木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
14 / 606
第1章 木こりと騎士は再会する

第14話 酔っ払い騎士と木こり(後編)

しおりを挟む
「『剣を交えるのに値しない』だと?」


 木こりの言葉を反復したリースタは、怒りで肩を震わせる。

 リースタ・アイシャンは由緒正しい子爵家の次男で、その恵まれた体格と武に秀でているアイシャン家に代々受け継がれる抜群の戦闘センスで、騎士学校を主席で卒業。
 そのまま騎士団に入団した彼は、第二騎士団で類まれな才能を遺憾なく発揮し、次々と武勲をあげる。
 その結果、若くして上級騎士となったリースタは第一騎士団に所属になる。
 そんな輝かしい功績とは裏腹に、下級貴族や下級騎士に対して傲慢で横柄な態度をとり、上級騎士や自分より爵位が上の貴族にはとにかく媚び諂っていた。
 そんな貴族らしい性格のリースタは、毎日のように気に入らない平民達を『躾』と称して得意の斧を振るったり、アイシャン家の得意魔法である風魔法を放ったりして快楽を得ていた。

 (数多の魔物を狩ってきた俺の……強化魔法で鋭利でより洗練された俺の攻撃が、こいつにとって剣を交えるのに値しないなんて、絶対にありえない!)

 リースタの怒りに満ちた表情に、小さく溜息をついた木こりは肯定するように頷いた。


「えぇ、あなたの攻撃は単純すぎるので、わざわざレイピアを構えなくても躱せます」
「な、何だと!?」


 (この俺の攻撃を単純呼ばわりとは……そうだ!)

 無表情の木こりから淡々とプライドをへし折られたリースタは、アルコールの回った頭で何かを思いつくと口元を歪ませた。


「そうか。それじゃあ、俺の攻撃が単純じゃなければ剣を構えてくれるんだな?」


 (そう言えばこいつ、俺が斧に魔力を纏わせている時と魔法を放つ時に剣を構えていたな)


「だったら、もう一度我が自慢の戦斧に魔力を纏わせるだけだ!」


 強化魔法を解いたリースタは、すぐさま斧に緑色の魔力を纏わせると勢いよく振り下ろした。


「アハハッ! これならどうだ!!」


 下品に嗤いながら得物を振り下ろすリースタ、再び溜息をついた木こりは、透明な魔力を纏わせたレイピアで攻撃を受け流した。


「おぉ! やはりそうか! それじゃあ、ここから更に楽しくやろうじゃないか!」


 嬉々として笑ったリースタは再び魔力を纏わせると、木こりの顔面や急所に向かって何度も斧を振り下ろしたり振り回したりした。




「メスト、あれ!」
「っ! リースタ、あの野郎……!」


 集まった人達から侮蔑にも似た冷たい視線を受けつつ、避難誘導を済ませたメストとシトリンは、魔力を纏わせた斧を嬉々として振り下ろすリースタと、それを無表情で受け止める木こりを目の当たりにする。


「あの木こり君、中々やるねぇ」
「あぁ、そうだな」


 (だが、どうしてここにきて剣を構えた? さっきまで、剣を構えることもなく、平民とは思えない身のこなしで軽々とリースタの攻撃を躱していたのに……それに。レイピアに纏わせているものって、もしかしなくても彼自身の魔力か?)


「メスト、彼だっていつまでもリースタの攻撃を躱せるわけじゃないんだから、さっさと捕らえるよ」
「っ!! 分かっている!」


 人質がいない今、アイコンタクトを交わしたメストとシトリンは、リースタに向かって手を伸ばし、各々得意とする属性魔法の魔法陣を展開して放つ。


「《アイスニードル》!!」
「《ウィンドチェイン》」


 氷属性を得意とするメストの氷の針でリースタの足元を凍らせると、リースタと同じ風属性を得意とするシトリンの風の鎖でリースタの大きな体躯を縛る。


「なっ! き、貴様らよくも……!!」
「リースタ、いい加減大人しくするんだ!」
「そうですよ。じゃないと、あなたの首も危うくなります」
「チッ! どちらも中級魔法だからそう簡単に解けないな。だったら……」


 メストとシトリンの魔法で攻撃の手を止められたリースタは、残っている魔力を全て使い、足元に巨大な魔法陣を展開した。


「っ!? リースタ、一体何を……!?」
「ハッ! こうなったら、俺のとっておきの上級魔法で解くんだよ!」
「お前! そんなことをしたら……!」


 険しい顔をしたメストが再び魔法を放とうと手を伸ばした瞬間、突然木こりがリースタの前に立った。

「「なっ!!」」


 (どうしてリースタの前に彼が!!)

 呆気に取られるメストとシトリンに対し、リースタは悪い笑みを浮かべる。


「お前、実は自殺願望でもあったのか?」
「…………」


 リースタの問いかけを無視した木こりは、レイピアの切っ先を緑色の魔法陣に触れさせると小声で何かを呟いた。


「《直接干渉》」


 その瞬間、足元に広がっていた魔法陣が
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...