「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ

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「こりゃあきまへんわ。現実みよ」

06

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 スピカの兄ファビアンの婚約者は、リーシャの従姉妹のレティシア嬢となった。

 リーシャと友人になったのが先だけれど。
 だから何の話の流れであったか「そういえば兄の婚約者がレティシア・バーディさまになりました」と告げたときのリーシャの顔よ。
 細めの瞳を、眉をひそめられ下げられた。

 レティシア嬢は兄と同じで一学年上だから、学園であまり関わることはないのだけれど。
 なんというか、リーシャが言うには「めんどくさい」らしく。

 レティシア嬢はバーディ子爵家の一人娘、だった。
 父親がリーシャの母の兄となるらしい。リーシャの母がフランター伯爵家に嫁入りしたのだ。
 だった、と過去系になってしまうのは。

 父親の再婚により、「弟」ができたからだ。

 しかもレティシア嬢より出来の良い。
 しかし、バーディ家の跡取りは父親の娘のレティシアだろう――と、もならず。普通ならお家の乗っ取りと騒がれるところではあるが。

 その再婚はバーディ子爵家の本家筋、主家の侯爵家による命令であった。しかもレティシアに「次期当主の資格なし」と判断を下されたが理由の。

 実は再婚の義母の血筋は、バーディ子爵家の本家である侯爵家に近しい方であり。そして亡くなった彼女の旦那さんもまたバーディ家の縁のひと――まぁ、父親の従兄弟であり。祖父同士が兄弟で。
 家格血筋でいったら、「弟」の方が……と、なってしまった。

 後に義弟のセオドアくんから「実際はバーディ家押しつけられたようなものなんですけどね」と言われ。彼もまたお疲れ様であった。

 レティシア嬢は文句を当然言ったらしいのだが、「では何故、跡取りなら受けるべきの領地管理科目を取ってないのか?」と、また本家に当然尋ね返され。
 侯爵家はきちんと、把握なさっていた。寄子貴族たちの跡取りたちを。
 それ故に、だ。
 レティシア嬢の学力では一年の始まりで、ついて行けなかったらしい。
「一年、歳が……時期がズレて本当に良かった……同級生にならなくて、良かった……宿題、めんどう、押し付けられるかもだった……」
 心底からつぶやくリーシャに、スピカはお疲れ様と背中を撫でるしかない。

 レティシア嬢、早くに母を亡くしたことで父親や祖父母に甘やかされており、リーシャの方が伯爵令嬢であるというのに年上ぶって――まぁ、よくある「リーシャの方が良いものもっているのずるい」と、やらかしてくれていたらしい。
「ぬいぐるみとかリボンとか、小さなアクセサリーとか、よくとられたわ」
「うへぁ……」
「あと、最近では母の店で騒がれて……あの貴方のデザインの、寄こせって……」
 ため息しかないわぁ。
「祖父母は完全に一緒に暮らしてるレティシアの味方なの。リーシャは伯爵家で大事にされてるから、その分レティシアは自分たちが、て気持ちなのかも……」
 それはしんどい。
 最近では「義母にいじめられるかわいそうな私」と騒いでいたが、なんてことはない。侯爵家から来た義母に「躾」直されているだけである。
 
 そうしたわけで、レティシア嬢は嫁に行くこととなった。追い出すとはかわいそうだから言わないように。

 主家が「弟」という存在を組み込むためにバーディ子爵に再婚を勧めたのは、そうしたあたり、将来を心配したのだろう。
 義母さんこそ貴族として主命を把握してなさった。再婚も受け入れ、義娘の躾も頑張ろうとなさっていた。

 そしてマーロウ家に御縁できてしまった。
 スピカにしてみたら「厄介な奴に厄介な奴をぶつけんなよ」となるのだが……。
 けれども、なんということでしょう。


 ファビアンとレティシアの相性は抜群だった。


 互いに出来の良い弟妹・・・・・・・に苦労している彼らは。
 そうしたところも気が合ったのだろう。
 格下の男爵家に嫁入りで、レティシアはその辺りはご不満らしいが――モブとはいえ主人公の兄である。
 ファビアンは美少年である。
 レティシア嬢は顔合わせで手のひら返し、あっさりと婚約を受け入れた。それまでは子爵家を追い出されるとごねていたというのに。
 ちなみにレティシアもなかなかの美少女。細目な従姉妹を馬鹿にしたりもするそうで……。

 ひっそりとマーロウ家も兄の婚約者探しに難儀していたことは、後に知ったスピカだった。
 御婦人たちのお茶会というのは情報収集の場。兄の評判評価も勿論そこで流れるわけで。
 いかに祖母や母が頑張っても、親戚や同級生の親御さんから漏れたりするわけで。

 まぁ、顔が良いからその辺りから話を持ちかけられはしているのだそうだが。
 やはり継母や妹への態度が「貴族としてどうなの?」と、なり……。
 貴族とは血筋が大事。血統を繋ぐために庶子を家に入れることは、実は法でも認められている。
 今回のレティシアとセオドアのようなことも。

 兄の評判は、良くなかった。 
 スピカは、まだ知らないことがあり――世間には隠せないものだ。

 だからこそ、レティシア嬢と気が合うならこちらも受け入れるしかない。むしろレティシア嬢とお似合いです。
 
「大丈夫よ、めんどくさい従姉妹が義姉になっても友達辞めないから」
「リーシャぁ……」
「もともとこっちが親戚なんだから……縁はきれないわ……縁、こわい……」
「……リーシャさんや?」

 しかしながら、レティシアは義妹となるスピカが、「身分高くて裕福なことをひけらかす従姉妹」と友人なことがご不満であるらしく。
 チクチクと。それはもうチクチクと。

「スピカさん? ちょっと? 私が来てるのに出かけるの? ふぅん、リーシャと先約? そうよね、子爵家の私より伯爵家のリーシャと付き合う方が良いわよね……ファビアン様ぁ?」
「すまないレティシア嬢。妹は外面が良いのだ。まったく、将来の義姉が歩み寄ってくれているというのに」

 最後は兄に泣きつくのであり。兄は妹の無作法を、妹の前でレティシアに詫びるという一連のコンボ。

 うっわ、めんどくさい。

 リーシャの言った意味を同意したスピカだった。本当に良く気が合うことで。
 ゲームの中で、主人公の家庭がこんなめんど――複雑だと、あったかしら。

 スピカは今更ながら、きちんとクリアしておけばよかったと、後悔で。

「厄介なのと厄介なのを合わせたら、もっと厄介になるんよ……」
 スピカとリーシャは、この頃はまだ、ため息をつくだけですんでいたと、遠い目だ。

 厄介なのがさらに――とんでもなく厄介なことをしでかしやがるのだから。

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