281 / 294
280話 司教(1)
しおりを挟む
ベインズさんに案内され、マードック司教様の部屋だという扉の前に到着した。司教様は温厚な方だから安心していいと言われはしたけど……それでもリアン大聖堂で一番偉い方なのだ。緊張するのはどうしようもなかった。
「マードック司教、警備隊のベインズです。クレハ・ジェムラート様をお連れいたしました」
ベインズさんは、扉の奥にいるであろう司教様に向かって呼びかけた。すると、そう間を置かず部屋の中から返事が返ってくる。
「おお……ベインズ隊員、ありがとう。どうぞ、入って貰っておくれ」
穏やかで優しそうな男性の声。緊張のせいで強張っていた体から僅かに力が抜けて楽になった。
ルーイ様はリアン大聖堂に来たことがありそうな素振りだったけど……司教様には会ったことがあるのかな。そんな気持ちを込めて彼の顔を見た。
私の視線にすぐに気が付いてくれたルーイ様は、ハッとするほどに美しい笑顔を披露してくれた。どういう意味なんだろうか。彼の笑顔の意図がよく分からない。
なんだかルーイ様……美しさに磨きがかかってない? いや、綺麗なのは元からだ。私と違って緊張することに無縁そうなのも相変わらずである。上手く説明するのは難しいが、雰囲気が変わった気がするのだ。
セドリックさんなら知ってるかな。彼は護衛として……そして、怪我の看病のためにずっとルーイ様に付き添ってくれていた。後で聞いてみよう。
「失礼致します」
ベインズさんはドアノブに手を掛けた。ゆっくりと扉が開かれていく。
「皆さん。ようこそ、いらっしゃいました。さあ、どうぞ中に入って下さいませ」
「……マードック司教様?」
「はい。クレハ・ジェムラート様ですね。お初にお目にかかります。キース・マードックと申します」
司教様は扉越しに聞いた声のイメージ通りの方だった。年齢は60代くらいの男性。丸いメガネ越しに見える瞳は暖かみのある茶色。私に向けられる眼差しはとても優しい。笑うと目尻の皺が強調され、安心感と親しみを感じさせた。
身に纏っている衣装はアルバビリスによく似ている。物腰が柔らかく穏やかな印象を与えつつも、教会の神官然とした威厳のある姿だった。
「突然お呼び出てして申し訳ありません。こちらに掛けて下さい。お付きの方々も、さあ……」
部屋の中央にある椅子に座るように言われた。私は司教様に促されるまま、ゆっくりと椅子に向かって歩を進める。司教様はその様子を和やかに見つめていたのだけど……私に続いて部屋に入って来たルーイ様を目に留めた瞬間、全てが一転してしまった。
「は? えっ……貴方は……」
司教様は茶色の瞳を大きく見開いている。まるで恐ろしい物にでも遭遇したかのよう。一体何が起こっているのだろうか。ベインズさんも私たちも、突然の司教様の豹変ぶりに困惑する。さっきまでの落ち着いた雰囲気が一瞬にしてどこかに消え去ってしまった。そんな中でルーイ様だけがいつもと変わらない。この状況を作ったのが彼であるのは間違いないだろうに。
「よう、マードック。息災なようで何よりだ」
「ル、ルーイ様!!?」
司教様の口から飛び出したのはルーイ様の名前。ルーイ様の方も気さくに挨拶をしている。ふたりは知り合いなのか。司教様はルーイ様がこの場にいることにかなり驚いているようだけど……まさか、ルーイ様の正体を知っているのでは――――
「あの、マードック司教。ルーイ先生がどうかなさったのですか?」
「先生? ルーイ様が? はっ……?」
「ええ。女神から直々に任を受け、王太子殿下の元で教鞭を執っておられますよ。てっきり司教はご存知なのかと思っておりましたが……」
「マードック……」
ルーイ様が小声で呟いた。表情は笑っているのに紫色の瞳から放たれる威圧感が凄まじい。司教様の肩がびくりと震えた。あんな目で見詰められたら当然だ。私まで心臓が縮み上がりそう。
「あっ、そう! そうでした!! いやー……最近物忘れが酷くて……歳は取りたくないものですな」
どう見ても嘘だった。ルーイ様の圧に負けて話を合わせてくれたようにしか見えない。なんだか変な展開になってきた。ベインズさんたちも困っているじゃないか。
「司教、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」
