奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho

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第十一章

11-7.食い違い

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 翌日、仁はアシュレイを連れて冒険者ギルドに向かった。思いつめた顔で一緒に来ると言う玲奈をなだめ、ミルとロゼッタに玲奈と一緒にいてくれるように頼んだ。

 ギルドに到着した仁とアシュレイを、エクレアが出迎える。仁たちはバランから指示を受けていたエクレアに案内されて3階の応接室に移動した。そこには既にヴィクターが来ていて、簡単に挨拶を済ます。

 仁がダンジョンから戻るまでの数日間、玲奈と共に街の復興作業に当たっていたアシュレイはヴィクターと知り合っていて、自己紹介は必要なかった。

「ジンくん。レナさんはまだ……?」

 ヴィクターが仁の隣の空間にチラッと目を遣り、心配そうに尋ねた。

「今朝の様子だとまだいろいろ消化しきれていないみたいでしたけど、たぶん大丈夫です。レナちゃんは強いですから」

 頑固なところのある玲奈が自分のせいだと強く思い込んでいる以上、仁や周りが何を言っても玲奈の心が軽くなることはないだろうと仁は思っていた。もちろん、だからといって放っておくわけではないが、玲奈自身が納得のいく答えを出すまで待つしかないと考えていた。

「そうか……。それで、ジンくん。ガロンさんたちを差し置いて、僕だけがこの場に呼ばれた理由はなんだい? ギルド長も絡んでいることから考えると、この前の魔物騒ぎ絡みだとは思うけど」
「ガロンさんたちには昨日、ギルド長に報告に来た際に話しましたからね」

 本当はそれだけではないのだが、仁はバランが来る前に女帝殺人蟻エンプレスキラーアントや観察者、ダンジョン核のことなどをヴィクターに話して聞かせた。



「待たせたな」

 仁が一通り話し終えたとき、応接室のドアが開き、バランがやってきた。バランは立ち上がりかけた仁たちを制し、自身もソファーに腰を下ろす。テーブルを挟んでバランの正面に仁とアシュレイ、側面にヴィクターが座っている。

「いえ、ちょうどヴィクターさんに昨日の話を終えたところです」
「そうか。それで――」

 バランの視線が一瞬だけ仁の隣に座るアシュレイに向いた。

「ジン。昨日の報告とは別に何か話があるということだったが、そちらの、確かアシュレイ殿だったか。に関係のある話なのか?」
「実は、昨日の報告には意図的に伏せた部分があります。今日はそれをお話ししたいと思いまして。アシュレイには、それについて俺も聞きたいことがあるので一緒に来てもらいました」

 仁が真剣な声音で言うと、バランがスッと目を細めた。仁の真意を探るような鋭い目つきのバランの強面こわもてを、仁は怯まず見つめ返す。

 アシュレイには事前にシルフィーナについて聞きたいことがあるとだけ言ってあった。仁自身、魔王妃まおうひに関してどう扱うべきか悩んでいるところがあり、仁の持っていないこの世界の人族としての知識や考えを持つバランやヴィクターと一緒にアシュレイの話を聞きたいと考えたのだった。

「わかった。お主のことだ。悪意を持ってのことではあるまい。話を聞こう」
「ありがとうございます。実は――」
「ちょっと待った……!」

 仁がゆっくりとした口調で話し始めると、ヴィクターが慌てた様子で口を開いた。

「ジンくん。それは僕が聞いていい話なのかい?」
「ええ。俺はヴィクターさんのことを信頼していますし。本当ならガロンさんたちにも協力してもらいたいのですが、ちょっとした事情がありまして。ガロンさんたちに話すかどうかは、俺の話を聞いた後、ギルド長やヴィクターさんの意見を聞いて判断したいと思っています」
「わかった。そういうことなら……」

 ヴィクターが頭の上に疑問符を浮かべながらもソファーに深く腰を埋めたのを見て、仁は改めて話し始める。

 仁は自身でももう一度整理するようにゆっくりと丁寧に、観察者に聞いた話と、そこから推測した自身の仮説を披露した。



「端的に言うと、今回の魔物の氾濫の真の元凶がダンジョンに封印されていた魔王妃と呼称された存在の魂であること。そして、その魔王妃の魂が昨日帰還したダンジョン攻略班の誰かにりついているかもしれんということか」

