木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第1章 木こりと騎士は再会する

第65話 明日からお願いします!

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「やったぞ、シトリン!! ついに、彼から教えてもらえるようになったぞ!」
「う、うん。よ、良かったね……メスト」


 子どものように両手を広げて無邪気にはしゃぐメストに対、シトリンは一歩下がると引き攣り笑いで何度も頷く。

 (全く、そういうところは子どもの頃から変わらないのですね)

 2人の騎士のやり取りに一瞬笑みを浮かべた木こりは、すぐさま無表情に戻すと2人の意識をこちらに向けるように軽く咳払いをする。


「コホン。それで、どちらで回避技習得の鍛錬をされますか?」
「そうだね。とりあえず駐屯地……は色々と無理そうだから」
「ここでいい!!」
「「えっ??」」


 興奮冷めやらぬメストが『特訓場所に!』と指定した場所に、木こりとシトリンが思わず言葉を失う。
 その視線の先には……一面、枯れ葉の敷き詰められた地面が広がっていた。


「ここって……この森で鍛錬するってこと?」
「あぁ、ここなら鍛錬をするには十分な広さと丁度いい障害物もあるからな!」


 (それに、駐屯地からそこそこ離れているこの場所なら、余程のことが無い限り邪魔の入ることは無い!)

 嬉々として辺りを見回したメストが、近くにあった木を軽く叩くと、呆れ顔のシトリンが小さく肩を落とすと溜息をつく。


「まぁ、メストが良いならここでも良いけど……君は?」
「私は別に構いません」


 (まぁ、この場所ならステインに乗って行ける距離だし大丈夫でしょ!)

 無表情の木こりから了承を得た軽くメストは、清々しい笑みを木こりに向けると頭を下げながら鍛錬の開始時期を告げる。


「それでは早速、明日からよろしくお願いします!」
「「明日!?」」


 (よりにもよって、明日から!?)

 驚きのあまり思わず声が揃った木こりとシトリン。
 そんな2人を見て、頭を上げたメストは慌てた様子で木こりに近づく。


「あの、もしかして、都合が悪かったですか!? 私としては、明日からでも全然問題ないのですが!」
「いえ、私の方は明日からでも構いません。ですが……」
「都合が悪いのはこっちだよ、メスト」


 大きく溜息をついたシトリンは、少しだけ怒りを滲ませた冷たい笑みを浮かべると、木こりに弟子入りした親友の方にゆっくりと詰め寄る。


「メスト、僕たちが一体、何のためにここへ来ているのか分かっている?」
「そ、それはもちろん! 騎士全体の戦力向上の為だろ?」
「そうだよね。それなら、明日からも訓練があるって知っているよね?」
「そ、そうだな……」


 (って、どうして俺はこいつに怒られているんだ? 彼との鍛錬と騎士団の訓練は関係無い……はず?)

 目が笑っていないシトリンに珍しく詰め寄られ、顔を引き攣らせたメストが一歩ずつ後ろに下がっていると、背中に大木が当たって逃げ場を失ってしまった。

 (し、しまった!)

 魔物討伐でも冷静沈着なメストが、珍しく焦った表情で辺りを見回して逃げ道を探す。
 それを見越していたシトリンは、メストの顔を挟むように大木に両手をついて逃げ道を塞いだ。


「ヒッ!」
「だったら、明日の訓練を優先すべきなのは一部隊の隊長なんだから分かるよね?」
「わ、分かっている! 分かっているからこそ明日からなんだ!」
「それじゃあ、何で明日なのか聞かせてもらおうかな?」


 尋問するように顔を近づけるシトリンに、メストは彼の体を勢いよく押し出して距離を取ると、大きく息を吐いて表情を引き締める。


「訓練があること隊を率いる者として理解している。だからこそ俺は、それ以外の時間を彼との鍛錬の時間に費やしたいんだ」
「それ以外の時間って?……あぁ、言っとくけど、昼食時間は却下だからね」
「分かっている。飯を抜かすなんて体が資本の騎士に出来るか」

 
 (そうだよね。隊を率いる長であり、誰よりも騎士としての誇りを持つメストがそんなこと出来ないよね)

 安堵して小さく笑みを浮かべるシトリンに対し、小さく溜息をついたメストは気まずそうに顔を背けると頭を掻いた。


「彼との鍛錬は、1日の訓練終了後の1時間か、訓練開始の1時間前にしようと思っている。それなら、問題無いだろう?」
「まぁ、朝なら問題無いけど……でも、訓練後っていつも執務室に戻って事務作業してない? 昨日だって討伐後、副団長に頼まれて魔物討伐の報告書を書いていなかった?」


 魔物討伐が終わり、駐屯地に戻ったメストがシトリンに『木こりの回避技を身につけたい』と言った後、執務室に来たグレアから魔物討伐の事後処理を兼ねた報告書を書き上げていた。
 ちなみに、シトリンはグレアの事務作業の手伝いをしていた。


「それなら、副団長に言えば問題無いはずだ。副団長も『手が空いていたら手伝って欲しい』程度にしか言っていなかったから」
「そうかもしれないけど……そもそも、副団長の組んだ訓練メニューで疲れているはずなのに、その後に木こり君と鍛錬する元気あるの?」


 (確かに、厳しい訓練後に特訓出来ないと思う。私も、仕事が忙しかった時は、王都から帰ってきた後の自己鍛錬を忘れちゃうから)

 眉を顰めながら首を傾げるシトリンからの質問に、木こりが同意するように軽く頷くとメストは珍しく悪い笑みを浮かべる。


「シトリン、いくら副団長が組んだ訓練メニューとはいえ、あれは騎士学校と同じレベルの訓練だぞ?」
「ま、まぁ、そうだけど……」


 グレアが組んだ訓練メニューは、王都でぬるま湯に浸かっていた騎士達を叩き直すための基礎的な訓練。
 第二騎士団で日々魔物討伐に明け暮れ、グレアの鬼のような訓練メニューをこなしていたメストに言わせれば、駐屯地に行っている訓練は騎士学校で行う訓練とあまり変わらないのだ。


「ちなみに昨日、報告書を書き上げた後に1時間程度自己鍛錬していたぞ」
「あ、あぁ……」
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