あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ

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会場に入る前の扉で一呼吸する。流石にクレメントのみならず出席者全員が度肝を抜かれるだろう、と思うとアリアナは不謹慎ながらワクワクした。

扉が開かれ、皆の視線がアリアナに向けられる。一度目のお色直しは割れんばかりの拍手とにこやかな笑みが向けられたままクレメントの元へと進んだが、今度は水を打ったようにシンと静まり返っている。
皆の表情にどう反応して良いかわからない、と書いてあるようで、アリアナは可笑しさすら覚えた。
そのまま、クレメントの元へと向かう。
クレメントの横に立つと、ゆるりと微笑んで腰掛けた。
困惑した様子でクレメントは小声で尋ねた。

「ドレスが届かなかったのか」

あまりの間抜けな質問に吹き出しそうになるのを堪えて、アリアナは静かに答えた。

「いえ、予定していた物を着ております」
「しかし、赤色だぞ」
「ええ。赤いドレスは一般的かと思いますが」

しれっと答えると、クレメントは片手で目を覆いながら言った。

「あなたの髪色で赤いドレスを着るなど…奇異ではないか。」

さして大きな声ではなかったが、鎮まりきった会場では、その声は響いてしまった。アリアナも静かに答えた。

「式はゾーイ家で主催させて頂いておりますので、私の好きな色を着たまでです。ですが大切なあなたを不快にさせてしまったみたいで…申し訳ございません。」

アリアナにとって赤いドレスを着ることは賭けだった。自分の異端さが勝ってしまうか、クレメントの器の小ささが勝つか。

いま、周りから聞こえる声の多くは、クレメントへの批判だった。
ハンゼ公爵は金を出していないのか?
皆の前で新婦に恥をかかすなんて。
そんな声がヒソヒソと囁かれる。

皆、赤毛を馬鹿にしておきながらも公の場で自分が差別する側の人間だとは思われたくないらしい。そう思いながらアリアナは周りの動揺がおさまるのを静かに待った。
そして、再び会場が静かになると同時に、立ち上がり出席者へ非礼を詫びた。

「皆様、お騒がせして申し訳ございません。赤毛に赤いドレスで驚かれた方も多いかもしれませんが、私はこの髪色に産んで育ててくれた両親に感謝しております。どうか今日一日、私の最も好きな色で過ごすことを祝福ください」

言い終わると拍手が聞こえてきた。ほっと息を吐き、クレメントの横に座った。

「どう言うつもりだ、アリアナ嬢」

恥をかかされたクレメントはくちびるを噛みながら、燃える瞳で訪ねてきた。

「そのお話は今宵ゆっくりと」

妖艶に微笑んだアリアナは、その後式を心から楽しんだ。
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