いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ

文字の大きさ
4 / 26

04

しおりを挟む

 ヨアヒムは本当にできた子だった。
 皆が望んだように、期待のとおりに、賢く正しく。

 ユリアンのことがあり懸念して婚約者を作らないまま学園に入学させたが、まあまあの娘を自ら見初めた。
 心変わりなどされては、政略を結んでいたらたまったものではないと考えていたし。下級貴族や平民を妻にしたいなどと言われたら、上級貴族に申し訳がなくなるし。


 ガブリエーレは――自分の様な存在が生まれることが恐ろしかった。


 ロベリアは伯爵令嬢ではあるが。
 そのヒューリック伯爵家は歴史あり、財もあり、忠臣の家であった。
 建国から続く歴史ある家なのは良い。数代前に王弟が興したバルグレラ家よりも長く国にあったことは、真に良い。
 現当主でロベリアの父は、ユリアンと同い年であっただろうか。あまり目立つ存在ではなかったが、成績も良く、同じく高位クラスだったそうだ。親の代も、良い。

 一つ気になるとすれば、今いるベラという名の「母」は後妻であるということくらいだろうか。ロベリアが産まれた後に、ヒューリック伯爵の妻は亡くなり、幼い娘たちのために再婚したのだという。

 まぁ、それは良くある話だ。

 ヨアヒムがロベリアを気に入ったことにより改めてその後妻も調べられたが、この国の宗主たる帝国の貴族の末だが、ヒューリック伯爵家の遠縁で。子が出来ぬから実家に帰されたところを縁によりヒューリック伯爵家へと――母を亡くした子らのために後妻として入ったそうだ。
 まぁ、本当に良くある話だ。
 帝国の貴族ならば下手をすればこちらよりも家格が高いかも知れない。藪蛇とならぬよう。
 そして両親は――その母は、病弱だったロベリアにかかりきりになり、マーガレットが妹を虐げる理由となったのだという。
 再婚が仇になったのか。いや、病弱な妹を思いやれないマーガレットの性根が卑しいのか。

 まぁ、一番はヨアヒムが気に入ったことだ。

 水面下で何人か打診していた婚約者候補もいたことはいたが。バルグレラ公爵家の配下の家などに。

 マーガレットとロベリアも候補の中にいたから――本当に、まあまあ、許容範囲。

 ロベリアが自ら「予備」のことを提案したときに、良い娘だとさらに。ヨアヒムの選ぶ目を褒めた。

 そう――エリーゼははじめ、側妃を娶ることをごねたという。
 しかし三年も自分が身籠れなかったことに――あきらめた。
 産まれたヨアヒムがユリアンに似ていたことに、喜んだようだ。
 先の王妃が産後の肥立ちが悪く亡くなったことも、ガブリエーレが難産で苦しんだことも、何かしら考えることがあったのだとか。

 気軽に「次は」とガブリエーレに言うようになった。

 エリーゼには避妊薬が盛られていたから、仕方がない。

 ――男爵家如きの血を、王家に混ぜられるものか。

 エリーゼは確かに見目も良かった。
 髪色こそありきたりな栗色であったが、はっと目を引くのは瞳の、星が散ったような鮮やかな黄玉色だった。
 その瞳で見つめられたら、不思議と彼女に好感を持ってしまう。

 しかし。やはり男爵家だ。平民や商人などとも血を繋いできたような家だ。
 尊き血を。
 王家の血を。
 そんな下賤なもので穢すわけにはいかないだろう。

 ガブリエーレのバルグレラ家だけならず、王家に近しい家ほど、そうした危機感でユリアンとエリーゼの婚姻を反対した。

 けれども王が――許した。

 何故か?
 王家こそが血をもっとも尊んでいるはずでは?

 そのくせ、エリーゼが子を孕むことがないとわかったら、ガブリエーレを側妃にと、王こそが願いに来て。

 わかっていたから――ガブリエーレには三年経っても新たに婚約者がいなかったわけだけれども。

 ガブリエーレはユリアンから婚約を解消された後、婚約者を作らずにいた。
 ユリアンに捨てられた女と、皆からの腫れ物扱いによる屈辱も、三年間。耐えたのは――そうした話が来ることを見越していたからだ。

 彼らより、二年年下なことも幸いしていた。
 もしも同い年であれば、同じ日々を学園で過ごしていたとしたら。
 どれほどの屈辱を味あわせられたのだろう。

 ――なんて悍ましい。

 世は、ユリアンが学園に先に入学したことで心変わりしたことを、きちんと理解してくれていたから。
 ユリアンたちがエリーゼと楽しく過ごす日々を、多くの者たちが見ていたのだから。

 それゆえ、ガブリエーレが側妃として召されたことは同情のような目も向けられた。捨てられ、それなのにユリアンに振り回された存在として。
 
 振り回された――それは本当に、だったから。
 
 だからヨアヒムに婚約者を早くに決めなかったことは、その当時を知る者たちは納得した。
 多くは、己の家にも王家と繋がる機会が来たと――身の程しらずな家も、あったようだが。

 ――そう、エリーゼのような。

 それを思えば。
 ヨアヒムは本当に、本当に――良い娘を選んだ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】髪は女の命と言いますが、それよりも大事なものがある〜年下天才魔法使いの愛には応えられません〜

大森 樹
恋愛
髪は女の命。しかし、レベッカの髪は切ったら二度と伸びない。 みんなには秘密だが、レベッカの髪には魔法が宿っている。長い髪を切って、昔助けた男の子レオンが天才魔法使いとなって目の前に現れた。 「あなたを愛しています!絶対に絶対に幸せにするので、俺と結婚してください!よろしくお願いします!!」 婚約破棄されてから、一人で生きていくために真面目に魔法省の事務員として働いていたレベッカ。天才魔法使いとして入団してきた新人レオンに急に告白されるが、それを拒否する。しかし彼は全く諦める気配はない。 「レベッカさん!レベッカさん!」とまとわりつくレオンを迷惑に思いながらも、ストレートに愛を伝えてくる彼に次第に心惹かれていく…….。しかし、レベッカはレオンの気持ちに答えられないある理由があった。 年上訳あり真面目ヒロイン×年下可愛い系一途なヒーローの年の差ラブストーリーです。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

貴方のいない世界では

緑谷めい
恋愛
 決して愛してはいけない男性を愛してしまった、罪深いレティシア。  その男性はレティシアの姉ポーラの婚約者だった。  ※ 全5話完結予定

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...