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ベスの顔には、クレメントを逃がしはしないと書いてあるようで、アリアナは思わず笑った。
「お手柔らかにしてあげてね」
アリアナがそう言うと、ベスは妖艶な笑みを浮かべた。
その日の晩、アリアナが自室で待っていると、クレメントとベスの声が聞こえてきた。
「でも旦那様は、お嬢様とご結婚されたばかりで…。」
「もちろん、アリアナのことは愛している。でも君にはどうか僕のことを考えてほしい」
「それは…とりあえず今日のところはどうかお嬢様の元へ。」
「ああ、分かったよ。でも真剣に考えてほしい。」
どうやらベスは早速クレメントに仕掛けに行ったようだ。よほどクレメントのことが嫌いなのだろうと心の中で苦笑いしながらノックをされるのを待つ。
「アリアナ。私だ。入っていいかな」
5秒前までほかの女性を口説いていたとは信じられないような誠実そうな声でクレメントが尋ねる。
「ええ。お入りください。」
アリアナは、ベスとのやりとりが聞こえなかったかのように応じた。
「ベスに話があるといわれてね。なんだい」
「呼びつけてしまって申し訳ありません。」
「いや。私こそ君を一人にしてしまって悪かった。寂しくなったのか」
甘い笑みとともにアリアナの横に座ると、甘やかすようにアリアナの肩を抱き寄せた。
クレメントの本性を知る前だったら、きっとどきどきして何も考えられなくなったに違いないアリアナだが、今となってはそれすらも鬱陶しく感じる。
それを悟られないように、甘えるようにクレメントの胸に頭をもたれかけて、左手をクレメントの膝の上に置いた。簡単に席を立てなくするためだ。
「ええ。昼ごろに来てくださると思っておりましたのに…なかなか来ていただけずに寂しかったです。」
「悪かった。でも君に任せるといったから私は不要かなと思ってね」
「そうでしたか。それであの…お聞きしたいことがございまして。」
アリアナは甘えた声でクレメントに問いかけた。
「ああ。なんだい」
「まず、貴族銀行から借りている分がおありですよね。何に使われたのでしょうか」
「ああ。そういえば昨年に新しい馬車や早く駆ける馬が欲しくなって借りた気がするな」
あまりの呑気な感想に怒鳴りたくなるのをこらえて、アリアナは困ったように微笑んで告げた。
「利子も含めて3,500エラン程のようですが」
彼は驚いたようにアリアナを見ていった。
「いや、3,000エランしか借りてないぞ」
この馬鹿が、と言いたくなるのを辛うじてアリアナは飲み込む。
「利子が500エランです。」
「嘘だ」
「本当です。そして、毎年利子は膨れ上がります。」
「そんな」
絶句しているクレメントにアリアナ困ったように続けた。
「どのように返済されるご予定でしょう?」
「お手柔らかにしてあげてね」
アリアナがそう言うと、ベスは妖艶な笑みを浮かべた。
その日の晩、アリアナが自室で待っていると、クレメントとベスの声が聞こえてきた。
「でも旦那様は、お嬢様とご結婚されたばかりで…。」
「もちろん、アリアナのことは愛している。でも君にはどうか僕のことを考えてほしい」
「それは…とりあえず今日のところはどうかお嬢様の元へ。」
「ああ、分かったよ。でも真剣に考えてほしい。」
どうやらベスは早速クレメントに仕掛けに行ったようだ。よほどクレメントのことが嫌いなのだろうと心の中で苦笑いしながらノックをされるのを待つ。
「アリアナ。私だ。入っていいかな」
5秒前までほかの女性を口説いていたとは信じられないような誠実そうな声でクレメントが尋ねる。
「ええ。お入りください。」
アリアナは、ベスとのやりとりが聞こえなかったかのように応じた。
「ベスに話があるといわれてね。なんだい」
「呼びつけてしまって申し訳ありません。」
「いや。私こそ君を一人にしてしまって悪かった。寂しくなったのか」
甘い笑みとともにアリアナの横に座ると、甘やかすようにアリアナの肩を抱き寄せた。
クレメントの本性を知る前だったら、きっとどきどきして何も考えられなくなったに違いないアリアナだが、今となってはそれすらも鬱陶しく感じる。
それを悟られないように、甘えるようにクレメントの胸に頭をもたれかけて、左手をクレメントの膝の上に置いた。簡単に席を立てなくするためだ。
「ええ。昼ごろに来てくださると思っておりましたのに…なかなか来ていただけずに寂しかったです。」
「悪かった。でも君に任せるといったから私は不要かなと思ってね」
「そうでしたか。それであの…お聞きしたいことがございまして。」
アリアナは甘えた声でクレメントに問いかけた。
「ああ。なんだい」
「まず、貴族銀行から借りている分がおありですよね。何に使われたのでしょうか」
「ああ。そういえば昨年に新しい馬車や早く駆ける馬が欲しくなって借りた気がするな」
あまりの呑気な感想に怒鳴りたくなるのをこらえて、アリアナは困ったように微笑んで告げた。
「利子も含めて3,500エラン程のようですが」
彼は驚いたようにアリアナを見ていった。
「いや、3,000エランしか借りてないぞ」
この馬鹿が、と言いたくなるのを辛うじてアリアナは飲み込む。
「利子が500エランです。」
「嘘だ」
「本当です。そして、毎年利子は膨れ上がります。」
「そんな」
絶句しているクレメントにアリアナ困ったように続けた。
「どのように返済されるご予定でしょう?」
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