強いられる賭け~脇坂安治軍記~

恩地玖

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七本槍

清州会議

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山崎の戦いから十四日後の天正十年六月二十七日、織田家の宿老が清州城に集まり、織田家の行く末について話あうことになった。
 筑前守、柴田修理亮、池田紀伊守、丹羽五郎左衛門、蜂屋出羽守、筒井順慶らが一堂に会した。諸将は、こぞって岐阜中将の忘れ形見、三法師に拝謁した。
 この会合の目的は、どうのように三法師を盛り立てていくかについてであった。柴田修理亮が口火を切った。
 「若君の名代は、当然にして三七殿(織田信孝)であろうな。」
 修理亮は、内心焦っていたのだ。惟任謀叛の注進が届いたとき、越中平定が目前であった。上杉と早々に和睦し、一路京を目指したものの、自軍で惟任軍を討伐すべく、一万騎の軍勢を引き連れていた。柴田勢が近江に到着したのは天正十年六月十八日。決して遅い着陣ではなかった。普通に考えれば、修理亮を総大将とした惟任討伐軍が編成されたことだろう。ところが、筑前守の活躍により、既に惟任日向守は討たれていた。修理亮は出鼻を挫かれた格好となった。
 「あいや、しばらく。ここは、敢えて名代を置かず、我ら織田家宿老による合議で織田家を盛り立てていくことを提案したい。」
 筑前守がすかさず切り返した。筑前守は既に腹を決めていた。そのために、疾風迅雷の早さで舞い戻ってきたのだ。相手が、織田家筆頭家老の修理亮とて、もはや遠慮している場合ではない。筑前守の狙いは、己が織田家の手綱を握ることは諦める代わりに、他の誰かにも握らせないことにあった。均衡を保とうとしたのだ。そうすれば、いざというときに惟任日向守を討った事実が活きてくる。
 「合議とな…相分かった。ならば、筑前殿、我らが一堂に会しやすいように、各々畿内にも居城が要るであろう。どうじゃ、貴殿の長浜城と北近江三郡をわしに譲ってくれぬか?もちろん、ただとは言わぬ。織田旧領から河内、山城を貴殿が領有するということでどうじゃ。」
 虫のいい話だ。だが、筑前守に断る理由もない。北近江で領民と培ってきた縁が切れるのは痛いが、河内と山城を領有することになれば、むしろ筑前守の総石高は以前より上がる。もちろん、修理亮がそこまで見越して打診してきたのだ。
 「ご斟酌賜り、恐縮の極みでございます。拙者に異論のあろうはずがございませぬ。強いて言えば、ひとつご相談がございます。」
 筑前守は、あくまで姿勢を低くして修理亮に接した。
 「何じゃ?」
 修理亮も、ここまですんなり話が進むとは思っていなかったようだ。拍子抜けした様子で筑前守に聞き返した。
 「されば。長浜城は、伊賀守殿(柴田勝豊)にお預けしたい。柴田家の次代を担われる伊賀守殿ならば、北近江をよく治めていただけることと存じます。」
 それを聞いた修理亮は、一瞬、眉を曇らせた。とはいえ、修理亮にこれを断る理由はない。念願の北近江を領有したことで、本国越前は盤石となったのだ。これ以上、我を通しては、他の宿老どもにも警戒されかねない。
 「相分かった。筑前殿の申し出、尤もである。これからも、我ら一同手を携えて、織田家を盛り立てて行こうではないか。」
 修理亮は満面の笑みで、場を収めた。
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