木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第8章 波乱と因縁の建国祭

第503話 メストの決意

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 ※メスト視点です



「メスト」


 悔しさに苛まれる俺にシトリンが悲しそうな目を向ける中、公爵様が静かに問い質す。


「それなら、君は娘のことを諦められるのかい?」
「っ!」


 ハッとして顔を上げると、そこには険しい顔をした公爵様がいた。


「何を、言って……」
「今の私にこのようなことを言う資格が無いのは分かっている。それでも、言わせてくれ。君は傷つけた娘を諦めることが出来るのか?」
「出来るわけありません!!!!」


 そんなの出来るはずがない!


 だって、俺は……



「俺は、今でも彼女のことを愛しています!! だから、彼女のことが諦めるなんて出来ません!!」


 記憶を思い出したから尚のこと、彼女のことが諦めきれない!

 だから、後悔している!

 だから、こうして懺悔している!

 彼女のことを今でも愛しているから!

 すると、脳裏にカミル……いや、フリージアと再会した時のことが蘇る。

 彼女は、鎧を着た俺に冷たい目を向けていた。

 あの時は、単に騎士が嫌いなのだと思っていた。

 けど、今ならそれは違うと分かる。

 彼女は『自分に関わって欲しくない』という切なる願いを抱えて俺に冷たい目で見ていたのだろう。

 そして、彼女はあの時、『自分のことを覚えていない』という胸が張り裂けそうな悲しい事実を人知れず耐えていたのだろう。

 そんな彼女に、あの時の俺は申し訳なさを感じていた。

 平民を守るはずの騎士が危害を加え、それを平民だった彼女が食い止めていたのだから。

 でも、初めて彼女が戦っているところを目にした時、俺の中にあった申し訳なさは吹き飛んだ。

 自分より大柄な男にも怯えず、近くにいた平民達を守ろうと抗う彼女が、とても高潔で申し訳なく思うことが失礼だと思ったから。

 そして、気高くて勇気のある彼女に、俺は『彼女のようなどんな状況でも冷静で、誰かを守れる人間になろう』と決意した。

 だから、平民の彼女に弟子入りしたんだ。

 そしていつしか、偽りの婚約者の存在などどうでも良くなるくらい、俺は彼女の隣にずっといたいと願ってしまった。

 こうして思い返すと、俺は彼女の記憶が無くても、知らず知らずのうちに彼女に惹かれていたんだな。


『お前が俺の婚約者だったら、どれだけ良かったのだろうか?』


 建国祭前、星空の下で彼女に吐露した本音。

 それは、記憶が無かった頃の俺の本心。

 そして、記憶を取り戻した俺が抱くたった1つの願い。

 一頻り声を荒げた俺に、シトリンと陛下が言葉を失う。

 そんな中、深く息を吐いた俺は、険しい顔をしたまま動じない公爵様の宝石のような淡い緑色の瞳を見つめる。


「サザランス公爵様」


 彼の名前を口にしてすぐ、俺は深々と頭を下げる。


「俺にチャンスをください! 彼女の隣に立つチャンスを!」


 知らなかったとはいえ、彼女を傷つけた。

 そんな俺は、もう彼女の隣に立つことなんで出来ないかもしれない。

 それでも、俺はあの頃のように彼女の隣に立ちたい!

 気高くて負けず嫌いで、そして、お人好しで優しい可愛い彼女の隣に!

 深々と頭を下げる俺を見て、公爵様が深く息を吐く。

 その刹那の時間が、俺には長く感じた。


「メスト君」
「はい」
「どうか、顔を上げてくれないか?    君に頭を下げさせたと娘にバレたら、私が怒られてしまう」
「は、はぁ……」


 言われるがままゆっくり顔を上げると、そこには柔和な笑みを浮かべた公爵様がいた。


「君が今でも娘のことを愛しているのは理解した。だが……」


 そう言った後、公爵様は静かに首を横に振る。


「それを決めるのは私じゃない。フリージア……我が愛する娘だけだ」
「そう、ですか」


 そうだ、俺たちが婚約した時。

 公爵様は『娘が初めて好きになった人と、政略ではなく両想いになれる日を待っていた』とおっしゃっていた。

 つまり、公爵様は当主としての判断ではなく、フリージアの意思を尊重した。

 だったら、やれることは1つだ。


「ならば、私が先導役をして皆様をコロッセオに案内してもよろしいでしょうか?」
「メスト、それは……!」


 心配そうな目を向けるシトリンに、俺は小さく頷く。


「どれだけ危険かは分かっている。だが、今の俺が彼女の隣に立つためには、こうするしかない」
「メスト……」


 今の俺が彼女の隣に立つために出来ること。

 それは、コロッセオで孤軍奮闘頑張っている彼女のもとに、この場にいる全員を連れていくこと。

 俺の決意にシトリンが不安を募らせていると、公爵様が静かに首を縦に振る。


「分かった。今回の警備に加わっている君なら安心して任せられるだろうし、私も君のところも団長君も、王族護衛で離れられない。それに、リュシアンとロスペルは、ティアーヌや君の父親と共に殿を務めるだろうし、シトリン君も満身創痍のままだ」
「公爵様、僕でしたら……!」
「ありがとうございます。この役割、必ず果たしてみせます」
「メスト!」


 シトリンが心配を募らせているが、今の俺にはこれしかない。

 だから……待っていろ、フリージア!

 今、助けに行く!
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