木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第64話 俺の敵は……

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「大丈夫ですよ。俺は、騎士として当然のことをしただけです。騎士が平民に手を上げるのはどう考えてもおかしいことですし、報告を上げた時点で奴らからやっかみを受けることは分かっていましたから」
「別に、心配なんて……」
「分かっています。騎士のことをそこまで良く思っていないあなたが俺のことを心配していないことくらいは」


 (違う、違うのよ。私だって本当は……!)

 口にすることが決して許されない本音を必死で隠し、俯いたまま顔を歪ませる木こりを見て、メストは柔らかな笑みを潜める。


「それに、騎士の本分はこの国の人達を守ることです。ですので、俺の敵は愚行を働く騎士ではありません」


 (そう、騎士である俺の敵は愚かな騎士ではない)

 ゆっくりと顔を上げた無表情の木こりに、騎士らしい凛々しい表情をしたメストが騎士としての本来の敵を口にする。


「俺の敵は、魔物です」
「魔物、ですか」
「そうです。俺の……騎士の敵は魔物なのです」


 瘴気の濃い場所に突如として現れ、魔力を得るために生きとし生ける全てのものを全て喰らってしまう異形の生物【魔物】は、理性は無いが人と同じ属性魔法を使うことが出来る。
 一説では、『不特定多数の人々から出る負の感情が空気と結ばれて瘴気となり、それが生物の魔力と混ざって生まれた』とされているその生物に対抗できる手段は、属性魔法が付与された武器か攻撃系の属性魔法とされている。
 
 しかし、攻撃系の属性魔法が全て中級魔法以上であるため、初級魔法1回分の魔力しかない持たない平民が、魔法で魔物に対抗することは不可能。
 また、属性魔法が付与された武器は、どんなに安くても武器1つで平民の平均年収が飛ぶので、毎日の生活で必死な平民がそのような武器を持つことはほぼ無理である。
 
 そのため、平民にとって魔物は騎士以上に畏怖すべき存在なのである。
 そんな平民達を魔物から守っているのが、国の防衛や治安を維持している王国騎士団や宮廷魔法師団だったり、金稼ぎのために様々な人達が集まる冒険者ギルドだったりする。


「ですから、俺はどうしても、魔物相手でも通用する君の回避術を教えて欲しいのです!」


 深々と頭を下げるメストに言葉を失う木こりは、そっと息を吐くと静かに立ち上がる。


「……そういう真っ直ぐなところ、変わられていないんですね」
「ん? 何か言いました?」


 恐る恐る頭を上げたメストがそのまま見上げると、メストのことを無表情で見下ろしていた木こりが小さく咳払いをする。


「コホン。本当は、私が騎士様に勝って『二度と私と関わらないでください』とお願いしたかったのですが……負けてしまいましたから仕方ありません。こんな平民の処世術でよろしければ教えましょう」
「良いのですか!?」


 勢い良く立ち上がったメストのキラキラしたアイスブルーの瞳に、ほんのり頬を染めた木こりが少しだけ僅かに頬を緩ますと小さく頷く。


「えぇ、それであなたが満足するのなら」


 その瞬間、嬉しさで吠えたメストの雄叫びが、穏やかな時間の流れる森に響き渡り、木こりの脳裏に懐かしい光景が蘇る。


『やった~! ついに、リュシアン様から1本取ったぞ!』
『おい、メスト! あれは、俺が仕方なく手加減してやったからだぞ』
『そう言って、先程シトリン様やラピスさんにも1本取られていたではありませんか』
『う、うるさいぞ! フリージア! あれも俺が手加減してやったからだ!』
『本当ですか~?』


 木剣を使った模擬試合で負け、銀髪で淡い緑色の瞳の青年は、勝って大喜びしている年下の貴族令息達にムキになっていた。
 そんな微笑ましい光景を間近で眺めていた幼い銀髪に淡い緑色の瞳の少女は、ワイワイと賑やかな4人のやり取りがとても羨ましかった。

 (私も、あの場に混ざりたかったなぁ)

 そんな遠い昔のことを思い出した木こりは、目の前で大喜びしているメストに意識を戻す。
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