木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第8章 波乱と因縁の建国祭

第486話 天秤が傾く瞬間

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「それでは、陛下にはご同行していただくということになりましたが……」


 父が国王をノルベルトのもとに連れていくことに同意したのを見たロスペルは、メストの方に目を向ける。
 その銀色の瞳は、静かに見定めるような目をしていた。


「先程、『大切な人を救う』と仰っていましたが……あなたは、この国の真実を知る覚悟がありますか?」
「ロスペル!」


 ロスペルが言わんとすることが理解したリュシアンが、声を荒げてロスペルの肩を掴む。
 そんな兄に、振り向いたロスペルは人の良さそうな笑みを向ける。


「いいじゃないですか、兄さん。遅かれ早かれ、こうなることは分かっていたでしょう?」
「そうかもしれないが、しかし……!」
「それに、僕の提案にリュシアン兄さんよりも先に口を挟むであろう父上が口を挟まないということは、父上は僕がやろうとしていることを認めたということですよ」


 そう言ってレクシャの方を見ると、国王の隣で眉間に皺を寄せながら静かに首を縦に振った。
 それはつまり、メストの改竄魔法を解くことを認めたということだった。

 それを見たリュシアンは小さく下唇を噛むと、そっとロスペルから離れた。


「父さんが認めたなら、俺も認めるしかないな」
「ありがとうございます、リュシアン兄さん」


 苦しそうな顔で視線を逸らしたリュシアンに、優しく微笑んだロスペルは少しだけ笑みを潜めるとメストに視線を戻す。


「それで、あなたにこの国の真実を知る覚悟がありますか?」
「何を、言っているのですか?」


 (カミルを助けることがこの国の真実を知ることに繋がる? 一体どういうことなんだ?)

 ロスペルの言葉に困惑したメスト。
 すると、不意にカミルが平民を虐げる悪徳騎士に対して、銀色のレイピア一本で立ち向かう勇ましい姿が脳裏を過ぎった。

 (確かに、カミルは俺の知っている平民とは明らかに違う。だが、それがこの国の真実と何が関係あるんだ?)

 困った顔のまま問い質すメストに、小さく溜息をついたロスペルな笑みを浮かべたまま質問を変える。


「そのままの意味です。あなたが大切な人を救うということは、この国の真実を知るということです。そしてそれは、今のこの国を敵に回すことになります」
「っ!」


 (カミルを助けるには、この国の真実を知らなければならない。だが、それを知れば、俺はこの国に仇なすことになる)


「それでも、今のあなたにありますか?     たった1人を助けるために今の地位を捨て、この国の真実を知り、今のこの国に仇なす覚悟が」


 笑みを潜めたロスペルからの問いに、拳を握ったメストが口を開く。


「それを知ったら、本当にカミルを助けることは出来ますか?」
「そうですね。少なくとも、あの騎士達と同じように誰かの傀儡になり果て、知らないうちに自らの手で大切な人を殺める可能性は無くなり、その手であなたの大切な人を救うことは出来ると思いますよ」
「っ!!」


 メストの脳裏にハイライトを失った部下たちが自分を襲ってくる場面が蘇る。

 それがもし、自分だったらと想像したメストの表情が一気に険しくなる。

 (この国の真実を知って、この手でカミルを助けることが出来るのなら……!)

 拳を強く握ったメストは覚悟を決める。


「……分かりました」
「メスト!!」


 声を荒らげたシトリンから肩を掴まれて引き止められるが、メストの覚悟は揺るがない。


「本当に、良いのですね?」


 ロスペルから静かに問い質され、メストは深く頷く。


「はい!! 俺は、騎士の身分を捨ててでも……いえ、この命に代えてでもカミルを……大切な人を救いたいです!!」


 (それだけ、俺にとってカミルは大切な人だから!)

 今のメストにフリージアの記憶は無い。

 けれど、冷たくも優しくてお人好しなカミルにメストは何度も救われた。
 だから、彼は自分にとって大切な人であるカミルを救いたかった。

 例え、大切な人の正体が本当の婚約者であり、一目惚れした相手だと分からなくても。
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