木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第51話 月下の約束

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「あの、気は確かですか? それとも、魔物討伐でどこかをやられましたか?」


 メストの突然の弟子入り宣言に、周囲にいた騎士が言葉を失う中、困惑の表情をした木こりが遠慮がちに声をかける。
 すると、メストの近くにいたシトリンが困ったような顔で彼の肩を掴んだ。


「そうだよメスト。手合わせはまだしも、弟子入りって……そんなこと、団長と副団長が許すとは思えないよ」
「いや、私はまだしも団長でしたら『それ、面白そうだな! ついでに俺も混ぜてくれ!』って言って許すような気がします」
「あぁ……」


 (確かに、面白もの大好きなあの人なら言いそう)

 フェビルが辺境の第二騎士団長だった頃、魔物討伐の依頼が来る度に、フェビルは楽しそうに無茶や無謀を前提とした作戦を嬉々として立案し、自ら騎士団を率いて実行していた。
 そんな上司の嬉々とした表情を思い出し、シトリンとグレアは揃って溜息をつくと、それを一瞥したメストは小さく笑みを零し、馬上にいる木こりへ視線を戻す。


「お気遣い感謝します。ですが、今の私は正気ですし、第二騎士団で日夜魔物討伐に明け暮れていた頃に比べれば、あの程度の魔物討伐でやられることなんてありえませんよ」


 今回の魔物討伐を『あの程度』と言ってのけたメストに、王都勤めの騎士達から小さな悲鳴を上がるが、手合わせと弟子入りを懇願されている木こりはそれどころじゃない。
 
 
「そ、そうですか……ですが、弟子入りはともかくとして、どうしてわざわざ平民の私と手合わせを? 手合わせの相手なら他にもいらっしゃるでしょう?」


 (それこそ、騎士同士で手合わせをお願いすればいい)
 
 戦いの中、騎士達の動きを見ていた木こりは、自分が知っている騎士の動きとは明らかに違うものの、洗練された魔法や剣裁きで魔物と倒せる彼らの実力を改めて痛感した。
 だからこそ、手合わせをするなら騎士同士の方が良いのではないかと思った。
 
 自分達の会話を静かに聞いている騎士達を見回して問い質すと、笑みを潜めたメストが小さく首を横に振る。


「いえ、私はどうしてもあなた様と手合わせして、叶うことならば弟子にして欲しいのです。愚行を犯した騎士達や数多の魔物達に、たった1人で立ち向かった勇敢なあなた様と」
「どうして、そこまでして……」


 (そこまでして、私に関わりたいの?)
 
 騎士と関わり合いたくない木こりは、一刻も早くこの場から離れたかった。
 それ以上に、木こりは目の前にいる人とこれ以上言葉すら交わしたくなかった。
 
 自分がことが分かっていたから。
 
 そんな木こりの複雑な心境など知る由もないメストは、剣を降ろすと左胸に手を当てた。


「それは、私があなたの戦いぶりに一目惚れしたからです」
「っ!?」


 (他の騎士達が見ているのを分かっているはずなのに、どうしてあなたはそんな堂々と言えるの?)

 騎士が平民を称えることは、今のペトロート王国では暗黙の了解で許されないことである。
 
 だが、月明かりに照らされたメストの真っ直ぐな言葉に迷いや噓偽りは一切なく、思わず息を呑んだ木こりは小さく溜息をつくと少しだけ思案する。
 そして、周囲にいる騎士達を再び一瞥すると、行く手を阻んでいる騎士に視線を戻した。


「でしたら、明日か明後日の昼、この森に来てくれませんか? 今日はもう遅いですし、魔物討伐で私だけでなく騎士様達も疲労困憊だと思いますから」


 無表情の木こりが妥協案を提示すると、メストの澄んだ水色の瞳が期待に光る。


「そうすれば、俺と手合わせしていただき、弟子にしてくれるのですか!?」
「っ!」


 (どうして……どうして、あなたはそんな嬉しそうな顔を私に向けるの!? 本当は、私はあなたと剣を交えることすら許されない平民で弟子入りなんて無理なのに!)
 
 心底嬉しそうな顔をするメストに、一瞬苦い顔をした木こりは小さく息を吐くと軽く頷いた。


「えぇ、この森に来ていただければ、お望み通り手合わせ致しましょう。ですが、弟子入りの件は勝敗次第で考えさせていただきます。よろしいですね?」
「分かりました。それでは明後日の昼、こちらに伺います」


 満面の笑みで深々と頭を下げるメストを見て、木こりは再び苦い顔をする。

 (本当は、私はあなたと手合わせしたくない。そんなことをしてしまえば、私は……でも、あなたの嬉しそうな顔を見るとどうしても許してしまう。それは、あなたが……)
 
 嬉しそうなメストとは反対に、木こりは複雑な心境だった。
 すると、近くで2人の会話を聞いていたシトリンが、メストの隣に立つと木こりに向かって手を上げた。


「それなら、審判役はいらない? 一応俺、この人の相方であり幼馴染だから、万が一、メストが君に危害を加えようとした時に力ずくで止められるよ」
「おい、シトリン! 余計な真似をするな! 俺が、この人に危害を加えることなんて……」
「構いませんよ」
「えっ?」


 呆気に取られるメストをよそに、木こりは無表情のまま楽しそうに笑うシトリンに視線を移す。


「私はこの通り、ただの平民ですから万が一、何かしらあった場合、対応してくださる方がいらっしゃると助かります」
「審判役じゃなくてそっちの方ね……そもそも、ただの平民がレイピアを使って魔物を討伐することなんて、本来ならなんだけど」


 苦笑するシトリンを一瞥した木こりは、固まったままのメストに視線を戻す。


「それでは明後日、この森でお会いしましょう」
「あ、あぁ……分かった」
「では、失礼します」


 馬上から綺麗に頭を下げた木こりは、手綱を勢いよく降ろすとステインを走らせ、急に騒がしくなった騎士達の声を聞きながら、夜の森を駆けた。
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