 仁が頷くと、バランは腕を組んで低くうなった。ヴィクターはあまりに突拍子もない話に思えたのか、目を丸くしていた。

「アシュレイ。俺の話をどう思う?」

 仁は体を斜めに向け、首を回してアシュレイの整った横顔を見つめる。難しそうな顔でテーブルの一点を凝視していたアシュレイが視線を上げ、仁に顔を向けた。

「確かに、いにしえの魔族との戦いの際、エルフ族の英雄であるシルフィーナ様が魔王亡き後の残党を率いた魔王の妃を討って世界を救ったという話は伝わっているが、その魂がダンジョンに封印されていたというのは初耳だな」
「待て、アシュレイ殿。人族の英雄たる大賢者様がその命を投げ出して魔王と相打ちとなり、それで世界は救われたのではないのか。儂は魔王の妃――魔王妃などという存在は聞いたことがないぞ」
「シルフィーナ様が大賢者と共に魔王の討伐に尽力された後も世界を救うために長年に渡って魔王妃と戦っていたというのは、エルフ族であれば子供でも知っている話だ。人族は短命であるが故に事実が正しく伝わらなかったのでは」
「な、なんだと……!?」

 バランにしては珍しく、狼狽した様子だった。それもそのはず。バランによると、人族の昔話で語られる大賢者のパーティは人族のみで構成されていて、シルフィーナという名も、エルフの女性も、登場しないというのだ。

 何分、気の遠くなるくらい昔の話だ。それほど接点を持ってこなかった人族とエルフ族とで伝わる話に食い違いが生まれるのは当然のことだが、仁としてはエルフ族が伝える話の方に信憑性があるように思えた。

 その理由としては、単純にエルフの方が長命のために、経てきた世代が少ないこと。そして、エルフ側は人族の大賢者が魔王との戦いに決着を付けたことを否定していないが、人族側は人族が人族だけで世界を救ったように語られているという点からだった。そもそも、魔王妃の存在が出てこない人族側の昔話では参考にもならない。

 とはいえ、仁にはどちらが真実か断言することなどできるはずがなく、また、今回の場合、その部分は大した問題ではないため、話の軌道修正を行う。

「その話は一旦置いておいて。アシュレイ。観察者の話が真実だとして、魂が他者にりついたり、乗り移ったりすることは現実的にあり得ることなの?」
「私も詳しいことはわからないが、過去に魂を他者の体に移すことで永遠の命を得ようとした者がいたという話は聞いたことがある。あくまで研究していた者がいるというだけで、実行したという話はそれこそ神話や伝説の類になるが……」

 神話や伝説と聞いて、仁はミルが父親から物語という形でそういう分野の話を多く聞かされていたことを思い出した。仁はミルをこの場に連れてこなかったことを少しだけ後悔するが、帰った後で聞けばいいと考え直す。

「ジン。この街のダンジョンは姫からダンジョン核を託されたラストルが造ったものということだったな」
「うん。ラストルの記憶の一部を持つ観察者はそう言っていた。観察者はアシュレイの生存を俺に教えてくれたし、そこは信じていいと思う」
「ならば、ジン。観察者の話を信じ、お前の仮説が正しいと思って行動すべきだ。シルフィーナ様は魔王妃を倒した後、ラインヴェルト王国の祖に嫁がれたのだから、その国のダンジョンに魔王妃の魂が封印されていたというのはわからない話ではない。むしろ、シルフィーナ様がダンジョン核を持ち込んだとさえ思える。そして、観察者の話が真実であるなら、話を聞く限り、私もジンと同じ結論に至ると思う」

 仁とアシュレイは顔を付き合せ、頷き合う。そんな二人に驚愕に彩られた4つの瞳が向けられていたのだが、魔王妃の目的や行動に考えを巡らせる仁はすぐに気付くことができないでいたのだった。
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