木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第8話 怠惰な真実

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「あの、私たち、本当にこの馬車に乗ってもよろしいのでしょうか?」
「もちろん。その為に用意したものなのですから」
「そ、そうですよね……」


 木こりが立ち去った後、メストとシトリンは当事者である親子と共に、事広場にいた下級騎士に手配させた馬車に乗った。

 (相変わらず騎士団らしくない豪勢な馬車だな。これをうちの団長が見たらどう思うのだろうか?)

 シンプルな装飾ながらもどこか気品を漂わせる大きな馬車に、騎士とは思えない豪快な性格をしている今の近衛騎士団団長のことが頭をよぎったメストは苦笑を漏らす。
 そして、視界に映った親子の反応に目を向けた。


「ねぇ、母ちゃん見てみて! この馬車、すごく早いよ!!」
「こら! 大人しくしなさい!」


 (息子の方は大喜びしているが、母親の方は妙に浮かない顔しているな……まぁ、乗る機会があまりない馬車だからそういう反応になるのだろうが)

 見慣れた街の風景があっという間に過ぎ去る光景に、少年は膝立ちになりながら目を輝かせて、隣に座っていた母親は困り顔で息子のことを諌めていた。
 そんな親子の微笑ましいやり取りをメストは、親子を馬車に乗せた時の御者の態度を思い出す。

 (そういえば、この親子を馬車に乗せた時、御者があからさまに嫌そうな顔をしたのはなぜだ?)

 妙に不満顔の御者を一瞥したメストは、そのまま息子の世話を焼いている母親に声に目を向けて声をかけた。


「あの、こういう馬車で乗って気が引けるのは分かります。私も、騎士団に所属していますが、騎士団が所有する馬車に乗る機会がそんなにありませんから」
「えっ!?」


 忙しなく息子の世話をしていた母親の手を止まった。

 (あれっ? 緊張を解そうとしたのだが、何だか思っていた反応と違う)


「あっ、あの……無礼を承知で伺いますが、あなた方は騎士様なのですよね?」
「えぇ、そうですね」
「とは言っても、僕とメストが王都に来たのはつい最近なのですが」
「なるほど、だから知らないのですね」
「「えっ?」」


 シトリンの言葉に納得した母親に対し、メストとシトリンは揃って眉を顰める。

 (基本的に騎士の移動手段は馬か徒歩だ。そうしないと、今日のような暴動が起きた時、すぐに駆けつけることが出来ない)


「つかぬ事を伺いますが、『知らない』とはどういうことでしょうか?」
「あっ、すみません。無礼なことを……」
「良いのです。シトリンも言っていましたが、我々がこの王都に来たのはつい最近なのです。ですから、是非とも教えていただきたいのです」


 (思えば、あんな騒ぎがあったにもかかわらず、野次馬達は誰一人として逃げなかった。まるで、あの騒ぎが日常茶飯事のように起こっているようで……)


「でっ、では失礼して……」


 御者の方を一瞥した母親は大きく息を吐くと、内緒話をするように前かがみの姿勢になり、目の前にいる2人に小声で話しかけた。


「お2人は王都に来たばかりですからお伝えておきますが……この馬車、実は普段から騎士様が移動手段としてよ使んです」
「「えっ!?」」


 ◇◇◇◇◇


「それは、本当のことなんですか?」


 (この馬車が、日常の移動手段として使われているなんて)

 俄かには信じがたい事実に言葉を失っているシトリンをよそに、少しだけ険しい顔をしたメストが小声で母親に問い質す。
 すると、母親が小さく頷いた。


「えぇ、そうですよ。先程、あなた方が連れ去った騎士様もこの馬車を使って王都を散策していましたから」
「はいっ!?」


 (『連れ去った騎士』って、アルジムのことか! しかもあいつ、この馬車を使って哨戒していたのか!)

 無実の平民に対して剣を向けた騎士の怠惰さに、2人の騎士は表情を強張らせつつも、心の中では腸が煮えくり返った。
 そんな2人を見た母親は、そっと体を起こすと外の風景に視線を移す。


「まぁ、ですけど」


 そう呟いた視線の先には、王都の中心に聳え立っている王城があった。
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