木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
520 / 606
第8章 波乱と因縁の建国祭

第487話 呪縛から解き放つ

しおりを挟む
「メスト……」


 心配そうに見つめるシトリンに、メストは申し訳なさそうな顔で微笑んだ。


「すまん、シトリン。だが、俺はカミルを助けたいんだ」


 (この国の真実を知ってカミルが救えるなら、俺は喜んでこの国の真実を知ろう。例え、それで騎士という立場を捨てることになっても)


『ずっと、お慕いしておりました』


 最後に会ったカミルの寂しそうな笑顔がメストの脳裏を過ぎり、握っていた拳に力を入れる。

 それを見たシトリンは、小さくため息をつくと、メストを引き留めるように肩を掴んでいた手を離し、ロスペルの方に目を向けた。


「あの、メストにこの国の真実を教えるのならば、僕にも教えもらっても良いですか?」
「シトリン!」


 シトリンの言葉に、声を荒らげたメストがシトリンの両肩を掴む。
 そんな彼の顔を見たシトリンは、いつもの柔和な笑みを浮かべる。


「メスト。僕もカミル君にはそれなりに恩義があるんだ」
「恩義?」
「あぁ、『悪徳騎士から平民を守ってくれた恩義』をね」


 (それと『婚約者から見放された親友を支えてくれた恩義』も)


「なにより、親友を1人行かせるなんて僕には出来ないよ」


 物心ついた時からジャグロット家の跡取りとして貴族としての立ち回りを両親から叩き込まれていたシトリンは、常に柔和な笑みを浮かべながら周囲の人間を観察することで人と距離をとり、内に秘めた冷たい本性を隠していた。

 そんな彼にとって、メストは自分とは正反対の人間で、出会った最初の頃は誠実で正直な彼のことを心底毛嫌いしていた。

 自分がひた隠しているものを、彼は包み隠していなくて、それにより彼は周りから認めてもらえているから。

 自分は隠さないと両親からも認めてもらえないのに。

 しかし、一緒にいる時間が長くなるにつれて、メストの人の良さに絆されたシトリンは、いつしか『親友』と呼べる間柄になるほど彼に心を許して親しくなっていた。

 そして今、副隊長としてメストの隣にいるシトリンは、カミルと出会ってから急速に変わっていくメストをずっと見てきた。

 親友の変化に最初は『騎士としてそれは危ない』と思い、彼に忠言をして変化を止めようとした。

 けれど、カミルが平民を守るために剣をとって悪徳騎士と対峙する姿を見かける機会が増えたことで、シトリンの中でもカミルに対して恩義を感じていた。 

 それが、騎士として恥ずべきことだと分かっていても。

 そして、ダリアから距離を置かれてから、メストを騎士としていさせてくれたことにも、シトリンはカミルに恩義を感じていた。

 なぜなら親友の騎士として凛々しくいる姿が大好きだったシトリンにとって、『カミルがいなければ今頃、メストは騎士を辞めていた』と思っていたから。

 だからこそ、シトリンはこの機会にカミルに対して恩を返そうと思った。

 今まで平民を助けてくれたことに。そして、メストを騎士としていさせてくれたことに。

 そんなことを知る由もないメストは、両肩を掴みながらシトリンに思い直すように説得する。


「だが、お前にはジャグロット家が……何より、マヤ嬢がいるじゃないか!」


 (お前は俺と違って大切な者がいる!    だから、お前まで危険を犯す必要は無い!)

 必死な形相のメストに、シトリンは柔和な笑みを崩さない。


「その時は、親戚から誰かを養子に据えて、マヤを連れて隣国に亡命するよ」
「そんな無責任な……!」
「えっ?    メストだって、最初からそのつもりだったんでしょ?」
「ぐっ!」


 渋い顔をするメストに、楽しそうに笑うシトリン。
 仲睦まじい光景を目の当たりにしたロスペルは、懐かしそうに微笑むと小声で呟く。


「本当、2人は相変わらず仲が良いですね」
「「えっ?」」


 (この人、もしかして俺たちのことを知っているのか?)

 目の前にいるロスペルが、実は親しくしていたなんて今の2人が知るはずがない。

 そんなことを分かっていたロスペルは、小さく首を横に降ると後ろにいる父親に目を向ける。


「父上、2人に解呪魔法をかけて良いですね?」
「あぁ、2人の覚悟は変わらないようだしな」
「そうですね」


 思わず苦笑したロスペルは、2人に視線を戻すと杖を向け、目を閉じて魔力を練った。

 (そう言えば、僕が初めて覚えた非属性魔法は解呪魔法だった。無効化魔法が解けるんじゃないかって思って覚えたんだよね。まぁ、それも無駄だったって後で分かったんだけど)

 5歳の頃、あらゆる魔法の勉強をしていたロスペルは『父や兄の無効化魔法を解いて、自分や母と同じように自由に魔法を使って欲しい』と思い、習得困難とされる解呪魔法をすべく必死に研鑽を詰んだ。

 そしたつ、10歳という若さで習得してしまった。

 しかしその直後、どんな魔法や呪いも解ける解呪魔法が、『実は魔力を練って詠唱する魔法に限り、魔力自体に魔法が刻まれているため魔力を練る必要がほとんどない無効化魔法を解呪魔法で解くことは不可能である』ことを知ってしまった。

 (それでも、習得したお陰でこうして役に立っているから、あの時、必死になって習得して良かったのかも)

 懐かしい苦い思い出が蘇り、笑みを零したロスペルがそっと目を開けると、目の前にいるメストとシトリンに問い質す。


「では、今から2人に魔法をかけます。これは激痛が伴いますが、構いませんか?」
「はい!!」
「大丈夫です」


 (やっぱり、2人は強い。さすがですね)

 兄が親友として屋敷に招き、兄と一緒に剣の鍛錬をしていた2人を懐かしそうに笑ったロスペルは、笑みを潜めると2人に魔法をかける。


「では行きます。《ディスペル》」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...