木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第8章 波乱と因縁の建国祭

第492話 ここは私に任せて

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「あなたは……!」
「ウフフッ、お久しぶりね。み・な・さ・ま♪」


 道を切り開いたメストの後を追おうとしたレクシャ達の前に現れたのは、ノルベルトの妻であり、ダリアの母であるカルミア・インベックだった。

 貧乏男爵家の次女だった彼女は、幼い頃に神殿で受けた魔力判定で闇魔法に適性があると判断された。

 けれど、彼女は家族に火魔法使いだと嘘ついた。

 家族に闇属性に適性があるとバレて忌避されたら、貴族ではなくなるかもしれないと恐れたからだ。

 そして月日が経ち、学園に入学したカルミアは、自分が持つ闇属性魔法の特性と男遊びを知り、毎週のように仮面舞踏会に出ては朝帰りをしていた。

 ノルベルトに出会ったのも、とある仮面舞踏会に出た時だった。

 伯爵家の嫡男で同じ闇魔法使いである彼をなんとも仕留めたかったカルミアは、あらゆり手を使って彼を篭絡して朝まで過ごした。

 その結果、『美人で体の相性が良かった』という理由で彼から婚約を申し込まれ、あれよあれよと彼の婚約者になり、学園卒業後に結婚して、数年後にダリアを生んだ。

 そんな彼女もまた、ノルベルトの被害者であり、彼の改竄魔法により『自分は宰相家夫人だ』と思わされていた。


「あら~、誰も彼も良い殿方ですわね~。これは、楽しみがいがありますわね♪」


 胸元が大胆に開き、スリットが深く入った派手で扇情的な真っ赤なドレスに身を包んだカルミラは、レクシャをはじめとした男達を獲物を狙う目で見つめる。

 そんな魔法で若々しくなった彼女の貴族夫人としてあまりにも下品な振る舞いを目の当たりにし、その場にいた男性たちが揃って顔を引き攣らせる。

 それを何を勘違いしたのか、笑みを深めたカルミアがレクシャ達に迫る。

 
「あら~、ここにいる人達って皆さん初心なのですね~。本当、可愛い・こ・と♪」
「「「「「「…………」」」」」」


 (((((いや、単にあなたの振る舞いに引いているのですが)))))

 言葉を失っているレクシャ達を前に、カルミラは満足そうに鼻を鳴らす。


「フン。まぁ、良いですわ。夫からは『この人たちを食い止めろ』って言われただけですので、初心な皆様をお相手したって、罰は当たりませんよね」


 そう言うと、カルミラは強化魔法を使って一気にリュシアンとの距離を縮めると、彼の手を取ろうとした。

 その時、リュシアンとカルミアの間に竜巻が現れた。


「キャッ! 誰ですの!? 宰相家夫人であるこの私の邪魔したのは!」
「私ですわよ、カルミア」
「っ!? あなたは……!!」


 風に吹き飛ばされ、あられもない姿で転んだカルミアの前に現れたのは、メイド服に身を包んだティアーヌだった。


「お久しぶりですね、カルミア・インベック」
「ティアーヌ・サザランス!」


 醜悪な顔で睨むカルミラに対し、にっこり笑みを浮かべたティアーヌは、背後にいるリュシアン達に声をかける。


「皆さま、この人のお相手は私が致しますので、先に行かれてください」
「そんなこと、させるわけがないでしょうーが!!」
「母さん、危ない!!」


 ティアーヌの言葉を聞いて、激高したカルミアが火属性の魔法陣を展開し、焦ったリュシアンが大剣を突き立てて透明な魔力を流そうとした。

 だが、それを横目で見たティアーヌは、笑みを浮かべたまま優雅に懐から扇子を取り出すと、風属性の魔法陣を展開する。


「《ファイヤーブラスト》!」
「《ウィンド》」


 カルミアの火属性の中級魔法と、ティアーヌの風属性の初級魔法がぶつかり、相殺された。


「ど、どうして……!」


 中級魔法が初級魔法に打ち消され、愕然カルミアに対し、満面の笑みを浮かべたティアーヌは、背中越しにロスペルに話しかける。


「ロスペル! やはりあなたの言う通り、あの男の影響でしょぼかったあの女の魔法が更にしょぼくなっているわ!」
「え、えぇ……そう、みたいですね」


 (それもありますが、母上の魔法が更に磨きがかかっている気がしますが)

 ロスペルは知らなかったが、ティアーヌはメイドの仕事を終え、使用人達が寝静まったタイミングで人知れず魔法の鍛錬をしていた。

 それは、ティアーヌがまだレクシャと出会う前に行っていた日課だった。


「あ、あんた! よくも宰相家夫人である私の魔法を『しょぼい』だなんて言ってくれたわね!」
「あら、違ったかしら?」


 悔しそうにしているカルミアに、貴族の夫人らしい淑女の笑みを浮かべたティアーヌは、再びレクシャ達に目を向ける。


「そういうことですので、この女のお相手は私がします。ですので、皆さんは先に行ってください」
「……本当に良いのか? ティアーヌ」


 真剣な表情で聞くレクシャに、ティアーヌは笑みを浮かべたまま頷いた。


「えぇ、もちろんですわ」


 誰もが見蕩れる美しい笑みを浮かべながらも、青い瞳に揺るがない強い意志を宿らせるティアーヌ。

 それを見たレクシャは、小さく拳を握るとリュシアン達に声をかける。


「……分かった。行くぞ、みんな」
「ちょっと!     行かせないって言っているで……!」
「《ウィンドプリズン》」
「っ!」


 顔を真っ赤にしながら喚き散らしているカルミアを、ティアーヌはさっさと風の牢獄に入れる。

 そんな彼女にリュシアンとロスペルがそれぞれ声をかける。


「気を付けて、母さん」
「待っていますから、母上」
「えぇ、分かっているわ」


 そして、ディロイスと一緒に王族の傍にいたレクシャとアイコンタクトを交わすと、ティアーヌは意識をカルミラに戻した。
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