「……問題ない。まさかルーイさ……先生もいらっしゃるとは思っていなくて、驚いてしまっただけだよ。気遣わせてしまいすまない。ベインズ隊員」
「無理をなさってはいけません。クレハ様、こちらから呼び出しておいて大変失礼ではありますが、司教の体調が芳しくないようです。お話しはまた別の機会に……日を改めさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「私は構いません。しばらく聖堂に通う予定でしたので……その間でしたらいつでもどうぞ」
「いいえっ……わざわざ御足労頂いたのにとんでもない!! ベインズ隊員、私は平気ですから……」
マードック司教の必死すぎる説得もあり、私たちは当初の予定通り司教様とお話しをすることになった。しかし、人数は最小限にして欲しいとの希望により、私とルーイ様のみが部屋に残される形となる。ベインズさんたちは、話が終わるまで隣の控え室で待機して貰うことになった。
「さて……もう下手な芝居をする必要はないぞ。つーか、驚き過ぎだろう。幽霊にでも会ったみたいじゃないか」
ルーイ様は皆がいなくなった途端、椅子にどっしりと腰を下ろした。まるで自分の部屋かのような態度だ。もうちょっとお行儀良くして下さい。
「神である貴方様になんの準備もなくお会いするのに比べたら、幽霊相手の方がいくらか冷静に対応できたのではないかと思います。改めまして、キース・マードックがルーイ様にご挨拶申し上げます」
「はい、はい。突然来た俺が悪かったですよ」
「司教様はルーイ様が神様だってご存知だったのですか」
「はい。クレハ嬢も……そうだったのですね。色々と申し訳ありませんでした。レオン殿下の婚約者である貴女が聖堂にいらっしゃると聞いて、挨拶をしておこうと思っただけなのです。まさかルーイ様がご一緒だとは………取り乱して、見苦しいところをお見せ致しました」
司教様は私に向かって謝罪をした。私も状況がまだ飲み込めていないので、どのように対応すればいいのかわからない。
「司教様、そしてルーイ様。まずはおふたりの関係からご説明頂けないでしょうか」
「マードック司教、警備隊のベインズです。クレハ・ジェムラート様をお連れいたしました」
ベインズさんは、扉の奥にいるであろう司教様に向かって呼びかけた。すると、そう間を置かず部屋の中から返事が返ってくる。
「おお……ベインズ隊員、ありがとう。どうぞ、入って貰っておくれ」
穏やかで優しそうな男性の声。緊張のせいで強張っていた体から僅かに力が抜けて楽になった。
ルーイ様はリアン大聖堂に来たことがありそうな素振りだったけど……司教様には会ったことがあるのかな。そんな気持ちを込めて彼の顔を見た。
私の視線にすぐに気が付いてくれたルーイ様は、ハッとするほどに美しい笑顔を披露してくれた。どういう意味なんだろうか。彼の笑顔の意図がよく分からない。
なんだかルーイ様……美しさに磨きがかかってない? いや、綺麗なのは元からだ。私と違って緊張することに無縁そうなのも相変わらずである。上手く説明するのは難しいが、雰囲気が変わった気がするのだ。
セドリックさんなら知ってるかな。彼は護衛として……そして、怪我の看病のためにずっとルーイ様に付き添ってくれていた。後で聞いてみよう。
「失礼致します」
ベインズさんはドアノブに手を掛けた。ゆっくりと扉が開かれていく。
「皆さん。ようこそ、いらっしゃいました。さあ、どうぞ中に入って下さいませ」
「……マードック司教様?」
「はい。クレハ・ジェムラート様ですね。お初にお目にかかります。キース・マードックと申します」
司教様は扉越しに聞いた声のイメージ通りの方だった。年齢は60代くらいの男性。丸いメガネ越しに見える瞳は暖かみのある茶色。私に向けられる眼差しはとても優しい。笑うと目尻の皺が強調され、安心感と親しみを感じさせた。
身に纏っている衣装はアルバビリスによく似ている。物腰が柔らかく穏やかな印象を与えつつも、教会の神官然とした威厳のある姿だった。
「突然お呼び出てして申し訳ありません。こちらに掛けて下さい。お付きの方々も、さあ……」
