婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

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05.二人部屋

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05.二人部屋




 あの後、シシェルは僕のいいようにしてくれると確約をしてくれて、城に行っても僕の世話はシシェルが率先してしてくれるという。
 …あのシシェルが?
 お世話をされることはあっても、世話をすることなんてないだろうから不安しかない。
 胡散げな僕の視線に気付いたのか、シシェルはお試し期間として一週間このノアトルで僕の世話をしてそれから考えてほしいとお願いされた。
 嫌がる僕に一人部屋では具合が悪いと女将さんに勝手に交渉して、三階の一番いい部屋に勝手に移動させられた。
 南向きの一番日当たりのいい部屋の鍵をもらい、扉を開ける。一人部屋の三倍はある部屋にセミダブルのベッドが二つと、アンティークな作りの華奢な丸い木のテーブルと、セットの椅子が二脚置いてある。
 入って左の扉に洗面所があるのかな。ベッドの間に簡素な物入れがあって、後はなにもない。出窓に飾られたピンク色の花が唯一の飾りだ。

 シシェルが扉側のベッドに荷物を置いたので、僕は窓側のベッドに腰を降ろした。
 僕の荷物は肩に掛けるタイプのポシェット型の皮の鞄で、ここに来て数ヶ月、僕の荷物がこれだけでないことにシシェルは気付いているのか、不思議そうな顔をしていた。

「この鞄、精霊の加護をもらってて、小さいんだけど無限収納で色々入っているんです。採取とか、魔物の一部を持って帰らないといけない依頼とか便利で…って、どうしたんですか?」

 ポシェットに手をつっこんで、中に入っているものをポイポイとベッドに出していたら熱視線に気付いた。

「…良いな、その鞄は…」

 前世の僕には考え付かなかった無限収納は現世のオタクの知恵だ。インベントリに預けた方が見た目的にもなにが保存されているのか判りやすいが、鞄一つくらい持っていないと冒険者らしくない。装飾品の一つとして作ったのだが、シシェルにはこれがとても魅力的な道具に見えたようだ。

(…確かに)

 シシェルが抱えていた荷物は大きなポケットが一杯付いた物がいっぱい詰まった重そうな鞄と、僕が両手を使っても上手く振ることが出来るのか判らない立派な宝飾の付いた太刀、そして腰につけられた小さな鞄が二つ。
 途中まで従者が運んだんだろうけど、相当な大荷物だ。何が入っているのか検討も付かないが僕だったらこの装備でこの宿屋の階段を上がることすら出来そうにない。
 しかし、このポシェットをシシェルにあげようにも元々このポシェットはこの宿屋の女将さんが持っていた女物を自分用にリメイクを施したもので大柄な男がつけると違和感が拭えない。これを渡すのは一旦置いて、キョロリと辺りを見渡していたら外から六つの鐘の音が聞こえた。

「ご飯…」

 大体時刻は午後六時程。
 夕飯に丁度いい時間だが、シシェルはどうするんだろう。

「僕、いつもこの宿屋の下の食堂でご飯を食べるんですが、あなたはどうするんです?」

 毒見も何もない大衆食堂で第三殿下が食事を取れるわけがない。
 どこかで準備しているのか遠まわしに聞けば、熱心にポシェットを見ていたシシェルが顔を上げ「そうだった」と口にした。

「好き嫌いはあるか? 女将にこの部屋まで食事を運んでもいいと聞いた。いつも頼んでいるものがあったりするのか?」

「は?」

「お前の好きなものを持ってこよう」

「そ、そんなことさせれません!」

 仮にもこの国の王子に給仕をさせるなんて僕には無理だ。
 慌てて部屋を出て行こうと扉に手を伸ばすがその一歩前でシシェルが扉に背を預け僕の腕を取った。

「お前のお世話をさせておくれ?」

 スルリと優雅に手を上に持っていかれ、手の甲に口付けを落される。

「!」

 まさかの行動に唖然とした僕を簡単に抱え上げ、椅子に座らされた。

「すぐ戻る。待っていて」

 思考が完全に停止した僕を他所にシシェルは部屋を出て行った。
 パタンと扉が閉じた音がしたのは判ったが、僕には動くことが出来なかった。
 前世で大好きだった人が、僕の手をとってくれた。口付けを落してくれた。
 まるで大切なものであるかのように、錯覚をしてしまった。前世の僕のように。

「駄目。この世界は全てが僕を裏切る。期待しちゃ駄目だ」

 自分に言い聞かせるようにそっと呟いて目を閉じた。



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