木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第20話 判断の裏側

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 ダリアが去った後、騎士団に戻ったメストとシトリンは、あっという間に報告書を纏めて上げた。
 そして、それを持って騎士団で一番大きい執務室の主でありペトロート王国の全騎士団を纏め上げる近衛騎士団長フェビル・シュタールのもとを訪れた。


「ふむ、『アルジムに続いて、リースタも平民に対して横暴を働いた』と……俄かには信じ難いな」


 2人の部下から渡された報告書に目を通したフェビルは、机の上に紙束を放り投げると難しい顔で腕を組んだ。


「ですが、アルジムの件とは違い、リースタの件は私とシトリンが直接この目で確認しました」
「そうだよな……お前たちが嘘をつくとは到底思えないんだよな」


 背もたれに体を預けたフェビルは、天井を見上げると深く息を吐く。


「さて、はどういう処罰を下されるか」
「宰相閣下ですか?」


 (どうして騎士の愚行に対する処罰を、騎士団の長ではなく国王の補佐であり政務面を司る宰相閣下が下すんだ?)


「っ!? しまっ……!」
「団長、どうして騎士の愚行に対する処罰を宰相閣下が下すのですか?」


 咄嗟に口元を手で覆ったフェビルが顔を歪ませながら目線を明後日の方向に向けると、柔和な笑みを浮かべたシトリンが、目の前にある机に両手を置いた。


「いっ、いやな、シトリン。そんな冷たい目を俺に向けるなって。それに、そんな言い方じゃあ、まるで俺がろくに仕事していないただのお飾り団長に聞こえるだろうが」
「えっ、お飾り団長ではないのですか?」
「違う! 俺はちゃんと騎士団長として仕事をしている!」
「本当ですか?」
「本当だ!」


 見た者を氷漬けに出来そうな目で詰め寄るシトリンに、視線を彷徨させていたフェビルは、観念したように大きく溜息をつくと赤茶色の短髪を乱暴に掻き乱した。


「本当は、言うつもりじゃなかっただが」
「それは、ご自身がお飾り団長であると受け取ってよろしいですか?」
「おいメスト! お前までシトリンのようなことを言うんじゃねぇ!」


 信頼を置く2人の部下からの容赦ない口撃を受けたフェビルは、大きく肩を落とすと申し訳なさそうな顔で2人に視線を戻す。


「実は、アルジムを無罪放免にしたのは俺じゃなくて宰相閣下なんだ」



「えっ?」


 (アルジムを無罪放免にしたのは、団長じゃなくて宰相閣下だったのか?)

 唖然とするメストの隣で、目が笑っていないシトリンが、見えないブリザードを起こしながら笑顔で詰め寄る。


「団長。そもそもどうして、宰相閣下が騎士を無罪放免に出来たのですか? 本来、問題を起こした騎士を処罰出来るのは、全騎士のトップである団長だけなのでは?」


 シトリンから痛いところを突かれ、小さく溜息をついたフェビルは渋い顔をしながら口を開いた。


「本来はそうなんだが……お前達から上がった報告を精査した上で俺がアルジムに処罰を下した後、決まりに則って陛下に報告しに行ったんだ」


 ペトロート王国では騎士が不祥事を起こした場合、騎士団長が自ら処罰した後、国王陛下に報告しなければいけないという決まりがある。


「そしたら、陛下の隣で控えていた宰相閣下が突然『アルジムは私が懇意にしている騎士の1人ですので、ここは宰相である私の顔に免じて無罪放免にしていただけないでしょうか?』って言ってきたんだ」
「っ!? それって、完全に宰相の私情による忖度ではありませんか!」


 (団長が下した処罰に対して口を挟むこと自体、御法度だというのに……!)

 唖然とするメストの隣で、冷たい表情のシトリンは上司に鋭い目線を向け続けたまま口を開く。


「それで、団長は意見したのですか?」
「もちろんした。『これは、騎士の問題ですから宰相閣下は口を出さないでいただきたい。そもそも、アルジムの処罰は既に騎士団長である私自らが下しています』と」


 (さすが団長。王都に来てから変わったと思っていたが……どうやらその認識は間違いだったようだ。俺たちの団長は、第二騎士団にいた頃から何も変わっていなかった!)

 再び厳しい顔で腕を組むフェビルを見て、メストは強張っていた表情を僅かに崩した。
 だが、メストと同じく安堵しているシトリンは、上司に対して追及の手を緩めなかった。


「では、どうして彼が無罪放免になったのです? 宰相閣下と騎士団長は対等な関係であるから、互いに協力をしつつも長の判断には基本的に口出しは厳禁ですよね?」
「あぁ、本来なら口出し厳禁だ」


 ペトロート王国では暗黙の了解として、国の政と防衛を司る宰相と騎士団長は対等な関係であるため、協力をしつつも互いの判断に口を出してはいけないというものがある。
 もちろん、国を害する場合は口を出しては良いが、それは国のトップである国王から意見を求められた場合に限る。
 そうしなければ、国のバランスが取れなくなるからだ。

 (今回の場合、騎士アルジムが不祥事を起こしたから騎士団長自ら処罰を下した。その処罰に、宰相閣下が口を出すことは出来ないはず……)


「だが、宰相閣下が『この方は、近衛騎士団長に就いてから日が浅いので、こういうを下してしまったのでしょう。ですから、ここは無罪放免が適切かと』って陛下に進言したせいで、それを真に受けた陛下が俺にアルジムを無罪放免にするよう命じたんだ」
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