【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子

文字の大きさ
3 / 29

3.国宝級イケメンは強行突破します

しおりを挟む
翌朝、セシルの実家ーーエトワール男爵家はいつも通りの朝を迎えていた。

窓の隙間からは柔らかい光が差し込んでいる。
カタカタと風で揺れる古い窓枠の隙間からは隣家で植えられている花の香りが微かに流れ込む。

セシルは薄い布団を端に寄せて、慎重に古い寝台から降りる。
そして擦り切れた寝間着を脱ぐ。

(昨日の方は一体なんだったのだろうか…?ものすごくカッコ良かったけど、かなり怖かったな…)

着替えながら、セシルは前日のことをぼんやりとした頭で思い出す。

ぶつかりそうになって助けてくれたけど、『とろくさい』『貧乏』と面と向かって暴言を吐いてきたイケメン。
名前を聞かれたから、自分の不手際について苦情を入れられるのだろうと覚悟していたが、全くそんなことはなく。
親戚からは何も言われないまま、きちんとお給金も貰えた。

「よし、今日は昨日みたいなミスしないで、お仕事頑張るぞ…!」

セシルは頬をパンパンと叩いて気合を入れると、色褪せと継ぎ当てが目立つ服を整えた。
胸元には唯一の誇りである古い家紋のブローチが光っている。

朝ごはんを食べにダイニングルームへ向かおうと、自室の扉を開けたその時だった。

「セシル様ぁぁぁあああ!! た、大変ですーっ!!」

メイドのカリナが血相を変えて走り込んでくる。

「ど、どうしたの⁉︎カリナ⁉︎」
「い、今、セシル様の…、婚約者だと名乗る方がっ‼︎」
「えっ⁉︎誰それ⁉︎俺、婚約者なんていないよ⁉︎」
「ですよねっ!でも、いらっしゃるんです‼︎玄関前に‼︎しかもものすっごいイケメンなんですよっ‼︎」
「イ、イケメン?」

セシルはまさかと思い、玄関へと急いで向かう。
すると、そこに立っていたのは昨日のパーティーで出会ったあの変なイケメンだった。

黒髪、金瞳、彫刻のような整った横顔。

身に纏う黒のジャケットは高級な仕立てだが、決して嫌味はない。
ただただ彼を際立たせている。

光の角度によるのか、それとも彼自身が光源なのか。

セシルには後光が差して見える。

「き、昨日の…!どうして俺の家を…!」
「エトワール男爵家の者だと言っていただろう?」
「た、確かにそうですけど…。というか、あなたは一体…?」
「俺はオーディス・ヴェルナーだ」
「え、えっと、ヴェルナー様はな、なぜ我が家へいらっしゃったのですか…?」
「理由を言う必要があるか?」
「あります‼︎めっちゃあります‼︎」
「お前を迎えに来た」
「えっっ⁉︎」

セシルは瞬きした。

それから分かりやすく茹で蛸のように真っ赤になる。

(『お前を迎えに来た』ってなんかロマンス小説みたい…。…って違う、この人、昨日の俺の不手際を責めに来たのかー‼︎婚約者って嘘言ったのも俺を逃さずに呼びつけるためかー‼︎)

セシルの顔色は慌ただしく、赤から青へと変貌していく。

「あ、あの我が家は見ての通りのオンボロでして…、払えるお金など一銭もありませんゆえ…」
「関係ない。俺はお前を正式に娶るつもりで来た」
「…え?」

セシルの思考は完全に止まった。
そして動いた瞬間。

「は、はいーっ⁉︎めっ、めとる…?あっ、あっ、あわ…、あわわっ‼︎」

セシルは完全にパニックである。
その時、セシルの母と妹たちがわらわらと集まってきた。

「どうしたの、セシル⁉︎って、え⁉︎イケメン⁉︎やだ、私ったらこんな寝間着で出てきてしまったわ!」
「こんなオンボロ屋敷に国宝が現れたわっ…!」
「うわー!イケメンって光るんだっ!」

セシルの母と妹たちはセシルを押し退けて、玄関できゃーきゃーとオーディス相手に騒ぎ出す。
異変に気付いたセシルの父がここでようやく急いでやってくる。

「どうした、お前たち!何かあったのか!…へ?ヴェルナー伯爵様?なぜ我が家に?」
「セシルを俺の婚約者として迎えに来た」

オーディスの一言にセシルの家族はぽかんと口を開ける。

「「「「こ、こ、婚約者ーっ⁉︎」」」」
「セシル、早く支度をしろ」
「俺、まだ返事もしていないのに!強引すぎますよ‼︎」

セシルが両手で顔を覆って叫ぶ。
しかしながら、オーディスは表情1つ変えずに淡々と続ける。

「強引か?だが、お前に婚約者がいないこと、そして婚約者を探していることは確認済みだ」
「うぅ…。そうですよ!全然モテませんよ!悪かったですね!」
「それでも俺はお前が欲しい」
「ぴゃっ」

オーディスの金瞳はセシルを射抜く。
セシルの耳が真っ赤に染まり、その場にしゃがみ込んで小動物のようにぷるぷる震える。

「「「「きゃぁぁぁあああ‼︎」」」」

オーディスの告白にセシルの家族は口元を両手で押さえながら歓声を上げる。
母・妹たちはもちろん、父ですら、頬は熱く、目は潤み、まるで自分がプロポーズされたかのような錯覚に包まれている。

あな、イケメン恐ろしや。

「セシル。お前が嫌と言っても、俺は諦めない」
「ひ、ひぇっ…!」
「いくら時間をかけてもいい。ゆっくりでいい。だが…」

オーディスは静かに、しかし圧倒的な熱を持って告げる。

「必ず俺の隣に来い」

その声音は甘くない。
決して優しくもない。

だが、確かに真っ直ぐで誠実だった。

「セシルはこの通り貧乏貴族の次男でございますが…」
「構わない」

セシルの父の問いにオーディスは頷く。

「セシルはおっちょこちょいでドジな子でございますが…」
「構わない」

続いて、セシルの母の問いにもオーディスは頷く。

「セシルお兄様はお勉強もダンスもお料理もお洗濯も得意ではありませんが…」
「構わない」
「セシルお兄様は癖っ毛が酷くて、いっつもふわふわしていますが…」
「構わない。セシルを妻にしたいという気持ちは変わらない」

なんかすっっごく悪口言われてない?と、セシルは思いつつも皆思い当たる節のあることだったので黙っておく。
だが、自分の短所を挙げられてもなお、一切顔色を変えないオーディスをセシルは嬉しく思う。

オーディスはセシルの前に膝をつき、そっと片手を差し出した。

「どうだ?俺と婚約しないか?」

セシルは胸元でぎゅっと両手を握る。

「…そんな風に言われたら、断れないじゃないですか」
「そうか」

オーディスは満足そうに微笑んだ。

破壊力が高すぎる、国宝級の微笑みである。

「あまりにイケメンすぎる…‼︎」
「…イケメン、か。あまり顔立ちのことを気にしたことはなかったが、お前に言われると嬉しいものだな」

不意にオーディスの目が緩む。


「もっと言え」
「えっ!?」
「俺はイケメンだと。お前の口で言った方が…、効く」
「ど、どういう性癖してるんですか⁉︎ヴェルナー伯爵様⁉︎」
「性癖?俺は至って普通だ」
「え、えぇぇぇ…‼︎俺、これからどうなるの…?」

セシルは青ざめた。
だが、その一方で。

(でも…、ちょっと、ちょっとだけなんだかドキドキする…)

セシルの中で小さな想いが胸をくすぐっていたことには本人はまだ気付いていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守ってあげます、旦那さま!〜筋肉が正義の家系で育った僕が冷徹公爵に嫁ぐことになりました〜

松沢ナツオ
BL
アイハレク帝国の守護神と呼ばれるベニトア辺境伯の三男オリヴィンは、筋肉の一族の中でただ一人、絶世の美女である母の容姿を受け継いで溺愛されている。 本人は父や兄達と違うほっそりした体型にコンプレックスを持ち、必死で鍛えてきた。 努力を続け一人前の騎士と父の認められたばかりなのに、皇帝の命により将来有望と呼び声高い若き公爵リオネルと結婚することになってしまった。 皇位継承権のあるリオネルに不満を持つ皇后が、実子の王太子の地位を守るため形骸化していた同性での結婚を持ち出したのである。 当然、辺境伯である父は激怒。家族も憤慨していたが、皇帝の命令には逆らえない。オリヴィンは首都レージュヌに向かい、初めてリオネルに会う。 そこにいたのは、家族とは全く違う冷徹な雰囲気の青年で……? 愛されすぎて美的感覚がバグっているオリヴィンと、両親を事故で失った挙句命を狙われる孤独なリオネル。 正反対の二人が出会って認め合い、やがて愛し合う。そんなドタバタラブストーリーです。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...