木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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最終章 木こりと騎士は……

第545話 ノルベルト・インベック③

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「ん?    これは?」


 俺が親父の側近として働く傍ら、転移魔法で領民達に改竄魔法をかけ始めて7年、領民達はすっかり俺の傀儡になり、俺の言うことに絶対服従だった。
 『これで、世界征服にまた一歩近づいた』と愉悦に浸り、ダリアの2歳の誕生日を盛大にお祝いした翌日、俺は領主の屋敷の地下に保管してある古い書物を漁っていた。

 世界征服に使える物が無いか見つけ出すためだ。

 すると偶然、インベック家の先々代当主にあたる俺のジジイが、若い頃、この国に結界魔法を張ろうと奔走していたことが記された日記が見つけた。

 どうしてここにあるのか分からないが。

 思わず眉を顰めた俺は、少しカビ臭い日記を開いて読み始める。

 そこで俺は、この国を覆っている結界魔法の維持にインベック家が加担していることを知る。


「『各地に敷かれた結界維持のための魔法陣は、インベック家が管理しているが、結界維持には王族の魔力が必須になるため、結界の核となる魔法陣は王族が管理している』か……おっ?」


 王宮の地下深くにある王族しか立ち入れない部屋にある結界の核となる魔法陣があると知った時、別の書物が視界の端に映り、思わず手に取って読んだ。

 そこには今から約300年前、現在のサザランス公爵領がまだインベック公爵領だった頃、太古の昔に使われた『古の魔法陣』と呼ばれる巨大な魔法陣を管理していたという内容が書かれていた。

 今は、サザランス公爵家が管理しているらしいが。


「どれもこれも、親父が俺に教えなかったものばかりだ」


 一通り読み終えた俺の手が怒りで震える。

 恐らく、弟はこのことを知っているはずだ。

 あいつは、親父のお気に入りだったから。


「これも全て、改竄魔法のせいだ」


 俺が改竄魔法が使えるせいで、大昔の先代と同じ力を持っているせいで、こんな大事なことを教えてくれなかった。

 次期伯爵にも関わらず。


「本当、大昔の先代はろくでもないことをしやがったせいで、家族からの評判もガタ落ちだ」


 何も関係ない無い俺にまで影響を及ぼすのだから。


「一先ず、親父にこのことが本当なのか聞こう」


 インベック家が魔法陣の管理に関わっているのかを。

 そして、サザランス公爵領にかつてインベックが管理していた魔法陣があることも。


 大きく深呼吸をして怒りを鎮めた俺は、魔法陣のことが書かれた本を2冊持ち、転移魔法で王都のタウンハウスに戻る。

 辺りはすっかり暗くなっていたが、真偽を確かめたい俺には関係無い。

 屋敷入って早々、親父のいる執務室に向かった俺は、持ってきた本に書かれていたことが本当か問い質す。

 すると、仕事をしていた親父の手が止まり、深い溜息をついた。


「ついに、知ってしまったか」
「っ!     だったら……!」


 すると、親父の瞳が冷たく光る。


「今のお前に、国の大事な魔法陣を管理させるのは、あまりにも危険すぎる。故に、伯爵位はお前に継がせるが、結界の管理はお前の弟に任せることにする」
「はぁ!?」


 闇魔法使いを輩出するインベック家で、珍しく闇魔法が発現しなかった、俺より遥かに劣っているアイツに結界の管理を任せるだと!?


「ざけんじゃねぇよ、クソ親父! この俺がインベック家の当主になるのだから、俺が結界の管理をするのが当然だろうが!」


 怒りに任せて声を荒らげる俺に、椅子から立ち上がった親父も負けじと声を荒らげる。


「ふざけるな! 改竄魔法で好き勝手しているお前に国の大事な結界の管理を任せられるか!」
「っ!?」


 親父、知っていたのか!?

 今まで何も言ってこなかったから、てっきり知らないものだと思っていたが!?

 一瞬だけ虚をつかれた俺だったが、すぐさま表情を取り繕う。



「ハッ? 一体何の話をしているんだ? そもそも、タウンハウスにいる俺がここからかなり離れたクソ田舎にいる奴らを改竄魔法にかけた証拠でもあるのかよ!」


 改竄魔法は精神系の闇魔法。そう簡単に証拠なんて出るはずがない。

 すると、親父が突然、俺を見て鼻で笑った。


「フン、ノルベルト。お前は我が家が代々、闇魔法使いを輩出する家ということを忘れたみたいだな」
「は?」


 いきなりなんだ?

 眉を顰める俺に、鼻で笑った親父は傍にいた執事に目を向ける。
 すると、小さく頷いた執事が部屋を出てしばらく、領地の屋敷で領地管理を任されている執事を連れて戻ってきた。


「ど、どうして……!」


 こいつは、俺の命令で領地の屋敷から1歩も外に出れないはずだ!

 驚きを隠せない俺を見て、親父が得意げに話し始める


「前々からお前の行動が気になっていたからな。お前が領地に行っている隙に、部下に頼んで転移魔法で彼を連れてきた。そして……」



 唖然とする俺に、笑みを深めた親父が今まで口にしなかった事実を告げる。


 
「『記憶干渉魔法』という闇魔法を使い、彼から同意を取った上で、彼の記憶に干渉させてもらった」
「記憶干渉魔法?」
「あぁ、読んで字のごとく、他人の記憶を魔法で干渉出来る魔法で、私が使える闇魔法だ。そう言えば、お前には言っていなかったな」
「っ!?」


 それじゃあ、親父が俺の計画を知っていたのは……!


「ついでに、私が干渉した記憶は記録用の水晶に移すことも出来る。こうしてな!」


 そう言うと、親父は懐から水晶を取り出し、そのまま魔力を流す。

 すると、部屋の天井に半透明の巨大な長方形の板が現れ、そこに俺が改竄魔法を使って領地の管理を任されている執事の記憶を改竄魔法で、改竄する瞬間が映し出された。

 嘘だろ?

 茫然自失の俺に、笑みを潜めた親父が俺の頭を掴む。


「良いか、これは警告だ。これ以上、余計な真似をするな。さもなくば、インベック伯爵家当主の名の下、伯爵位は弟に譲り、お前には私の持っている爵位の1つである男爵位を継いでもらう」
「っ!!!!」


 今まで何度か親父に怒られた。
 だが、ここまで恐怖心を駆り立てるような気迫を纏った親父から怒られたのは初めてだった。

 地を這うような凄みのある低い声で親父から怒られた俺は、初めて感じる恐怖に身を震わせる。

 そして、胸の奥底からどうしようもない悔しさが込み上げた。
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