奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho

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第四章

4-1.傷

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「10階層にある隠し部屋は強力な魔物が出現する罠があり、危険ですので近づかないようにしてください。腕に自信があったとしても、挑まれる前に十分な準備をお願いします」

 仁たちがダンジョンの受付に向かうと、隠し部屋についての情報の周知がされていた。仁は昨日の今日での素早い冒険者ギルドの動きに感心した。場所が上層ということもあり、罠としての脅威度はかなり高いように思えた。

 もっとも、仁は自身の鑑定の魔眼と玲奈の特殊従者召喚を使用することで魔物の情報を事前に知ることができるため、追々、経験値稼ぎや玲奈の実戦訓練に利用しようと密かに企んでいた。そのため、近いうちに罠が復活しているかどうかを確認したいと考えていた。もし短い期間で復活するようであれば、宝箱目当てで連戦するのもやぶさかではなかった。それだけ不死殺しの魔剣イモータルブレイカー不死者の指輪イモータルリングは強力なものだった。これらが貴重なものだと察したガロンに、隠し部屋で得たものだと喧伝しないようお願いされていた。

 仁は受付の青年に感謝の言葉を伝え、玲奈とミルと共にダンジョンに足を踏み入れた。

「ミル。今日のところはサポーターの仕事をお願いね。今後は冒険者として戦闘もしてもらうことになるから、俺や玲奈ちゃんの動きを見て、自分が魔物と戦うイメージを膨らませてね」
「うん。わかったの」

 ミルは真摯に頷き、血喰らいの魔剣ブラッドイーターを持つ手に力を込めた。

「玲奈ちゃんは剣と魔法を併用して戦ってみようか」

 隠し部屋からの帰り道、玲奈はほとんど剣で戦っていた。動いたり剣を振ったりしながらの魔法の使用はなかなか難しいようだった。

「ミルちゃんに負けないように私も頑張らないとね」

 玲奈は剣を持っていない左手を握って開いてを繰り返していた。



氷弾アイスバレット!」

 玲奈の左の手のひらから氷の弾丸が放たれた。氷球アイスボールの氷の球を弾丸状に成形し、回転を加えることで破壊力を増した改良版だ。

 氷弾アイスバレットが玲奈の左前方を駆ける人狩猟犬キラーハウンドを貫き、ダンジョンの岩壁に当たって砕け散った。直後、地を這うように近づいたもう1匹が玲奈の足を噛み砕かんとあぎとを大きく開いた。玲奈はミスリルの刃で切り裂くのを諦め、剣の柄で迎撃した。強制的に口を閉じられた人狩猟犬キラーハウンドは地面を跳ねて後方に逃れた。人狩猟犬キラーハウンドが唸り声を上げた。玲奈は間髪入れずに氷弾アイスバレットを放ち、残った1匹の脳天を砕いた。玲奈は大きく息を吐いた。

「玲奈ちゃん。だいぶ慣れてきた感じだね。欲を言えば最初の氷弾アイスバレットを放った後の反応を早くして、もう1匹を剣でそのまま仕留めたかったね。もしくは2匹目の攻撃を受けない位置に移動しながら1匹目を氷弾アイスバレットで狙ったりね」

 玲奈は仁の言葉を真剣な表情で聞き、大きく頷いた。

「うん。もっと練習しないと。仁くん。次も私に任せてね」
「わかった。でも、危ないと思ったら俺も戦うよ。ご主人様の身の安全が一番大事だからね」
「うん。頼りにしてるよ。私の奴隷さん」

 仁がおどけて言うと、玲奈が笑みを浮かべた。

「ジンお兄ちゃん。終わったの」
「ミル、ありがとう」

 仁と玲奈が話している間、ミルが人狩猟犬の死骸から魔石の回収を行っていた。仁がミルの頭に手を置くと、ミルの瞳が嬉しそうに細められた。小麦色の髪を指でくように動かすと、犬耳がピクピクと小さく動いた。

「あ。ミルミルだ!」

 仁がミルの髪の手触りを堪能していると、通路の先から数人の集団が近づいて来た。その中の小学校の高学年くらいに見える少女がミルに手を振っていた。その隣には見覚えのある青年の姿があった。

「やあ。奴隷くんとお嬢さん。久しぶりだね」
「ええ。ヴィクターさん。こんにちは」

 先ほどの少女の他に、少女と同年代か少し年上くらいの少女ら2人を連れたヴィクターに挨拶を返した。玲奈とミルも会釈をしていた。

「最近、ミルの姿を見なかったから心配していたんだよ。さっきもファムとその話をしていてね」

 ヴィクターは先ほどミルを呼んでいた少女の頭をポンポンと軽く叩いた。ファムと呼ばれた少女は嬉しそうに目を細めていた。仁は自身とミルの姿を傍から見ているようでむず痒さを感じた。

「ミルミル、元気そうでよかった! って、その格好どうしたの?」

 黄色いチュニックの上に革の軽鎧を付けているミルの姿に、ファムは目を丸くした。

「ジンお兄ちゃんに買ってもらったの。ミル、冒険者になる……なったの!」

 はにかみながらミルが小さく胸を張った。ファムは驚いて口を半分開いて驚いていたが、すぐに笑顔を見せた。

「そうなんだ。よかったね。ミルミル、お父さんみたいな冒険者になりたいって言ってたもんね」

 幼い少女同士の微笑ましいやり取りを眺めていると、心が洗われるように思った。仁はヴィクターの緩んだ表情を見て、自分も同じような顔をしているのではないかと少しだけ不安になったが、一先ず置いておくことにした。

「あ、そうだ。ミルミル。さっき転んじゃって膝を擦りむいちゃったんだけど、前みたいに魔法で治してくれない?」

 ファムの言葉に、ミルが体を硬直させた。仁と玲奈の視線がミルに集まる。

「ファム。痛むようなら僕の回復薬ポーションを使っていいよって言ったじゃないか」
「えー。それはもったいないですよー。あれ? ミルミル、どうしたの?」

 ヴィクターが僅かに表情を強張らせていたが、ファムは気付くことなく、顔を下に向けて黙ってしまったミルの姿に小首を傾げた。

「ファム。無理を言ってはいけないよ。ミルは今、別のパーティで仕事中なんだから」
「あ。そうだよね。ミルミルごめんね!」

 ファムが両手を胸の前で合わせた。

「僕たちはもう行くよ。奴隷くんにお嬢さん。それにミルも。邪魔して悪かったね。ではまた」

 ヴィクターはそう言うと、サポーターの少女たちを引き連れて仁たちから離れて行った。ファムがミルに手を振っていたが、ミルの視線は地面に向いたままだった。
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