木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第52話 妹、だよな?

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「ただいま~」


 魔物討伐から帰ってきた木こりは、ペンダントに血を垂らして結界を森と村に張り直し、ステインを馬小屋に戻して家に帰る。
 そして、真っ暗の部屋に明かりをつけ、ベレー帽とアイマスクを机に置くとベッドへダイブした。


「はぁ~~疲れた」


 (今回の魔物討伐、数自体は多かったけどたいしたものじゃなかった。けど、途中で魔物の群れが分かれたのは不覚だったわ)

 ついさっきまで戦っていたこと思い出し、シーツに向かって盛大な溜息を吐いた木こりは、そっと顔を横に向ける。


「それに、あんな約束しなきゃよかった」


『俺と、一対一で剣を交えてくれませんか?』


 (彼とまた会う約束をしなければ、こんな気持ちを思い出さなくて済んだのに)
 
 月下に言われたメストとの約束に、苦い顔をした木こりは悔しそうに真っ白のシーツを強く握り締めるとゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りについた。
 その頬には、一筋の雫が零れ落ちたことも知らずに。


 ◇◇◇◇◇ 


「どうやら終わったみたいだな」


 全身鈍色の鎧を纏い、駐屯地の監視塔から魔物討伐の状況を監視していた見習い騎士は、兜の中で安堵した溜息をつく。
 そして、後ろの長椅子でいびきをかきながら寝ている下級騎士に声をかけた。


「ランドール様、リアスタ村近くの森で確認された魔物は全て討伐されました」
「ん? んんっ……お、そうか。それなら、そろそろ副団長達が戻って来られるな」
「はい。森の近くで馬と一緒に待機していた騎士達が、早々に帰還の準備を始めていたのを確認しましたので」


 眠気まなこの下級騎士ランドールが起き上がって大きくあくびをすると、ノロノロと椅子から立ち上がって外に出ようと扉に手をかける。


「それじゃあ俺は、討伐隊の出迎え準備をしてくる」
「分かりました」


 深々と頭を下げる見習い騎士を見て、ランドールは僅かに眉を顰める。


「いいか、一応俺、貴族出身の騎士だから、お前のような平民と違って出世がかかっているんだ」
「はい」


 (そんなこと、わざわざ言わなくても知っているし分かっている)

 今のペトロート王国では、実力があれば平民貴族関係なくなれるが、平民の場合は一生見習い騎士止まりで、貴族の場合は自己申告による実績と出身貴族家の爵位に応じて出世する。
 そんな今更なことを言われ、内心で悪態をつきながらも返事をした見習い騎士に、気を良くしたランドールは蔑んだ目で指示を出す。


「だからお前は、俺が戻ってくるまでの間、見習い騎士らしく見張りを続けろ。ザール」
「かしこまりました、ランドール様」


 恭しく返事をする見習い騎士ザールに、下卑た笑みを浮かべたランドールは気分を高揚させたまま監視塔から降りた。

 
 ◇◇◇◇◇


「はぁ、やっと行ったか」


 監視塔から足音が聞こえなくなったザールは、顔を上げると大きく溜息をついた。

 (どうせ、討伐から帰ってきた騎士達に媚びを売るだけだろう。その頃には、自分の仕事なんて忘れているだろうから、ここに戻ってくることは無いはずだ)


「なんだか、貴族出身の騎士って悪い意味で忙しいんだな」
 
 
 再び溜息をついたザールは、周囲に人がいないのを確認し、見習い騎士に支給される簡素な鈍色の兜を外す。
 すると、短く切り揃えられた銀髪に淡い緑色の瞳の貴族然とした凛々しい顔立ちの青年が現れた。


「まぁでも、俺だって侯爵様の使いでなければ、こんなところ来なかったんだが」


『おい、お前! 見習い騎士なら私の代わりに監視の仕事をしろ!』
『いや、俺、ヴィルマン侯爵様の使いのザールと言いまして、こちらには近衛騎士副団長グレア・ハースキー様に用が……』
『たかが平民風情が、貴族出身のランドール様につべこべ言うんじゃない!』


 メスト達が作戦会議をしていた頃、ヴィルマン侯爵の使いとして駐屯地を訪れたザールは、偶然居合わせたランドールに捕まってしまい、そのまま監視の仕事を押し付けられた。

 
「全く、俺は駐屯地の常駐騎士じゃなくて、ヴィルマン侯爵領の騎士団の騎士なんだが」

 体格に見合った横柄な態度をとるランドールを思い出し、ザールは悪態をついて深く溜息をつくと、銀髪を気持ちよい夜風に当てながら、魔石が嵌め込まれた双眼鏡で魔物が出現した森を淡い緑色の瞳で見た。

 (それにしても、あの規模の魔物を短時間で討伐するとは……ここ最近、良い噂を聞かないが腐っても王国騎士だな)


「とは言え、あんな短時間で討伐出来たのは、騎士達が到着する前にリアスタ村から来た平民が先に討伐していたからだろうが」


 双眼鏡越しに見ていた木こりの戦いぶりを思い出したザールは、持っていた双眼鏡に力を入れた。

 (魔物の攻撃を躱す時の無駄のない動き、どう見てもものだ。しかも、身のこなしからして日頃から鍛錬を積んでいるのだろう。何より、あの細身の平民が持っていたレイピアに纏わせていた。あれは、もしかしなくても……)


、なんだよな?」


 (あの貴族令嬢としての教養があり、洗練された所作で淑女として振舞っているが、実はお茶会よりも鍛錬が大好きで、男より男勝りなじゃじゃ馬娘で負けん気が強いあいつなのか?)

 自分と同じ銀髪に淡い緑色の瞳の妹の笑顔が頭を過り、思わず下唇を小さく噛むと、森から出てきた騎士達を双眼鏡で静かに見守る。
 そして、彼らが戻ってくると兜を被ったザールは、交代のタイミングで監視塔を後にして、そのままグレアのもとを訪れた。
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