婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135

文字の大きさ
8 / 24

07.朝一番

しおりを挟む



07.朝一番



 無音だった世界から、チチチ、と小鳥の囀る音が聞こえて朝かと徐々に覚醒する頭が寝る前の状況を思い出した。

「!」

 ゾッとして一気に覚醒した僕は慌ててベッドから身を起こした。
 どうか夢であれと祈ったが、部屋は広く、起き上がった視線の向こうでは第三殿下であるシシェルが朝食の準備をしていた。

「おはよう。食事を用意した。顔を洗うのを手伝おう」

「えっ?!」

 大き目のボウルに入れられたサラダをそれぞれの器に盛り付ける所だったのだろう、シシェルがサラダトング片手にニッコリと朝の挨拶をしてくれた。
 テーブルには程よくトーストされた食パンと、目玉焼きにベーコンとウィンナーが乗った皿がそれぞれ置かれている。料理の量が明らかに違うから、昨日の僕の食事量を察してくれたのだろう。
 寝起きの顔を見せてしまったことが恥ずかしくて、簡素に挨拶を返し急いで洗面所に向かう。
 服はワンピースタイプの白いシャツを着せられていて、昨日、寝落ちた僕にシシェルが着せてくれたんだと思うと居た堪れなさに落ち込んだ。
 身体はスッキリとしていて、あの後マッサージは全身に及んだのだろう。第三殿下を放って寝落ちをするなんて。更に気分が落ちた。
 洗面所で一人悶えているとノックの音がして「朝食が冷めてしまうぞ」と声が掛かった。これ以上の醜態はまずいと、そそくさと部屋に戻った。
 僕が座る椅子を引いて待っていてくれたシシェルが座ったタイミングで椅子を調整してくれる有能ぶりだ。
 食事をしようと手を合わせて、ナイフとフォークを持とうとして気付いた。また、一組しかないことに。

「…へ…?」

 また?
 またなの?
 恐る恐るシシェルを見れば、ニッコリと笑う彼と目があった。

「さぁ、口を開けろ」

「やだっ…! やだって、僕一人で食べれる!」

 首を振って止めろと拒絶するのにシシェルは意に介さないようで、楽しそうに笑うばかりでこちらに向けるフォークを下げる様子はゼロだ。
 僕が口を開けるよう刺したサラダを唇にツンツンと当ててくる。ドレッシングが唇について、思わず舌で舐めてしまい、その隙間を狙ってフォークを突っ込まれた。
 あまりの力技に早々に諦めて次はカトラリーを用意しておこうと堅く心に誓った。

 食事だけでクタクタになっているのに、シシェルの“お世話”は終わらなくて、食事の片付けをした後に椅子に座らされて丁寧に髪を梳かされ結われ、あろうことか着替えまでされた。
 髪を結う手のひらはとても器用でどうやって結われたのか判らない編みこみの髪型にされ、僕の私物じゃない綺麗な髪飾りをつけられた。服だって、僕こんな上等なヒラヒラした服持ってない。ワンピース型の服が好きなのか、白地に金色のラインと装飾の施された服に墨色のローブを着せられ、スキニータイプのパンツと、短いこちらも白地に金具は金色のブーツを傅いて履かされた。
 シシェルのコーデで僕は飾られた。
 息も絶え絶えだ。
 一々距離が近いし、一々褒めてくる。
 かわいいとか、きれいだ、とか。
 シシェルってこんな感じだったかな。
 着替えが終わり、その出来栄えに満足したのかシシェルが仕上げだとばかりに僕の額にキスをしてきて思わず腰が抜けた。
 シシェルもまさか僕が腰を抜かすとは思っていなかったようで、慌てて僕を起こし上げてくれた。

「…すまない」

「~~~~っ」

 軽々持ち上げられて、ベッドに降ろされた。
 額にキスされただけで腰が抜けるって、恥ずかしすぎないか?
 シシェルと顔が合わせられなくて、真っ赤な顔で斜め下の床を見ていたらスライドで秀麗な顔がフェイドインしてきた。

「こちらを見てくれ。そこまで初心だとは思わず、すまなかった」

 甘い声に引きずり込まれそうになって、慌てて頭を振る。
 いつもこうやって僕はほいほい騙されて前世では皆に見捨てられた。
 シシェルにだって色々とあって、僕の機嫌をとっているだけに違いないのに、また前世みたいな熱病に掛かったように浮かされてしまう。
 シシェルがあの少女を大切にしていると知ったのに、僕はまた愚かな思い違いをしそうになった。生まれ変わっても僕はなにも変わっていない。またアッサリと第三殿下に騙されてしまった。

 溜息を一つついて、ベッドから降りて部屋を出る。
 後ろからシシェルの気配が付いてくるけど無視して宿屋を出た。
 宿屋を出て、街の中心部にあるギルドに足を向ける。
 ギルドは街の中心部にドーンとあるけれど、ここに討伐対象の魔獣を持ってくるわけにもいかないから街の外れに討伐、採取の獲物を受け渡す施設がある。そこで確認のカードを貰いギルドで報酬を貰う仕組みになっている。
 魔獣討伐の確認の為に一匹を持って帰るのは至難の技なので、その魔物だと確認できる一部を持って帰れば依頼はクリアなのだけど、魔獣の肉は美味しい。色んな魔獣が居るけれど、この国の家畜はそこまで味は良くない。が、魔獣の肉は高級な味がする。
 僕は無限収納があるので、討伐した魔獣を宿屋に持ち帰り女将さんにお土産として渡している。肉は美味しく調理され、僕の食卓に並ぶ。昨日、今日とシシェルが運んできた肉がそれだ。

 王都に行くとなるとお世話になった女将さんに貢物が出来なくなるってことだ。それも悩みどころだ。
 しかも、僕は立場はどうであれ、日陰者としてあの少女の影にされいいように使われるのだ。嫌だな。どんな待遇を申し出られようと、冒険者として暮らすほうが楽しい。
 それが判っているから、人身御供のようにシシェルが僕のお世話をしているのだ。第三殿下自らこんな甲斐甲斐しい真似をしてまでも少女が大切らしい。
 苦々しい想いがこみ上げてきて、顔を顰めていたら前方から名前を呼ばれた。

「ユエ! 今日もギルドに行くのか? だったら俺も一緒にいいかな」

「アバン。いいけど」

 アバンはAクラスの冒険者で、この街の人気者だ。
 茶褐色の癖のある髪を後ろに撫でつけていてピョンピョン跳ねた髪が愛嬌たっぷりで、男ぶりの逞しい顔つきとAクラスならでわの鍛え抜かれた体格が街の女性達に人気がある。笑えば蜂蜜色の瞳がとろりと甘く溶け、色気が立ち込める…とは、パン屋の女将さん談だ。
 そんな有名な冒険者は何故か僕に目をかけてくれていて、何かあるとこうやって声をかけてくれる。
 いつも通りに肩を抱かれギルドまでの道のりを歩むのかと思っていたら、その手がガシリと掴まれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい

発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』 そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。 そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。 あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。 「あ、こいつが主人公だ」 超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...