木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
5 / 606
第1章 木こりと騎士は再会する

第5話 各々の言い分

しおりを挟む
「お前達! 一体、何をやっている!!」
「「っ!?」」


 メストの怒鳴り声に、肩を震わせた木こりとアルジムは揃って剣を降ろすと、そのまま声がした方に向けた。

 (どうして、あなたがここに……)

 騎士と平民が一触即発しているところを目の当たりにして怒りを露わにするメストに、木こりは一瞬だけ目を丸くしていると、2人の姿を見たアルジムが剣を落とした。


「メッ、メスト様に、シトリン様!?」


 王都の見回りを主な任としている第一騎士団の下級騎士であるアルジムにとって、王族の警護を主な任務としている近衛騎士団の上級騎士である2人は、頭の上がらない上司である。
 そんな彼らの登場に顔を青ざめさせたアルジムは、落とした剣に気づくこともないままメストとシトリンがいる方に恐る恐る一歩を踏み出した。


「あっ、あの! どうしてこちらに……」
「『どうしてこちらに?』だと?」
「ヒッ!」


 (さすが『氷の騎士』の異名を持つお方。睨まれただけで氷漬けされそうだ)

 メストの氷のような鋭い眼光を向けられ、小さく悲鳴を上げたアルジムの体は恐怖で硬直した。
 そんな彼に小さく溜息をついたシトリンは、目が笑っていない笑顔でこの場に来た理由を告げる。


「それは、巡回中に女性の悲鳴が聞こえたからだよ。それで急いで来たんだけど……これは一体、どういうことなのかな?」
「ヒィィィィ!」


 (怖い、シトリン様もメスト様に負けず劣らず怖い!)

 シトリンからの尋問に、額から滝のように汗を流し始めたアルジムが、木こりのことを視界に入れると、指差しながら保身に走った言い訳をしはじめた。


「ええっと、こっ、これはですね! 俺と対峙していたが、ので、のですよ!」
「えっ、そうなの? それにしては君と対峙している彼は、どこからどう見ても君から親子を守っているようにしか見えないだけど?」
「そっ、それは! ついさっきまで、私とそいつが剣を交えていまして、それで場所が入れ替わってしまったのですよ」
「そうなのか? どうなんだ、そこの君?」


 メストから視線を向けられた木こりは、無表情のまま口を開いた。


「『そこの君』とは、私のことでしょうか?」
「あぁ、そこの肥え太った騎士と対峙している君のことだ」


 その瞬間、6人のやり取りを静かに見守っていた野次馬達の視線がより冷ややかなものになった。


「……ねぇ、メスト。今、変なこと言った?」
「いや、変なことは口にしていない」
「そうだよね……」


 野次馬達からの容赦ない冷たい視線に、メストとシトリンは互いに顔を見合わせると揃って首を傾げた。
 そんな2人を見て小さく溜息をついた木こりは、話を戻そうとわざと咳払いをした。


「コホン。それより、今目の前にいる騎士様が言っていることは本当なのかってことですよね」
「あっ、あぁ。そうだ。アルジムが言っていることは本当なのか?」


 真剣な表情で問い質すメストに、木こりは小さく口元を引き締めると無表情でアルジムの方を一瞥した。
 そして、2人の騎士に視線を戻すと口を開いた。


「まぁ、あなた様方の同胞がそう仰っているのですからそうなのではないでしょうか」


 (そうよ。この人達も所詮、無実の親子に冤罪をかけて剣を向けた騎士と同じ。平民風情が何言ったって無駄よ)

 複雑な気持ちを抑えつつ、他人事のように答えた木こりに、メストとシトリンが再び首を傾げたその時、恐怖に震えていた少年が声を張り上げた。


 ◇◇◇◇


「違うよ!!」
「なっ!」


 少年の声に一瞬だけ目を見開いた木こりと、驚きの声をあげたアルジム。


「それは、どういうことか教えてくれるかな?」


 勇気を振り絞って訴えてくれた少年から詳しい話を聞こうと、メストが親子に近づいた瞬間、木こりが突然降ろしていたレイピアをメスト向けてきた。


「何のつもりだ?」
「あなた様が、そちらにいらっしゃる騎士と同じことをこの親子にしない保証がありませんので、無礼を承知で剣を向けました」
「つまり、親子の身の安全を守るために俺に剣を向けたってことか?」
「そういうことです。あなた様もですから」


 (本当はこんなことしたくない。でも……!!)

 無表情でレイピアを突きつける木こりに、僅かに表情を歪ませたメストは、少年を鬼の形相で見ているアルジムを一瞥するとそっと息を吐く。


「分かった。それで、俺のことを少しでも信用してくれるなら構わない」
「メスト!?」
「メスト様!?」
「シトリン。彼が俺を警戒するのは致し方ない。むしろ、剣を向けられただけで少年と話せるなら今はそれで良い」
「メスト、君ねぇ……」


 呆れたように溜息をつくとシトリンを一瞥したメストは、木こりの後ろに隠れている少年と視線を合わせた。


「それで、何が違うんだ? 少年」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...