた子であると、ヨアヒムは「王家の子」として――大事にされた。
ならば、もういらない。
またあの屈辱を味わうのは嫌だった。
子を孕むための行為が。
月に三日間。孕みやすい日を選んでガブリエーレはユリアンと閨を。
それは側妃となって半年かかった。
六ヶ月近く、抱かれ、貫かれ、子種を出された。
愛を――内緒話のように囁かれた。
半年間も、ガブリエーレはその屈辱に耐えた。
一度で当ててくれれば良かったものを。
月のものが来るたび怒りと絶望で震えた。
閨の中。
二人きりになったときに囁くように「愛している」とユリアンに言われても、小さくうなずくのがガブリエーレには精一杯だった。
今さら何を言うのか、この男は。
あとは内心で悔し涙を流しながら、唇を噛む代わりに偽りの微笑みを浮かべた。
半年かかって開放されたときの喜びよ。
それを、ヨアヒムが三歳になったころに。予備が欲しいと言われはじめた。
ユリアンや――まさかのエリーゼからも。
「次は女の子はどうかしら?」
そんな気軽に。自分は産まないでかわいがるだけは、さぞや楽しかろう。
「いや待ちなさい。ガブリエーレの体調を優先に……気持ちも考えなさい……」
自分も一人しか跡取りを作らなかった先王が、産む大変さを理解してくれていて味方になってくれたのは意外ではあるが。
ユリアンの母が産後が良くなく、それが理由で亡くなったのもある。
だからガブリエーレは、王には何もしなかった。
むしろ味方になってくれたのは本当に意外で。孫のために、ユリアンが亡くなったあとも数年間、政務を本当に良く頑張ってくれたのはありがたかった。
内心では彼が予備を作ってくれていたら、もっと早く処分できたのにと思いはしたが。
――ユリアンとエリーゼを殺したのはガブリエーレだ。
ゆっくりと毒で殺した。病気にみせかけて。
苦しまないよう、優しい毒で。ゆっくりと。
もう、いらないから。
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