部屋の中央にある椅子に座るように言われた。私は司教様に促されるまま、ゆっくりと椅子に向かって歩を進める。司教様はその様子を和やかに見つめていたのだけど……私に続いて部屋に入って来たルーイ様を目に留めた瞬間、全てが一転してしまった。
「は? えっ……貴方は……」
司教様は茶色の瞳を大きく見開いている。まるで恐ろしい物にでも遭遇したかのよう。一体何が起こっているのだろうか。ベインズさんも私たちも、突然の司教様の豹変ぶりに困惑する。さっきまでの落ち着いた雰囲気が一瞬にしてどこかに消え去ってしまった。そんな中でルーイ様だけがいつもと変わらない。この状況を作ったのが彼であるのは間違いないだろうに。
「よう、マードック。息災なようで何よりだ」
「ル、ルーイ様!!?」
司教様の口から飛び出したのはルーイ様の名前。ルーイ様の方も気さくに挨拶をしている。ふたりは知り合いなのか。司教様はルーイ様がこの場にいることにかなり驚いているようだけど……まさか、ルーイ様の正体を知っているのでは――――
「あの、マードック司教。ルーイ先生がどうかなさったのですか?」
「先生? ルーイ様が? はっ……?」
「ええ。女神から直々に任を受け、王太子殿下の元で教鞭を執っておられますよ。てっきり司教はご存知なのかと思っておりましたが……」
「マードック……」
ルーイ様が小声で呟いた。表情は笑っているのに紫色の瞳から放たれる威圧感が凄まじい。司教様の肩がびくりと震えた。あんな目で見詰められたら当然だ。私まで心臓が縮み上がりそう。
「あっ、そう! そうでした!! いやー……最近物忘れが酷くて……歳は取りたくないものですな」
どう見ても嘘だった。ルーイ様の圧に負けて話を合わせてくれたようにしか見えない。なんだか変な展開になってきた。ベインズさんたちも困っているじゃないか。
「司教、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」
「……問題ない。まさかルーイさ……先生もいらっしゃるとは思っていなくて、驚いてしまっただけだよ。気遣わせてしまいすまない。ベインズ隊員」
「無理をなさってはいけません。クレハ様、こちらから呼び出しておいて大変失礼ではありますが、司教の体調が芳しくないようです。お話しはまた別の機会に……日を改めさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「私は構いません。しばらく聖堂に通う予定でしたので……その間でしたらいつでもどうぞ」
「いいえっ……わざわざ御足労頂いたのにとんでもない!! ベインズ隊員、私は平気ですから……」
マードック司教の必死すぎる説得もあり、私たちは当初の予定通り司教様とお話しをすることになった。しかし、人数は最小限にして欲しいとの希望により、私とルーイ様のみが部屋に残される形となる。ベインズさんたちは、話が終わるまで隣の控え室で待機して貰うことになった。
「さて……もう下手な芝居をする必要はないぞ。つーか、驚き過ぎだろう。幽霊にでも会ったみたいじゃないか」
ルーイ様は皆がいなくなった途端、椅子にどっしりと腰を下ろした。まるで自分の部屋かのような態度だ。もうちょっとお行儀良くして下さい。
「神である貴方様になんの準備もなくお会いするのに比べたら、幽霊相手の方がいくらか冷静に対応できたのではないかと思います。改めまして、キース・マードックがルーイ様にご挨拶申し上げます」
「はい、はい。突然来た俺が悪かったですよ」
「司教様はルーイ様が神様だってご存知だったのですか」
「はい。クレハ嬢も……そうだったのですね。色々と申し訳ありませんでした。レオン殿下の婚約者である貴女が聖堂にいらっしゃると聞いて、挨拶をしておこうと思っただけなのです。まさかルーイ様がご一緒だとは………取り乱して、見苦しいところをお見せ致しました」
司教様は私に向かって謝罪をした。私も状況がまだ飲み込めていないので、どのように対応すればいいのかわからない。
「司教様、そしてルーイ様。まずはおふたりの関係からご説明頂けないでしょうか」
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる