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08.過保護王子
しおりを挟む08.過保護王子
「この者は私と行動している。貴様とは行かぬ」
「誰だお前」
「何故、貴様に名乗らなければならない」
え? 第三殿下って、貴様なんて言葉を使うの?!
どうしてかアバンに敵対心バリバリのシシェルは見たこともないような険しい表情でアバンとガンの付け合いをしている。その道のプロみたいな貫禄があるのはどうしてだろうか。
アバンとてAランクの冒険者なので負けてはいない。
二人とも同じくらいの身長で、立派な体格をしているので喧嘩が勃発しても誰も止められない。
魔法で収束に向かえれば早いんだろうケド、こんな街角でしかもギャラリーが増えだしている所で魔法なんて使えない。生活魔法以外の用途の魔法はとても目立つ。だから、ここでの僕の最善はそっと遠ざかることだ。
魔法で透明化の魔法をそそっと使い、場を離れ、急いでギルドに駆ける。
ギルドに行き、Cランクでも上位に行く討伐依頼を選びギルドカードを受付で出した所にもう一つのカードが差し出された。
僕の番なのに、なんて無頼な輩だとカードを見て驚いた。
ギルドカードはランクごとに色が違い、地方ごとに発行されるカードのデザインが違う。ノアトルのギルドカードはオシャレで人気もあるが、魔獣が強いのでランクを上げるのも難しい。
そしてそのカードはこのノアトルのもので、色は真っ黒だ。僕がCランクの青色で、Bランクが銀色、Aランクが金、滅多にお目にかかれない黒がSランクだ。
ぎょっとして、差し出された腕を辿り、視線を上に上げると見知った美麗な顔があった。
「で、でん、か…」
「私とお前ならBランクの受付が可能らしいのだが、その依頼でいいのか? なんならもう一つか二つ受けても大丈夫だが」
喧嘩は終わったのか、不発だったのか、シシェルには怪我一つないようだ。
唖然としている僕を他所にシシェルは受付嬢に他にも適度な依頼はないかと尋ねている。いつも卒のない態度の受付嬢の頬が真っ赤に染まり、アピールチャンスだとばかりにシシェルに幾つかの討伐依頼書を手渡した。
「全て裏山で終わらせるものだな。行こうか」
シシェルが言う“裏山”は上級者ダンジョンのことだ。
魔獣が蔓延る山の中心部に聳え立つダンジョンで、ここでのドロップ品は最高級品質のものが多いが、Bランク以上の人間しか入れないので僕は初めてだ。
シシェルがギルドカードを持っているなんて前世では知らなかったし、まさかSランクだなんておもってもいなかった。。
前世の第三殿下は僕の知っている間、勉学と公務と僕とのあれこれでとても急がしそうでとてもダンジョンに入れる暇なんてなかった。
やっぱりこの世界の第三殿下はちょっと違うのかな。
シシェルに逃げられないよう手を掴まれ、ぐいぐい強制的に裏山に連れてこられた。
ここでの討伐する魔獣は大型の物が十体、中型が二十体。道中に出てくる魔獣は依頼対象ではないが進むためにやむを得ず倒していく。
魔法で僕が援助して、シシェルが切りつける。数が多い場合は僕も魔法で参戦して、珍しい薬草や鉱物などを採取して鞄に仕舞う。
さすがSランク。あっという間に依頼の半分を終え、ダンジョンも中下層まで下りてきた。
いい時間なので、ここでちょっと休憩しようと提案して、僕は辺りに魔獣避けの魔法をかけて簡易の結界を張った。
「見事なものだな」
途端に魔獣がやってこなくなり、感心したようにシシェルが呟く。
朽ちて倒れた木を腰掛けにしてシシェルの分を開けて座り、鞄を開く。
この鞄の便利な所は、次元の精霊の加護を貰って入れたものの時間を停止させている小技がついていることだ。
ここら辺も異世界モノ知識があってこそだと思う。
鞄から日本人には馴染みの白い三角の物体を取り出す。
「?」
僕の隣に腰掛けたシシェルはそれを見て不思議そうにしている。
「これは、米を炊いて三角にした食べ物なんですが…」
この国では米は煮込んで食べるもので、こうやって単品で炊いて食べるという風習はない。
こうやって討伐の最中に簡単に食べれるので食堂のキッチンを借りてちまちま作って保存しているのだけど、鞄から出したし僕が作ったものだし、毒見は居ないし、これを第三殿下に渡してもいいものか逡巡する。
宿屋ではきっと部屋に運んでくるまでにそれが安全であるか確かめているだろう。
「その、僕が作ったもので…僕が毒見なんておかしいし、あなたが食べても大丈夫なものあったかな…」
笹の葉みたいな葉に包んでいたそれを取り出したはいいものの、シシェルに渡せないのでそれを一旦仕舞いなにかないかと鞄を漁ろうとして、オニギリを持っていた手を掴まれた。
「え?」
ガシリと掴まれた手を引かれた。
そしてパクリと食べられたオニギリと、それを食べたシシェルを見て血の気が引いた。
「これは美味なものだな」
モクモクと食べて、二口、三口で僕の手のオニギリを食べきってしまった。吃驚する僕の指をペロリと舐めて、「まだないのか?」と催促された。
その場で絶叫しなかった僕を誰か褒めてほしい。
オニギリを五つ食べて、中の具が違うことに気付いたシシェルは明日もオニギリが食べたいと所望してきた。
オニギリを食べるだけならいいのに、鞄から出したオニギリをそのまま僕の腕を掴んで食べるのは生きた心地がしなかった。食べ終わって僕の指を舐めるのも背筋がゾワリとして頂けない。
ほぼ半泣きで顔を真っ赤にする僕とは対照的にシシェルは至極ご満悦だった。
「これはお前の世界の食べ物なのか?」
「………」
シシェルがあちらの世界の事を色々聞いてくるが無視してそっぽを向いていたら、耳元に息を吹きかけられてゾワッと総毛立った。
「!!」
「お前の肌が紅く染まって、熟れた果実のように甘そうだ」
低い甘い美声に耳が犯されたような感覚に陥った。
そして、チュッと音がして温かなものが頬に当てられた。
バッとシシェルから離れ、頬を両手で隠しシシェルを見る。
「無視をされるとどうしても此方を向かせたくなるのが男というものだろう?」
壮絶な色気を持った美青年が此方を見て微笑みを湛えている。その視線一つで女なんてイチコロだろう、とんでもない色香だ。
「さぁ、私の食事は終わった。次はお前の番だな」
シシェルは持っていた鞄から簡易の食料を取り出した。
コイツ、食料持ってた! なんて奴だ!
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