リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき

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278話 囮(2)

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「ここに来るのは姫さんのバングルとアンクレットを買った時以来だけど、あの時とはまた違った物々しい雰囲気だね」

「あの日はシエルレクト神が酒場を襲った直後で、不安になった近隣住民が聖堂に押し掛けていたからね。そして現在は……ニコラ・イーストン捜索のために兵士が複数常駐している。落ち着いて礼拝できるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ」

 聖堂内はそれなりに多くの人々で賑わっていた。礼拝に来ている一般人の中に混ざって軍服を着た兵士がいる。これらはバルト隊長により派遣された一番隊の隊員たちだ。リアン大聖堂は失踪したニコラさんが再び現れる可能性が高い場所でもある。何が起こってもすぐに対処できるようにとの采配だった。

「女神様の加護もだけど、これだけ兵士がうろついてるなら警備面は安心だな。でもこんなガチガチに警戒態勢敷かれてる状況で、ニコラ・イーストンが戻ってくるかって聞かれると、ちょっと厳しいと思うけどな」

「確かに……捕まえて下さいって飛び込んでくるようなものだね」

「そうは言っても何もしない訳にはいかないだろうからね。ニコラさん本人の捜索は一番隊に任せて、俺たちは俺たちの調査に取り掛かろう」

 ルーイ様に促され、私たちは聖堂の中を進んで行った。迷いの無い足取り。ルーイ様はここに来たことがあるのだろう。そうなるとだ……このメンバーでリアン大聖堂に初めて訪れたのは自分だけということになる。
 王都で最も権威を持つ教会なだけあって荘厳な雰囲気が漂っている。メーアレクト様の力の影響が強いと言われていたから、そのせいもあるのかもしれない。

「それにしてもさ……兵士連中なら他にもうろうろしてるっていうのに、俺らだけめちゃくちゃ見られてんね……」

「こちらにはクレハ様とルーイ先生がいらっしゃるからね。このふたりに注目するなというのは難しい話でしょう」

「一番隊の兵士ですら釘付けになってますもの。私もおふたりへの目通りを願っていた身ですので、彼らをとやかく言える立場ではありませんが……それにしたってもう少しさり気なく見れないのかしら。いくらなんでも不躾過ぎるわよ」

 場違いにならない服装で来たつもりだったけど、私やルーイ様の存在は聖堂内で浮いていたようだ。周囲のあちこちから視線を感じる。来て早々に居心地の悪さを覚えてしまうが、今回はこれでいい。目立つのに慣れているルーイ様はもともとあまり気にしていないみたいだけど。

「ビビらなくても大丈夫だよ、姫さん。俺らがついてる」

「おふたりの美しさにみんな見惚れてるんですよ。場所も場所ですからね。女神の使徒でも現れたのではないかと勘違いしてるんじゃないですか」

「クレハ、悪いことしてるわけじゃないんだから堂々としてればいい。それに……」

 ルーイ様は膝を曲げて姿勢を低くすると、私と目線を合わせた。耳元に顔を寄せ、私にだけ聞こえるような小さな声で話を始める。

「多少は目立たなきゃ意味がないんだろ?」

「…….はい」

「大広間までもうすぐだ。きっちりお祈りしなきゃな」

 私たちがリアン大聖堂に来た目的は、ニコラさんが屋敷から抜け出した理由にあげていた『会いたい人』の手がかりを見つけ出すため。それでも表向きは、身の回りで不穏な事件が複数起きていることを憂いた私が、女神の元へお祈りに来たということになっている。周りから不自然に思われないための予防線を張り、しばらく聖堂に通うつもりだった。
 これほど注目を集めているのなら『クレハ・ジェムラート』がリアン聖堂にいるという噂はすぐに広まっていくだろう。それはきっと、ニコラさんや彼女の共謀者と思しき人物にも……

 リアン大聖堂に来た目的……ニコラさんの共謀者の手がかりを探すためだ。それは間違ってはいない。でも、もっと正確に言えば……私は自分自身を囮にして犯人の次の行動を誘発するつもりだった。
 レオンにも『とまり木』のみんなにも伝えていない。知っていたら当然止められるし、怒られていただろう。ここに来る許可も下りなかったに違いない。だから、この作戦は私とルーイ様のふたりだけでこっそりと行われている。

『会いたい人』の正体が、ルーイ様と私の想像通りの人物であるなら、私に対して強い憎しみの感情を抱いている。グレッグによる暗殺が失敗した今、その感情は更に激しく燃え上がっているはずだ。
 そんな犯人にとって無防備に聖堂へ出入りする私の姿はどう映るだろう。平常心でいられるだろうか。黙って静観することができるだろうか……手を出さずにはいられなくなるのではないか。
 危険であることは百も承知である。でも、このくらいのことをしなければ、犯人と対等に渡り合えないような気がした。待っているだけでは駄目だと。尻尾を出さないのなら、無理やり出させればいい。
 
「おーい、待て待て。そこの御一行、ストップ! ストップ!!」

 大広間を目指して歩いていた私たちに、若い男性が声をかけてきた。紺色の軍服に竜胆の襟章……一番隊の隊員だ。

「……誰だよ、あんた」

 ルイスさんは私の体を自身の背後に庇う。男性に問いかける声には険が混じっていた。同じ軍服を身に纏った仲間であろう人にもこの態度。警戒心を微塵も隠していない。

「はぁー……何回か会ったことあるだろうが。相変わらず無礼な奴だな。ルイス・クラヴェル」

「……ウォーレン・ベインズ隊員。我々に何か?」

 この一番隊の兵士はベインズさんというのか。ルイスさんと違ってレナードさんは相手のことをしっかりと認識していた。それでも態度はルイスさん同様そっけない。これはリアン大聖堂に入る直前に、ルーイ様が口走った発言のせいだろう。

『ここから先、俺たちに接触を図ってくる人間は知り合いでも疑え』

 クラヴェル兄弟はこの言葉を信じて実行しているのだ。さすがに同じ隊の兵士さんは除外してもいいような気もするけど、甘いかな。

「用があるから呼び止めたに決まってる。騒がしくしてしまい申し訳ありません、クレハ様。私、一番隊所属のウォーレン・ベインズと申します。お会いできて光栄でございます」

 私たちの思惑など知る由もないだろう、ベインズさんは丁寧な挨拶をしてくれたのだった。
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